27話:嘘つき
♡♡♡
「待たせてごめんね」
「いやいや、いいんだよ。気にしなくていいよ。俺が急に来たわけだし、社員の方達にも怖い思いをさせてしまったみたいでごめんね」
「それはほんとにそう。もうやめてよね。前もそうだったけど、連絡くらいちゃんとしてほしいよ。私だって予定があるんだし、今日私がもしかしたらいない可能性だってあるのに。もしいなかったらあなたは毎日うろちょろしているつもりだったの? それこそ警察沙汰になるし、大ごとだよ」
「ごめんごめん、そこまで気が回らなかった」
この人はこんなに人の事を考えられない人であっただろうか? 私達は一年くらいしか付き合ってなかったとはいえ、そんな素振り見たことなかったけどなぁ。この人もまた私の前では猫被っていたりしてたのかな? なんて良くない考えが浮かぶ。
まあ私の方がもっとひどいし、最悪なんだけど。
「それで私にどんな要件かな?」
理由なんて知っての通りだ。わざわざこうやって口にしたのはわざとで、場の雰囲気を壊さないようにするための取り繕いだ。ビジネススマイル。
「分かってるくせに」
なんて笑いながら言ってくるが、目は笑ってない。
「単刀直入に言うけど、どうして俺に嘘をついていたのかい? あのニュースを見た時、がっかりした。というか、すごく悲しい気持ちになった。嘘をつかれていたことがこんなにも悲しいなんて思わなかったよ」
分かりきった内容で、こう言われるのは予想通りと言うか、聞いたまんまである。私が悪いに決まっていってそれ以外に答えがないのだ。
「それに関しては本当に申し訳ございませんでした」
私は深く頭を下げて言葉をまた続ける。
「試してたとか、そういうのじゃなくて……私は私を隠しておかないと、もし私の本性を知った時、素性を知った時、竜くんの態度が接し方が変わるんじゃないかと思って怖かったの。好きだったから、知られたくなかった。こんな事言われてむかつくかもしれないけれど、昔の人は何人かそうだった。私の素性を知った途端、接し方が変わった。だからと言って竜くんは違うかもしれないのに、決めつけるのは良くなかったよね。本当にごめん」
「そんなこと言われたら、何も言えないじゃないか。俺だって君の立場だったらそうなってもおかしくない」
「ううん。信じれなかった私が悪いの。ちゃんと竜君に話していたらこんな事にはならなかったし、きっと何かが違ったのかもね知れないよね」
「だったらもう一度、もう一度俺にチャンスをくれないか? もう一度! 俺と付き合ってください」
突然の告白。とは言えない。何となくわかっていたから。
「あのね、私って社長で仕事は出来るかもしれないけどさ、家の事何もできないんだよね。部屋の掃除もできないし、料理なんてもっての外。家ではポンコツがすぎるくらいなんだ。竜くんは私のお世話できる?」
そう言った瞬間、どこからかものすごい変な音が聞こえて、視線を音の方へと移動させると、そこに居たのは紛れもない私の秘書で、私の好きな人だった。
焦って口を拭いているので、コーヒーでも吹き出したんだろう。
「ふふっ、なにやってんだか」
周りに会釈しながら、机を拭いてる彼が可愛く見えて仕方がない。
「……花ちゃん、もしかして」
「ん? なあに?」
視線を戻すと竜くんは驚いたような、がっかりしたような何かを諦めた表情でこちらを見ていた。
「竜くん、ごめんね。あの時にあなたに振られてから私はもう違う道に歩みを進めてるの。今ならやり直せるとか、やり直せないとかそういう次元の話ではなくてね。私はもう竜くんの気持ちには応えられないよ。私が悪いところもたくさんあったけど、戻れない」
「それでもっ! ……俺がどんな花ちゃんを受け入れようとお世話だってしてやるって言っても————」
「私、忘れてないよ。あの日、竜くんが私の部屋を見てなんて言ったか」
「そ、それは……」
「あれくらい酷いの。ほんとに、よく今まで猫被ってたくらいだよ。でも分かって欲しい、私は隠すくらい竜くんのことは好きだった。嫌われたくなかったことを」
「……もうだめなんだよな?」
「うん、ごめん」
「じゃあもうういい。俺は諦めるし、もう二度と君の眼の間には現れないよ。君の幸せは違う人に任せるとしよう。それを応援してるなんて言えるほど俺は優しくないからね。せいぜい頑張りなよ、大変だろうけどね」
手をひらひらさせて、諦めポーズを取ってみせる。
「なにそれどういう意味?」
「お互い嘘つきなんだぞ。親切心でそんなこと一々教えるわけないだろ。振られた女に優しくするほど器の大きい人間じゃないんでね」
「それもそっか」
「花ちゃん、せいぜい頑張りなよ」
彼は立ち上がり、伝票を持って去って行くと見せかけて有くんの席へ移動していった。
私も同じように移動しようとしたら、竜くんにすごい剣幕でこちらを見られて、暗にこっちに来るなと言われてしまったために行くに行けなかった。
♢♢♢
「話は終わったか?」
「振られたよ、お前のせいでな」
なんで俺のせいなんだよ。こんなところで急に告るからだろ。とまあ、小さな声で社長に聞かれないように音量を合わせてやることにした。
「俺のせいにしないでくださいね」
「いいや、全部お前のせいだ」
「なんでだよ……別にいいけど。てか金目当てじゃなかったんだな。意外だった、決めつけて俺も悪かったよ」
「金目当てに決まってんだろ」
「わざわざ嫌な奴演じなくてもいいぞ」
「うざいな、お前も花も」
「あの人も相当猫かぶりだけど、あなたも大概だな。類は友を呼ぶってまさにこの事」
「うるさい。これそっち持ちで払っとけよ。金あるんだろ」
伝票をこちらに渡してきた。
「だから悪ぶんなくたっていいですから。それに最初から払うつもりです」
「だったらもっと高いやつにすればよかったかもな」
「あの一つ聞いてもいいですか?」
「あんだよ」
「なんで社長の事、振ったんですか?」
「それは、そのあれだよ……他に、その……」
「浮気か」
「あれだよ、美人はその三日で————」
「やっぱお前最低だわ。さっさと帰れ」
「言われなくても帰るわ」
「しっし」
ったく、何を言うかと思ったらくだらない。あんな社長がいたらずっと一緒に居たいに決まってんだろ。ばかかよ。どんだけ美人だと思ってんだ。こちとら毎日いても全然飽きんわボケ!
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