14話:むかしばなし
♡♡♡
これは昔話である。
私は小さい頃、周りから暗い子というイメージの中で過ごしてきた。
現に私は暗かったと思う。
前髪は目にかかり、どこを見ているのか分からないし、人と話すことをしてこなかったので余計に接しづらかったはず。
話しかけられてもなんて返事すればいいか分からなくて「え、うん」とか「……はい」とかとにかくコミュニケーション能力が欠如しまくっていた。
でもどうして今こうしていられるか。
それは他でもない彼のおかげだった。
私はとにかく人が苦手で学校に行っては帰る。家では静かに本を読んで、ご飯を食べて、風呂に入って寝る。毎日がその繰り返しだった。
だけど、たまたま何を思ったのか、河川敷で本を読みたくなった私は堤防の階段に腰掛けて本を読んでいた。
そこで私は彼と出会う……いや、本当は既に出会っていたのだけれど、私が関わらない為、私にとっての出会いはここだったのだ。
「あれ、斎藤じゃん」
斎藤と言うのは私の母親の旧姓。自分結婚したからではない。私はまだ結婚したことがないので安心してほしい。×はついていない。
「……」
急に話しかけられたのですぐに返事をすることが出来なかった。
「本読んでるのか。悪いな、話しかけて」
そう言うと、すぐにどこかへ行ってしまう。
正直驚いた。私の名前をパッと言える人がいることに。
この日はこれで終わり、私はなぜか次の日も同じ場所で本を読んだ。きっと名前を呼んでくれたことが嬉しかったんだと思う。
「お、今日もいるじゃん。そんなに面白いのかその本は」
「……うん、面白いよ」
返事が出来た。
「やっと返事してくれたな」
ニカッと笑うその表情が私にはとても眩しく見えて、同時に胸がドキドキした。単純だ、こうやって構ってくれる人だからコロッとハートを持ってかれてしまった。
チョロ過ぎるぜ。
それから私は毎日、西野君に会うために足繫く通うわけだ。本当にチョロ過ぎる。
彼は学校でも話しかけてくれるけど、私と絡んでる事を良く思わない人もいるので、避けていた。それでも彼は普通に接してくれる。
「斎藤ってさ——」
「ちょっ……やめ———」
前髪を上げられ、顔を見られる。
私は咄嗟に彼の手を払って、顔を隠した。
「悪い悪いっ……でもさ、この髪型が暗くさせてるんだと思うんだよなー」
悪気のない謝罪に当時はイラッとしたけど、単純なので私は次の日に髪の毛を切りに行ったのをよく覚えてる。
こんな漫画みたいな話があるかよって思うかもしれないけれど、彼の言う通りで私は髪型を変えることによって、クラスで少しだけ話題になった。
「あれってまじで?」「嘘だろ」「誰? あんな人いたっけ?」
みたいな会話が結構耳に入ってた。忘れもしない「誰?」って言葉。そんなに私って存在感なかったの? と思い知らされた。
「なっ! だろ?」
私の机の前まできて、ニカッとまた笑って言う。
少し名探偵コナンみたいな言い方が気になったが、彼の言う通りで私の印象は私が悪くしていた。
見た目を変えることによって、これほどまでに人の評価は変わる。
だから私はこの仕事を始めた。
この経験がなければ、私は今ここに居ないし、彼にも会えていない。きっと暗いまま汚い部屋で過ごしていたのだと思う。
「ありがとう、西野君」
****
こんな感じで私と西野君は出会っていた。
今となっては、全然覚えてもいないが——というか、覚えている人間がここまで変わっているから、思い出す云々の話である。
タオル1枚になってもなんとも思わない。
裸になってやるか?
流石にそれは私が野蛮人だと思われるからやめよう。
手を伸ばして、流しているシャワーを止めて、髪の毛を掻き上げる。
わたくし、菊沢花はシャワーを浴びながら、思い出に浸っておりますた。
さて、明日からは本格的に彼との共同生活が始まるし、きっと楽しい毎日になるだろう。
だって、初恋の人と一緒に過ごせるのだから。
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