11話:雇う人間を間違えたかもしれない
私はどうやら、雇う人間を間違えたのかもしれない。
どうして私は今、自宅リビングで正座をさせられているのだろうか。
何も悪い事はしていないし、ちゃんと仕事を終わらせて帰ってきている。そりゃ当初の話の通り、迎えには来てもらっているけれど、それは仕事ですものねぇ。
なのにそれなのに……どうして帰宅早々に怒られているのだろうか? うーん……これはそうだね、私が悪いです。はい、本当にもうしわけ———。
「ちょっと話聞いてますか? あのね———」
ガミガミと母親みたいに怒ってくる、お世話係の
なにが気に食わないのか。これも仕事の内じゃないか。とそう思う私は間違っているのだろうか?
「これは人として終わってる」
「そこまで言う!? 酷くない!?」
「酷いのはあなたのズボラさです。周り見てください」
言われるがままに回りを見渡す。
うん、見慣れた光景。何も変わっていない。むしろちゃんと仕事して?
「汚いにも限度がある」
「いやいや、世の中みんなこんなもんでしょ。疲れて帰ってきてさぁ、いちいちやってらんないって。そりゃこうもなるよ」
元カレと暮していた家の4倍は散らかっている。
あっちはたかが1年。こっちはもう5年物だ。それはそれは積み重ねてきたものが違うのさ!
「俺はどれだけ疲れててもこうはなりません」
「君と私は違うからね。当たり前じゃん、私はこういうのが苦手だから西野君を雇っているわけだし」
私は間違ってない。正論だ! どうだ! 言い返せるなら言い返してみろ!
「たしかに、俺とは違います」
ほれみたことか!
「じゃあ今はお金があるからこうして俺を雇ってますけど、お金がなかったらどうするんですか? 誰もやってくれませんよ? まあだからこうなってるんですけど。これ俺を雇ってなかったらそのうちゴミ屋敷ですよ。 一人暮らししてるんですから、あなたのお世話をしてくれるお母さんだっていませんよ? たまに来てもらって掃除してもらうんですか? 三十路にもなって恥ずかしい。恥ずかしいより情けないですよ。親にとってはいつまでも子供かもしれませんが、ちゃんと考えてください。あなた三十路ですよ」
……泣きそう。なんか倍になって言葉が返ってきた。
「だって、だって、苦手なんだもん……これからは西野君がやるんだもん。それでいいじゃん」
「だってじゃありません。大体ね、あなた下着がどうこう言ってましたけど、脱衣所のあれは何ですか。普通に落ちてますやん」
「あれぇ~」
うそだ、私は片し———しまっ……ごめんなさい。
「すいませんでした」
「本当に分かってます? 俺ってお世話係なんでちゃんと仕事はします。でもお世話もしないといけないことが分かりました」
……それはどういったことなのでしょうか? 嫌な予感しかしない……。
「掃除、一緒にやろうか」
……………………。
いやいやいあいいやいいいいあいいあいやあいやいああああああああ!!
「あの、そういうお世話は求めてないんで、ごめんなさい」
「だめです」
「嫌イヤいや! 絶対嫌だ!」
「子供じゃないんだから」
ニッコニコの笑顔で手を差し伸べてくる目の前にいる悪魔。
「じゃ、じゃあ契約内容を変更します!」
「労基」
「……すいません、やめてください」
ぐぬぬぬ。こいつ、悪魔だ! 悪魔!
「全部やれとは言いませんから、一緒に掃除をして、どれだけ大変な事なのかを理解するべきなのです。そうすればあなたはきっと生まれ変われるでしょう」
その顔やめて、腹立つ。胡散臭い言い方も腹立つなぁもう。
「仕事なのに……」
「ええ、仕事ですよこれも立派な」
ぐっ、もう何も言い返せない自分が情けない。
こんな体たらくで、こんなズボラでここまでよく生きてきたとも言えてしまう自分で。
確かに西野くんの言っていることは正しい。でもそれは一般的価値観に基づいてだ。私は一般常識から外れている人間として扱ってもらわなければならない。つまり、私は一般的な価値観や常識にとらわれていないので西野君の言っていることは正しいんだけど、正しくない。
私はそう————間違っていないのだ。どやぁ。
「口に出てますよ。間違ってますね。なんだその意味わからん屁理屈は。中学生か?」
「中学生じゃないもん! 大人だもん!」
「だったら掃除くらいしましょうね?」
「もう! 分かったよ! やればいいんでしょ! やれば!」
何言っても、言い返されるので私は仕方なく。本当にどうしても仕方なく。彼の言うことを聞いて上げることにした。
だって社長なんだもん。部下のお願いくらい聞かないと……ぐずっ、うわあぁーん。
雇う人を間違えたよぉぉぉー。
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