10話:新しい家

 偽装部屋。の掃除が終わり、引っ越し作業はこれにて終了。元カレさんの荷物も発送し終えた。


「これ鍵です。ありがとうございました」

「ありがとうございます。修繕費などの連絡はまた今度送らさせて頂きます」


「はい、分かりました」


 片手に収まるほどの荷物だけを持ち、部屋を後にした。


 名残惜しい。とは全く思わないが、ここまできれいにしたのにもうこの家とはさよならなのかと思うと何だか変な気持ちになる。


 元カレさんとの愛の巣を変な気持ちになってる俺は大分気持ち悪いな。


 さて、今日は社長から車を借りているので、このまま本拠地へ向かう。


 そう言えば、下着がどうのこうのと言っていた。私は洗濯ネットに入れるから、それは絶対に開けないし、そのまま乾燥機にかけること! などと顔を赤くして伝えてきた。


 もうそれは既に手遅れだし、見てしまったものは忘れられない。見てないなんて嘘に決まっているし、畳んでるんだから見てるに決まってんだろ。


 あくまでもこれからね。これからは触らないようにします。あなたがちゃんと締まっているのならば! の話だが。



 車に乗り込んだ俺はすぐには出発せずに、ナビなどの設定、ハンドルの高さ、シートの調整登録などを先に済ましておくことにした。あとは大体の使用感の確認も兼ねて。


 さすが高級車。

 俺は今まで興味がなかったのでそこら辺の中古の普通車に乗っていた。なんならナビもない。最近はスマホ一つで十分だったからだ。文明の発達はすさまじい。


 しかし逆にこの高級車にはスマホが必要ない。だってなんかナビがスマホみたいになってるもん。なにこれ。発達しすぎでは? 


「便利になったものだ」


 一通り終わらせて、本拠地に向かうことにした。




****




 言うて、本拠地もそこまで遠いわけではなかった。


「意外と普通のマンションだな」


 送られてきた住所に着いたのだが、想像していたようなマンションとは違っていた。


 2LDKか3LDKと言ったところだろうか。あくまでも勝手な推測だが、よくあるマンションに変わりはない。

 よくうちのポストに似たような広告とか入ってたわ。


 勝手にタワマンとか予想しててスイマセン。やはりあなたは意外と普通の金銭感覚なのかは分からないが、金を持ってるからタワマン! みたいな考えではないことが分かりました。


 でも普通一人暮らしでマンションは買わんか。

 そこら辺はちょっとやっぱりというか違う所があるか。


 予め聞いていた駐車場に車を停めて、部屋へと向かう。

 オートロックもついているし、駐車場も意外と厳重で渡されていたリモコンをシャッターの前で押すと開くシステムになっていた。


これなら安心できる気もした。


 駐車場から部屋まではもちろん直通で、でもロックはある。二重で安心ってわけだ。同じ住民に変な人がいない限り。



 ——そして、部屋に辿りついた俺は玄関前で固唾を飲みこむ。



 ここに入るのは覚悟がいる。



 それは仕事としてではなく、部屋が汚い事に関しての覚悟である。仕事なのに仕事の覚悟じゃなくてごめんなさい。



 大丈夫だ。



 どんな状況でも受け入れろ、俺!


 そんな覚悟を決めて鍵を回し、解錠されたドアをゆっくりと開けた。




 …………。




 ——おい誰か、業者を呼んでくれ。



 今すぐに。

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