21話:事の顛末
♢♢♢
とりあえずあの日からなんだか気まずい。
俺らは小学生の頃のクラスメイトであり、初恋の人。お互いにだ。それで今は社長と従業員ってわけで……。なんだか気まずい。
これで気まずくない方がおかしいわけで、普通の感覚だと思う。そう、あくまでも俺が。俺がそうなっている普通の人間で。でも向こうはそうでもないらしい。
社長とはすごいものでここまで違うのかと思わされる。
ただ——ちょっと距離感は縮まった気がしている。
「有くん、これなんだけど」
これだ。名前呼びを普通にしてきやがって、そのたび意味もなくドキッとしてしまう。
俺らはあくまでも雇用関係にあるんだから名前呼びってのはどうかと思う。誰かに見られていたらなんて思ってしまうが、そもそも見られることがほぼ無いので全くと言っていいほどに意味のない心配なわけだ。
閑話休題。
あれからなんだが、三宅グループのバカ息子に対して、俺達は被害届を提出し、大っぴらに公表してニュースにもなった。
これが社会的に抹殺というやつだ。
当然の報い。なんだけどこれをすることによって、こちらにも取材がきて大変だった。毎日のように会社前にはたくさんの報道陣。まあ覚悟の上だったからしょうがない。彼女だってそれは承知で公表すると言った。
お金で解決しようなんてもっての外。余計にそれで彼女の怒りは熱を増してしまう逆効果。世の中、そんなにうまく誤魔化せるなんて考えない方がいい。
いつかボロが出て、今のどうしようもない政治家みたいになるだけだ。
だがまあ記者会見を見ていると、まるで反省していない感じが見て取れるのも、また世の常。世渡りが下手くそである。こんなところで言い訳したって、世間の風当たりが強くなるだけなのに。でもそれも時間の経過にて忘れ去られる。何が正解かはよく分からなくなる。
とにかく泣き寝入りだけはしないという、俺達の方向性は一緒だったわけだ。
あ、バカ息子はもちろん逮捕された。
わいせつ目的略取罪っていう犯罪らしく、詳しくは知らん。その辺は警察や弁護士に任してるので俺らがどうこうできるものじゃない。
「ねえ! 人の話聞いてる?」
「あー、すいません。事の顛末を——」
「意味わかんない。で、これなんだけど、どうしたらいい?」
相変わらず家にいる時の彼女はポンなわけで。
「俺がやるんで、あの、大丈夫ですよ? 無理しなくても……」
「だめよ。私はやると決めたらやるんだから! だから手伝って! どうしたらチーズハンバーグが作れるのか教えてちょうだい!」
——そう、この人は突然私がチーズハンバーグを作るんだから! なんて車の中で言い出したもんだから危うく交通事故を起こすところだった。
それから仕方がなく、社長命令なのでスーパーに寄って食材を買いに行ったりした。
この人はホントに何もできないんだなと思ったのが、ハンバーグの具材を知らないこと。
普通ハンバーグを作ると言ったら、『合挽き肉』『玉ねぎ』『パン粉』だろ? 当たり前の食材なのに、彼女が手に取ったのは冷凍のハンバーグ。舐めてんのか。
「これで何を作るつもりですか?」
「は? ばかにしないで。ハンバーグって言ったよね?」
なぜか怒られた。ものすごく理不尽だ。
「それは作るって言わねーんだ。もう作ってあるんだ」
「え、これから作ってたんじゃないの? 0からの作り方なんて知らないよ」
こりゃだめだ。ポンが過ぎる。
「あのね、花さん。冷凍のハンバーグを使うことは別に悪い事じゃない。楽したいからなのも分かるが……チーズハンバーグを舐めるな」
「ひっ……」
ここから俺の説教お買い物の始まりだった。
——終始半泣き状態でした。少し言い過ぎたかも。しかし、やると自分で言ったからにはちゃんと最後までやらなければ! そんな思いで少々ムチが強くなっただけである。
しかしまあ、そんな気持ちもご飯を作ろうとした時に抵抗が出てきた。
それは包丁の持ち方が怖すぎる。
握り方間違えているから。こっち向けないでって感じ。人でも殺すんか? あ? と言った状態なので窘めていたわけだが。
「じゃあ持ち方から、ね。うん。一旦、包丁を下に置こうか。そそ、ゆぅーっくりね。お、良い感じだ」
「ばかにしてるよね!?」
はい、してますとも。
俺は死にたくないんで。
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