20話:言葉にする
♡♡♡
「嬉しい……私も嬉しいよ」
どうして私を思い出すことが出来たかは分からないけど、こうして私の目の前で会えたことに涙を流してくれる彼。
すごく嬉しかった。
「なんで教えてくれないんだ。あの時もそうだけど」
「だって昔は言ってもどうにもならなかった。会えないのは変わりないし、もう自ら断ち切った方が出て行きやすかったんだもん」
「それは自分勝手すぎる」
「そうだよね、ごめんなさい」
あまりにも自分勝手だとは幼いながらも分かっているつもりだったけど、やっぱりこうして再開して涙を流す人だ。きっと当時はもっと気を落としていたのかもしれない。
「今だって、なんで教えてくれないんだよ」
「それは……あれだよ、思い出してほしかったから、ね?」
てへっ。なんて年甲斐もなくやって見せたものの、少しばかりはずかしくなった。
「たぶんだけど、あれがなかったら俺は一生思い出さん。あの斎藤花と菊沢花が同一人物なんて……えっ? 嘘だろ? って事も考えない」
「ひどい。ちょっとずつヒント出してたのに」
「どこに」
「ほらハンバーグ食べ終わった後の感想とか……他には、んーと……忘れた」
「分かるかそんなの」
「私的にはハンバーグを作ってくれた時に私のこと思い出してくれたのかと思ったよ? だからチーズハンバーグなのかなって」
「あれは何となく作っただけで……なんかすまん」
「謝んな! なんか私が惨めに見える!」
「すまんすまん」
「だから———ってもういいわ。でもあれって言ってたけどそれは何のこと?」
指を差していたのは、積み上げられた本。
「掃除してたら小学校のクラス写真出てきた」
「あっ……ああ、それそこにあったんだぁ! 探してたんだよね!」
部屋が汚いと物がどこに行ったのかよくわかんなくなるんだよねぇ。
「アルバムも少し見ちゃった」
「それはえっちだ」
「なにがだよ。それで名前が書いてあって、気付いた」
「私、大分変わったでしょ?」
「大分ってか、人が変わったみたいだ。昔のあなたはもっと暗かったし、こんなに話すような人じゃない。ましてやブランコに乗って叫び出すような人ではなかった」
「それは良いじゃない。私だってストレスくらい溜まる。叫びたくなるものなの」
「だからと言って公園のブランコに乗りながら叫ぶやつはそう居ない」
一理ある。
「あなたのおかげなの」
「俺の?」
「あなたがあの時私言ったじゃん。こうした方がいいと思ってみたいなこと。人の前髪を急に上げて顔を見てきたときに」
「そんなこともあったな」
「それで変わろうと思えたの。私ってちょっと昔はチョロくて。優しくしてくれるあなたが好きだったの。まあその優しさは今でも好きなんだけど」
「……ちょっと、なにを言ってるんですかね」
「それでさ、思い切って変わってみたの。そしたら世界が変わった。私を不気味がっていた人はいなくなって、陰口も言われなくなった」
印象って大事なんだってここで気付かされた。
「確かに。それは引っ越してからも?」
「そう、モテモテだった」
「それはちょっとなんかモヤるな……」
「なにそれ嫉妬?」
「そうだけど。俺も、その……好きだったんだ」
……は? って事はそれって————。
「ま、、まあそれはその小学生の恋だから、今がどうこうってわけじゃなくて……それもなんか失礼か。とにかく、俺も斎藤が好きだったそれだけの話」
「へ、へぇ……りょ、両想いだったんだー」
あれ、ちょとやばい、にやけが止まらない。
ポリポリと頬を掻きながら、そっぽを向く。
「でもさ、それがきっかけで斎藤が変われたならそれは良かった。俺はさ、ちゃんと知ってたから」
「……ありがとう」
もうやめてっ! これ以上私をっ! ニヤつかせないで!
「……あなたが変われる事を教えてくれたから、今この仕事を始めたの。私みたいに殻に閉じこもってる人に殻を破って欲しくて、変われるんだよ! って皆に知ってほしくて……だからあなたのおかげなの全部。私はあなたがいなかったら今はここにいなくて、化粧品も作ってなくて、きっとずっと暗いままだったかもしれないの」
「そこまで褒められるとなんだか恥ずかしいもんだな」
「ふふっ、ありがとう」
言葉にするのは難しい。でもこういう時だからこそ、言える時に伝えよう。彼もそれを嫌がるわけだし。
「今の私はどう?」
「なんだよそれ……」
「昔と比べて、どう?」
「そりゃあれだろ……」
「どれ?」
「……めっちゃ」
「めっちゃ?」
「めっちゃ可愛いです……」
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!
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