22話:チーズインハンバーグ

♡♡♡




 料理は苦手だ。


 ろくにした事がない。前に付き合っていた人は私の事を何も知らない。それだけ私は私を誤魔化して過ごしてきた。


 実のところ料理は秘書にやってもらったりして、誤魔化しに誤魔化していた。ただの最低な女である。


 予め作ってもらっていたものを温め直してただけ。焼くだけの状態とかそんな風にしていたのだ。


 最低な女である。



 でもいつまでもそういう風ではいけないことくらい分かっていたのだ。


 だからちょっとやってみたくなったの。いいでしょ? そういう感じで始めるのが一番続いたりするでしょ? 


 思い出を思い出した記念。私が作ることで新しい思い出になるし……ってのは言い訳なんです。


 本当は彼と一緒にご飯を作るってことをしたかった。


 なんかその……カップルって感じとか……夫婦って感じして良くない? みたいな。だけど残念ながら私だけなんだけどそんな事したいと思ってるのは。むう。


「ひぃっ、こわいっ」


「なにがよ! ちゃんと切れてるじゃん! いちいちうるさいの!」


 私の華麗な包丁さばきを見て悲鳴を上げる彼がちょっとうざい。


「見てるこっちが怖い」

「じゃあ見なきゃいいじゃん!」

「いやいや見てないとケガするって、まじで」


 思ってたんと違う。


 もっとこうなんかイチャイチャしながら、褒めてやるもんでしょ。それとか後ろからこうやるんだよってハグみたいな形で……あ、それはカップルだからそういう風にやるのか。そうか、私達はカップルでもなんでもないんだった。


「これはさ、ちょっといいか? 手はこうして丸めてさ——」


 んんんんっ!?


 あれっ! これってカップルがさ! やるやつじゃなかったの!?


 左手を握られ、包丁を握っている手の上からそっと手を添えられて——ちょっと汗がやばいんですけども。


「……聞いてる? 手が動かないんだけど」


「ちょっと急にそんな触らないでよ……えっち」


 私は何を言ってるんでしょうか?


「ちゃんと聞いた。セクハラって言われないようにちょっといいかって聞いた」


「確かに言ったけど触っていいなんて聞いてないもん」

「じゃあもう教えないぞ」


「教えてください、もっと触ってもらっても結構です」

「何言ってんだこいつ……」


 こうして私は少しだけ、すこーしだけ。顔を赤くしながら、彼に手ほどきされながら料理をした。チーズハンバーグって奥が深いわ。冷凍ハンバーグんなんか買ったら、中にチーズが入れられないじゃない。私ってば本当に馬鹿ね。




****




 完成した料理は彼が手伝ってくれたおかげもあって、見た目は完璧にあの日のチーズインハンバーグになっていた。


「これお皿にうつすんだけど、レタスを乗せてその上にハンバーグを乗せると映える」

「へぇ……確かに外で食べる時も鉄板の上にトウモロコシとか人参とかポテトとかほうれんそうとかなんか色々乗ってるもんね」

「ま、まあそうだな。今は食材があまりないからレタスだけにしてるが、そういうのも乗せても良い」


「お皿にハンバーグだけだと質素に見えるからそうしてるの?」

「そうだろうな。ハンバーグだけが乗ってるのと、野菜が乗ってて色がたくさんあると美味しそうに見えるだろ?」


「うん、見えるね!」


「じゃあレタスを敷いてくれ」


 言われた通りにレタスをちぎって、お皿に乗せようとすると……。


「洗ってくれ」

「アラウ?」


「何言ってんだみたいな顔でこっちを見るな。一応、水にさらしてからお皿に盛りつける。基本だ」


「そっ、そんな事知ってるし! 忘れてただけだし!」


 嘘です。知りませんでした。


「はいはい。早くやってくださいねー」



 私の正体を知ってから、どうしてかこなれた感あって、たまに雑に扱われるのは解せぬ。私

は社長なのに……でも無下に扱われるのも中々に悪くない。


「かんせーい! ぱちぱちぱち」


 美味しそう! 私が作ったとは思えないくらいに美味しそうだ!


「よしよし。初めてにしてはよくできたぞ。俺」

「いやいや、褒める相手が何で自分なの? 私を褒めて?」


「よく完成まで辿り着けたことを誇りに思います」



 くぅぅー! むかつくぅぅ!


「私、褒められて伸びるタイプなんだけど?」


「はい、よくできましたー。よしよし」


 でへへ……。


「さ、食べましょ」

「うんうん! 食べよ食べよ!」



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