30歳、無職。人生詰んだと思っていたら、女社長に拾われました。

えぐち

第1章:失意の中の希望

プロローグ:出会いはブランコ


「西野君、ごめん。会社が倒産することになった」



 ——この日、俺は人生のターニングポイントを迎えることになった。




 まさかこんな事になるなんて、考えてもいなかった。



 ……詰んだ。



 俺、何のスキルもない。




♡♡♡





「花ちゃん、ごめん。俺、君と結婚するの無理だ」



 ——この日、私は結婚を前提に付き合っていたつもりでいた彼に振られた。



 人生イージーモード! なんて思っていたのに急展開。



 ……私の何がいけなかったの? なに? ねえ? 教えて? 家事が出来ないこと? 料理が下手なとこ? ねぇ! ねえ! 何がいけなかったのかおしえてよぉぉぉぉぉ!





♢♢♢




 途方に暮れていた。


 無理もないだろ。急に仕事がなくなる、つまりお金が無くなる。という事なんだから。こうなるのも仕方がないだろう。


 仕事帰りに宛てもなく家にも帰らずに歩いていた俺は薄暗い電灯に照らされているだけの公園に足を踏みいれ、ブランコに腰を掛けてうなだれた。


 高校卒業から働いていた工場。早10年。


 俺は一生此処で働いて、骨をうずめる覚悟でやってきた。


 なのにそれなのに、現実は甘くなかった。


 くそっ! つい力が入り、握っている錆びれたブランコが音が不快な音を立てた。


「あのぉ、すいません」


「……」


「あの! すいませーん!」


「は、はい! え、なんですか? だれですか」


 急に大声で話しかけてくるものだから、びっくりして肩が跳ね上がった。


「あ、いや、隣座ってもいいですか?」

「えっ、ああ、どうぞ……?」


 ……なんでわざわざ隣に座るんだよ。ここブランコだぞ。普通こんな暗い奴が座っていたら座らんだろ。てか、ベンチいけベンチ。


「ありがとうございます」


 軽く会釈をされた俺は会釈を返した。

 するとその彼女は子供みたくブランコに立ち上がり、大きく漕ぎ始めた。


「なにこの人ぉ……怖いんですけどぉ……」


 つい聞こえない声が出る。


「何なんだよくそ野郎が! 私がぁ! なにしたってぇ! 言うんだぁぁぁー!」


 ……完全にイカれてる。怖すぎる。不審者はこういうやつのことをいうんだろうな。キレながらブランコ漕ぐやつなんてなかなかいない。


「ふぅ、すっきりした!」


 立っていたが、ブランコに座り直して地面に足を付けた。


 俺は奇怪な眼差しで見ていた。それにこの人どっかで見たことがあった。勘違いかもしれないが。


「うえぇっ、ぐすっ……ぐずっ、うわーーん!」


 情緒どうした。


 なぜだか俺が泣かしたみたいに見える。だが、他人だ。まごう事なく他人だ。

 だがしかし、ブランコを隣同士で座った仲。慰めてやる事はできんが、やれる事はある。


「あ、あのぅ……よ、よかったらこれ、使ってください」


 彼女は驚いた表情でこちらを見ていた。ちょっとキモかったか……。許してくれ、会社には親父みたいな人ばかりで女性には慣れてないんだ。


「あでぃがどござびばずぅ……」


 それでも渡したハンカチは受け取ってくれた。


「ずびびびびびぃっ!」


 こいつまじか。


「ありがとうございます」


 いや、返してくんな。そんな鼻水まみれのハンカチを。


「あ、だいじょうぶです。あげます」

「いや、いりませんけど」


 真顔で返してこないで。ねぇ、今どんな気持ちでそれを返してきたの?


「あ、はい……」


 素直に受け取る俺もどうなの?


「じゃあ俺はこれで帰りますね」


 なんか早く帰った方がいい気がしてきた。

 鞄を持って、ブランコから立ち上がりこの場を去ろうとした———。


「待ってください!」


 腕を掴まれ、足が止まる。


「な、なんですか?」


「名前っ! 名前だけでもいいから教えてください!」


「なぜに……?」


「私、恩を借りるだけなのは嫌なんで」

「いや別に何もしてなくない……?」


 ハンカチ渡しただけじゃん。それに返されたし。


「名前! 連絡先!」


「は、はい! 名前は西野有馬にしのゆうまです。電話番号は030———」


 彼女の気迫に気圧されて、つい話してしまった。連絡先は言ってなかった……よね?


「ありがとうございます。私は菊沢花きくさわはなって言います。お見知りおきを」


「はい、分かりました。もういいですか?」

「いいです。ではお気を付けて」



 掴まれた腕はすぐに離してくれた。後ろを振り返ると彼女はにこやかに手を振っていて、少しばかり恐怖を感じた。


 でも彼女は自分の電話番号をメモしているわけではないので、きっとこれ限りだろうと思っていた。




 ——そう、思っていのだが。

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