24話:一緒に寝るんだよ、これからも

♢♢♢





 カーテンの隙間から差し込む光が目に当たり、眩しくて目を覚ました。



 むくり。と起き上がって手を上げて伸びようとすると手が上がらない。いや、正確には腕が上がらない。


 ついに来たか、四十肩。なんて思ったが、上がらないのは左腕だけだ。


 分かっている。隣にいる彼女が俺の腕を掴んで寝ていることは。だから腕が上がらないんだって事も。そっとその掴んでいる腕を解いて抜け出した。


 すやすやと気持ちよさそうに寝る彼女はまるで眠れる森の美女と言ったところだろうか。寝ぐせもついて可愛さが増して見える。


 つい触りたくなってしまう自分のやらしい心を抑えつつも、抑えきれず彼女の頬に手の甲で触れてしまった。


「んぅー」


 なんてかわいい声だ。どうして女の子の寝起き声は可愛く感じるんだろう。可愛くないなんて思った子は一人もいなかった。犯罪級である。


 いけないと分かりながらも、柔らかい頬をすりすりと触っている俺はもう犯罪者で間違いない。起きる前にやめておこう。


 そっと手を離そうとすると、手を掴まれ頬にあてられてしまった。これは不可抗力だ。うむ、悪くないだろう。


 本当に可愛いんだよな、顔は。

 他がちょっと残念過ぎる所があれなんだが。まあ俺くらいになると何も思わないし、いまさら思うことなんて何もない。


 もはやこいつと付き合えるのは俺しかいないまである。ここまでの私生活を知っても許容範囲だし、めっちゃタイプだし。


 なんてことを考えてみたり……。でも、それもないこともないよなぁ。


「……ぅくん」


 むにゃむにゃと寝言を言う。夢の中にも俺が出てきているのか。どんだけ俺の事好きなんだよ……なんつってな。


 掴まれた手をゆっくりと起きないように解いて、俺はキッチンへと向かうことにした。


 さあ今日も仕事を始めるとしますか。




****





 朝ご飯を作っていると、匂いに釣られて起きてきた。


「おはよー」

「おはようございます」


 目を擦りながら、まだ夢半ばのような腑抜けた声で目は全然あいていない。


「なんかいつもよりよく眠れたかも」

「それはよかったですね」


「ふぁぁーあ。これから毎日一緒に寝よっか」

「馬鹿言わないでください」


 こちとら寝るまでに時間が掛かったし、なんか寝た気がしないんだよ。


「照れてるのかー」


 腑抜けた声で何を言ってんだか。照れてるも何も、あれはシラフだったから何とかなっただけで、酒でも入ってみろ。きっと今頃とても気まずいことになっているだろう。


「はいはい、照れてます。さっさと顔洗って着替えてきてください」

「はー…………一緒に来て」

「なんで?」

「忘れたの? 昨日はGが出てるんだよ? 一緒に来てくれないと困る。怖いもん」


「いやいやいないから大丈夫」

「それはどうかな」


「俺は一緒に行ってどうすればいいんですか? 顔を洗ってるのを見てろと? 服着替える時も見てていいんですか」


「……特別だよ?」

「やかましいわ」


 ニヤニヤと笑いつつも、早く来てくれないといけないと身体をパタパタと動かしている。


「はーやーくー」

「はいはい、わかりました」


 こうして俺はなぜか手を繋がれ、洗面所に連れていかれた。……ほんとなにこれ。


 顔を洗っている所を眺め、服を着替えてる所は後ろを向かされ、そして聞こえた叫び声。


「なになに」

「G! いやいやいや! 無理無理!」


 そういえば今日は黄色の下着でしたね、ありがとうございます。


「はいはいちょっと見張ってて」

「無理無理無理!」

「ひっつくな、スプレー取りに行けないだろ」


 柔らかい何かがとても腕に当たる。半袖ばんざい。


「気持ち悪い気持ち悪い!」

「じゃあ取ってきてスプレーを」

「絶対見逃しちゃだめだよ!」


 ちなみに彼女の部屋出ています。

 こっちに移動していたか。これはかわいそうに。


「取ってきた! 取ってきた! はいはいはい! 見逃してないよね! 絶対やっつけてよね! やっつけてくれたら一緒に寝てあげるから!」


 なんだその条件。意味わからん過ぎるし、誰得やねん。俺得か。というか、自分の部屋出たから一緒に寝たいだけでは?


「はいはい」


 渡されたスプレーでGに振りかける。一瞬冷凍スプレータイプで一瞬だ。


「きゃぁぁぁー気持ちわるぅーー」


 うるさいな。


「この家売る」

「なんでそうなるの」


「Gが出た家なんてもう住めない」

「じゃあ部屋綺麗にしておけよ」


「それは……関係ない」

「関係ないわけないだろ。逆に今までよく出なかったわ」



 あれだけ汚いと逆に見つからんか。


「あれやっとくんで今日」

「あれって何?」


「部屋全体に煙撒くやつ」

「わかった……でも今日は一緒に寝てね?」


「なんでそうなるんだよ……」

「だってイヤじゃん! あ、そうだ! 社長命令です! 今日から私の部屋がきれいに除菌されるまでの間、私と一緒に寝る事!」


「マジでそれはパワハラ」


「うるさい! こんな可愛い社長と寝れるなんて幸せでしょ! 私と寝たい男なんてきっと山ほどいるのよ!」


「自分の言うのはやめた方がいいですね」


 確かにこんなのは俺しか出来ない役得ではあるが……部屋の除菌ってどこまでやればいいのか細かく教えて?


「とにかく、私の部屋の掃除の徹底とこの家全体のG対策が終わるまでお願いします!」


「なんか一つ条件増えてるんですけど……」

「うるさい」

「はい……分りました」


 こうして俺はこの家の掃除を二日で終わらせて、なんかすごい怒られたのはここだけの話である。

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