第41話 悪役パート:懲りない愚か者たち
「ひッひいいい! もう止めてくれえええ!」
「ギャハハハッ! クズでも王子さまは、やっぱ違うな! 良いケツしてるぜ!」
エドワード王子の絶叫と、同房の囚人たちの歓喜の声が響き渡っている。
以前であれば、耳を塞ぎたくなる騒音だったが、今はなんの感情も湧かない。
ゲス勇者に捕縛され、ヴェルジュの衛兵庁舎に突き出された自分は、口封じのためにヴェルデ女王に処刑されかけた。だが、まだ自分には利用価値があることを必死にアピールして、なんとか免れた。
そんなことを思い出しながら、冷たい石の廊下を淡々と歩き、エドワード王子が投獄されている牢前に到着する。
「はぎゃあああ! 止めろ下郎ども! 止めろ!」
「本当に締まる良いケツだ! ぶん殴ると更にキュッとしまってたまらねえぜ!」
「おい、早く代われ! 俺もいれてえんだ!」
エドワード王子は、投獄されてからは同房の屈強な男たちに囲まれて、毎日、暴力を振るわれながら、強制性交を強いられている。
そんなうわさを耳にしたことはあったが、それを事実であることをこの目で確認した。
だが、そんなことはどうでもいい。使命を果たさなければ――。
「貴様! 無能な文官ではないか! 私をこの様な目に合わせて! 今に見ていろよ! いずれ――」
「お話がございます。デューク伯が失脚いたしました。政権は再びエドワード様に任せられることになりました」
「な、誠か! 下郎ども離れろ! 今まで私を虐げた貴様らは死刑だ!」
「お取込み中のところ申し訳ございませんが、至急処理して頂きたい政務がございます。――」
「なんだと! こうしてはおれん! 貴様らと、そこにいる文官の処刑は後だ。おい! 早く一番上等な召し物を用意しろ!」
エドワード王子は、喜びに満ちた表情を浮かべて、はしゃぎはじめた。
◇
「はあ、はあ……ふざけんじゃないわよ! 私はグリマルディ1の才女で、あのヴィヒレアでも大変優秀だと褒めたたえられた女よ。どうしてこんな汚い肉体労働なんかしなきゃいけないのよ!」
完全に秩序が崩壊したグリマルディ王国でも、機能している農地は極わずかだが存在する、この囚人の強制労働場もその1つだ。ここに収監されたセリーナは、日が昇らない早朝から日が落ちる夕方まで、農奴して過酷な肉体労働を強いられている。
「ふざけんじゃないわよ! あのクソ親父、姉さまと違って可愛くて優秀な私をなんだと……そうか! アイツも私に嫉妬してたんだ!」
大声で叫びながら、以前、くさいと言った食事よりも、さらに臭いが強烈で味もしない物を、血豆と擦り傷でまみれた素手で掴んで食べている。
文官はそれをほくそ笑みながら遠くから眺めていたが、これ以上遅くなるとヴェルデ女王を怒らせてしまいそうなので彼女に近づいた。
「私語が見つかると、また看守に鞭で叩かれるぞ」
「あんたは、私に逆らう無能な田舎役人! よくもなんの罪もない私をこんな目に合わせてくれたわね! 今に見てなさい! ヴィヒレアから大軍勢が助けに来てアンタたち反乱分子は皆死刑になるんだから!」
「ヴィヒレアが、お前達を助けに来ると思っているのか?」
「当然じゃない、私とエドワード王子はヴィヒレアを手本に、素晴らしい国を作ろうとしてたんだから! ヴェルデ女王陛下の正義の軍隊が必ず助けに来るわ!」
文官は大いに呆れた。たかが、そんな理由で一国の軍が他国に侵攻することなどあり得ない。が、一部だけ当たっていることがある。
「先ほど、ヴェルデ女王が率いるヴィヒレア軍が王城に入った。お前と王子は再び国政を担うことになった」
「ほら見なさい! 私が正しかったのよ!」
「……各地の農民一揆も、反旗を翻していた貴族の軍閥も、ヴィヒレア軍を見ただけで、ほとんど降伏したよ。兵の質、数、装備、全てが段違いだからな」
「アハハハハ! 私をこんな目に合わせたアンタたちは全員死刑よ!」
「ついては、ヴェルデ女王は、お前と王子との会談を希望している」
「当然よ! さあ、さっさと私をここから出して!」
(こいつらは自分たちが愚かにも信じ込んでいる幻想がどれほど酷いものかを、まもなく知ることになるだろうな)
セリーナを連れて行く準備をしながら、文官は心の中で冷たくつぶやいた。
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