25話:来訪者
♢♢♢
「お疲れ様です。もしもし、どうされましたか?」
仕事が終わる一時間くらい前に社長こと菊沢花から珍しく電話が掛かってきた。
「お疲れ様、ちょっと申し訳ないんだけどさ」
ちょっとどうやら困りごとの様だ。
「なんかうちの会社の前っていうか、外でずっとうろちょろしてる人がいるって、受付の子から電話掛かってきてて」
「はい。俺がどうにかすればいいですかね」
「ごめんね、うち女性しかいないからさ、皆怖がっちゃってるんだよね」
「了解です。じゃあ今からすぐ行きます」
俺は夜ご飯の準備をしていたがそれを一旦切り上げて、念のためスーツに着替えてから会社へと向かった。
家から会社はそんなに遠くないのですぐに辿り着いた。
一応、駐車場に停める前に会社前にいるやつがどんなやつか確認することにしたんだが……どうやら見たことのある顔。もはや懐かしいまである。
竜くんじゃないですか。元カレさん。
急いで駐車場に車を停めに行き、彼の元へと急いだ。
ゆっくりと気付かれないように背後から声を掛けた。
「こんにちは」
「うわっ! びっく————ってお前、花と一緒に居たやつじゃねーか」
結構びっくりしてて面白い。
「こんなところで何やってるんですか? うちの社員から怖い人がいるって、連絡は言ってるんですけど」
「あっ、そうなのか。それは申し訳ない。花に会いに来たんだ。ってかお前、本当に彼氏じゃないんだな?」
「ええ、彼氏じゃありません。これ渡しておきましょう」
スーツから名刺を取り出して、彼に渡すとなぜかニヤリと笑った。
「花に会わせてくれ。あいつ俺に嘘ついていたことに関して話したい。あの時の俺が間違っていたことも謝罪したい」
「それってもしかしてニュースを見てって感じですかね?」
あの三宅グループの不祥事の際にテレビ取材に応じていたのが裏目に出てしまったか。しくったな、そこまで頭が回らなかった。
「そうだ。あいつ俺にこんな仕事……ましてや社長やってるなんて一言も。むかつくがこれは今後の話し合いで水に流してやらんこともない」
なぜにこんな上から目線なんだ? 大体振ったのはお前からだっただろう。これが社長と知ったからそうやって手のひらを返して……。
「すいませんがお引き取り願います」
「それはできない。一度でいい、花に聞いてくれ」
「彼女も忙しいんです」
「じゃあ終わるまで待つ」
「他の社員が怖がってますのでやめてください」
「じゃあ花に連絡してくれ。そうしてくれたなら考えてやる」
これ以上は埒が明かないか。
「わかりました。ですが、ここに居るのはやめてくださいね。近くのカフェかなんかで待っててください」
竜くん、金目当てなのが見え見えです。
そして菊沢花に電話を掛けた。
「お疲れ様です。あの、元カレさんです」
「え、竜くん? なんで私の会社を知ってるの」
「三宅グループの不祥事で知ったみたいで、それであなたに話があるらしくて……すいません、あの時そこまで頭回らなかったです」
「あぁー、しょうがないよ。私もそこまで考えてなかったし。うーんどうしよ。ここで話して終わらせるのが一番いいかしら? 西野くんはどう思う?」
会社にいるから西野君呼びなんだが、散々有くんって呼ばれてきたので、耳がむず痒い。
「ここで話して納得してくれるなら、今話すべきなんだとは思うんですが……」
「なにか引っ掛かる?」
「まあこんなこと言うのもあれなんですが、やっぱり金目当てなんじゃないかなって思ってて。ニュースで大々的に世間に周知されたわけで、あなたが社長ってことはイコール金持ってるってことじゃないですか。寄り戻してとか、戻さないなら何かしらしてきそうな感じがして」
よりを戻す戻さないは俺にしてみたらどうでもいい事なんだが、仕事がなくなることでもある。その時はまた一から探せばいい話だ。
「あーそっち系かー。私のせいだなーこれは。うーん……まあよりを戻すつもりはないし、それで納得してくれればいいんだけど……わかった。じゃあこの後少し話すことにする。ただあなたも同伴してくれる? もう前みたいなことはごめんだし。そんなこと竜君はしないと思うけど」
嘘をついていた彼女が蒔いた種でもあるとよく理解している。こういう時の頼もしさは右に出る女性は今まで見たことがない。かっけぇ。
「分かりました。ではそう伝えておきます」
「今はどこにいるの?」
「他の社員さんが怖がっているとおっしゃってたので、近くのカフェで待っててもらってます」
「分かったわ。じゃあその場所だけ教えてくれる?」
「送っておきます」
「ありがと、すぐ行くわ」
電話を切り、俺は元カレさんのいるカフェへと足を向けた。
♡♡♡
「めんどくさいことになったなー」
「誰と連絡してたんですか?」
秘書のさつきが私の電話を耳をダンボにして聞いていたみたいで、わくわくした目でこちらを見てくる。
「運転手」
「ああ! 例の!」
「なによ例のって」
「知らないんですか? 結構噂になってますよ。この会社女性しかいないのに、社長の運転手だけ男で、まあまあのハンサムで。それで彼氏なんじゃないかって」
「そうなの? 一応、秘書扱いで雇ってるだけなんだけど」
嘘は、ついていない。
「でもあれですよ。例の事件の時も一緒に居て助けてくれたとかなんとか」
「さつき、なんかゴシップみたいだよ」
「だって気になりますもん」
「まあ、好きに噂してて」
「わぁー逃げた」
「うるさい。私もういくから。さっき言ってた外に居た不審者はもう彼に何とかしたもらったから安心して帰れるから」
「わお頼もしい。今度紹介してくださいね。一応、秘書の先輩は私なんで」
「はいはい」
さてと、行きますか。
有くんも竜くんもきっと気まずい中、待っているだろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます