28話:やっと
♢♢♢
「さあ帰りましょうか」
「そうだね。竜くんと何話してたの?」
「なんかお前のせいで振られたって言われて、意味わかんねーって話をしてました」
なにが俺のせいだ。自分が浮気して気持ちがなくなっていって振ったくせに、金目当てでよりを戻そうとして振られたからって俺のせいにしないでいただきたいところだ。
「……他人はすぐ気づくのに本人は全然だから困るんだよなぁ」
「なにか言いました?」
「ううん、なんも! 私にはいま有くんがいるからね! 他の男と付き合ってちゃただの浮気者になっちゃうでしょ? ちゃんと振りましたとも。ありがとうと言ってくれてもいいんだよ? むしろ感謝してほしいくらい」
「なんでそうなるの……まあよく分からんけどありがとう」
「どういたしまして」
胸を張って、えっへんと言わんばかりだった。よく分からん。だが、まあよりを戻されたら俺はまた無職になってしまうので、ある意味感謝している。というか、そういう事を言っているんだと勝手に解釈しておくことにした。
「社長はいい女ですから、あんな人と一緒にならなくてもすぐいい男できますよ。あ、でもお世話係をやめなくちゃいけないから、違う仕事に部署異動お願いしますね」
ちゃんと後の事を考えて、少しばかりわがままを言ってみた。どういう反応をするか……。
「え、私は有くんがいるから男は要らないよ」
「は?」
「だから私は有くんがいるから男は必要ないじゃん。今の私にはあなたがいれば充分よ」
あ、そういうことね……あせったぁ。この人まで急に告白をし出したのかと思ったわ。それにまるで俺が付き合っているみたいな俺が好きみたいな言い方しやがって。
「お世話係ですもんね」
「そうね、いずれは私と付き合ってもいいんだよ」
「な、なに言ってんだよ」
「初恋同士って、なんか良くない? お互い一時期は好きだったんだからダメ?」
そんな上目遣いで見ないでね。
「だめ、ではないけどそれはなんか違くない? それに気持ちがないのにあなたは付き合えるんですか?」
「気持ちがないわけないじゃん」
「は、はぁ!? お酒でも飲みました?」
「有くんのこと好きだよ」
「急な告白!? 怖いよ……俺は明日死ぬのだろうか」
「あはははっ! おもしろー! 顔赤くしちゃってさぁ!」
は? まじでふざけんな。
「そういう事は中学生で卒業してね」
「なによ」
「ウソ告」
「なにそれ」
「ウソで告白する事だよ。引っ越した先の中学で流行らんかった? 俺の中学ではそういうのがあって結構最悪だった」
「嘘じゃないよ? 私は有くんの事好きだもん」
「それはラブじゃなくてライクだろ。それなら俺だってお前の事好きだし」
「はっ、はぁ? 急に好きとか言うのやめてくれる!? ドキッとしちゃったじゃない!」
理不尽。お前何回言ったよ。俺に好きって。
「嫌いな奴だったらあんな部屋の掃除とかお世話とかできないだろ」
「それも……そうなのかな? へぇ、じゃあもしかして私に誘われた時からちょっと気になってたとかあるの?」
「まあ、最初は結構下心あったかもな。めちゃくちゃタイプだもん社長のこと」
「え……」
「あははっ! おもしろいなぁ。固まってるわぁー、そのあほ面写真撮ってやろ」
「最悪」
「やられたらやり返す」
「倍返しじゃないじゃん。最低。もう私歩いて帰る」
拗ねた。めっちゃ拗ねてるわ。
帰ろうとか言いながらも、ベラべベラと話してしまっていたので彼女は席を立ち、店から出て行った。
あ、お金……まあ領収書……経費で落として貰えばいいか。
***
「ちょっとちょっと! 待ってって、冗談だって!」
「知らないもん、早く帰ればーか」
「帰る家一緒だから。車乗って帰ろうって。ごめんって。そんな怒らなくてもいいじゃんか。お互い様だろ? 斎藤、あっ、菊沢? んー、花だって俺を揶揄ったじゃないか」
ピタ。と足が止まった。
「今なんて言った?」
「俺を揶揄ったじゃないか」
「その前!」
「花だって?」
「名前」
「名前だな」
「やっと呼んでくれた」
「そう言えば確かになんか菊沢って呼びにくくて……社長って呼んだ方がいいか今は」
「逆でしょ。今だから名前で呼ぶんだから!」
今までなんて呼んでたのか分からなくなってきた。俺って今までなんて呼んでた? 子供の頃は斎藤とか、花とか呼んでたよな? あまり思い出せんが。
「昔はさもっと名前で呼んでくれてたじゃん。もっと名前で呼んでよ。プライベートの時くらい」
「今の俺にプライベートってあるの? いつでも仕事みたいな感じでは?」
「じゃあ今度の週末遊びにいこ。プライベート。これでいい?」
「プライベートなのそれ?」
「プライベートじゃん! 私と遊ぶのが嫌なの?」
「そんなこと言ってないだろ……」
もしかしてこの人、結構めんどくさい奴だったりする?
「じゃあ今度お出掛けね! デートね!」
「デートでは———」
「デートね!」
「……はい、分かりました」
こうして話は変な方向に進み、俺はデート? をすることになった。
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