18話:守りたいもの

♢♢♢




 電話を受けた俺はすぐさまお店へと入る。


 現在地も此処に在るので彼女はまだお店にいることが確認できているので、今すぐ入れば問題ないはずなんだが。


 ここで面倒くさい問題が発生していた。



「だーかーらー! ここで今日会食している菊沢花のお迎えに上がったんです。早く行かせてもらえませんか?」


 名刺を渡してもダメ。


「いえ、こちらはお伺いしていませんので通すことはちょっと……」

「三宅さんって方が予約しておりましたよね?」

「だとしても、私どもは聞いておりませんし……」


 なんだこのくそみたいな料亭は。お聞きしてないから通せない? だったら聞いてこいや。


「じゃあ早く聞いてこい、本人たちに!」

「いや、でも……」

「でもじゃない! 早くしてください! 体調が優れないと言っているんです」


 受付で揉めていると、奥からもう一人偉そうなやつがやってきた。


「すいません、三宅様と菊沢様はさきほど帰られましたので、もうここには居られません」



「は? それマジで言ってんの?」


「はい。先ほどお迎えに上がられまして、菊沢様は抱えられて出て行かれましよ」

「んなわけないだろ。俺は店の前でずっと待っていたんだぞ」


「裏からお帰りになられました」



 その言葉を聞いて、慌ててスマホを見ると移動しはじめているのが分かった。



「お前ら、グルだったら許さねーぞ」

「とんでもございません。三宅様には良くしてもらっておりますが、決してそのような事はございませんので」


 俺はすぐに店を出て、車を走らせた。


 ……大丈夫。場所は分かるんだ。


 焦るな。この辺の土地勘はある。どこを行けばどこに辿り着くかは分かっているので、すぐに追いつける。



*****




 しばらく走っていると、どうやら怪しいというか、もうそれだろうと言う車を見つけた。


 その車が曲がれば、アプリも曲がる。


 つまり今目の前を走っている黒塗りの電気自動車が目標の車で間違いないだろう。



 こっそりとは着いていけないので、堂々とついて行くことにした。


 どうやら高層マンションが立ち並ぶ場所に向かっているのでその辺だろう。俺が運転している車も高級車なのでそこまで違和感ないし、きっとばれない。




 ——エントランス前に停まった。



 俺はその車の後ろにべた付けし、車を降りる。


 すると向こうも降りてくる。


 菊沢花を抱えて。



「おい!」


 怒りという感情を前面に出して、カツカツと靴を鳴らす。


「何ですか、あなた」


「何ですか、あなた。じゃねーんだよ。お前、今自分が何してんのか分かって言ってんのか? 頭悪いんか?」


「なにをいってるのかさっぱり」


「じゃあ分からないポンコツお坊ちゃまに教えてやるよ。その女、菊沢花だよな? それうちの社長なんだわ」


「は? か、勘違いだろ」


「勘違いもなにも、俺は菊沢花と一緒に暮らしてんの。間違えるわけないだろ。お前よりよく知ってんだよ。えーっと、貴方は三宅拓郎さんでしたっけ? かの有名広告会社の三宅グループのご子息が菊沢花を眠らせて、えー、誘拐紛いな事をしているという事でリークしてもよろしいですね?」


 写真は撮らせてもらいましたから。とはったりをかますが、念のため今のうちに写真を撮っておこう。パシャリと。


「何を言ってるんですか? 同意の上ですよ」

「ばかを言え。同意の上でなんで彼女は寝てんだよ。それに俺は電話で彼女から迎えに来てと言われてるんですから。そんなバレバレの嘘言わないでくださいよ、みっともない。それと彼女をこちらへ返して貰えますか?」


「は? 何言ってんの? 渡すわけないだろ」

「警察呼びますよ?」


「呼べば? 身分も明かさないような奴に渡せるわけないだろ」

「あー、それは失礼しました。ではこれを」


 名刺入れから、名刺を取り出して彼に渡す。


『株式会社chrysanthemum《クリサンセマム》 秘書 西野有馬』と書かれている、ちょっとカッコよい名刺を渡すと彼の目はギョッとした。


「これはこれは……どうやら私が間違っていました……申し訳ございません……」


 そう言うと、菊沢花をこちらに渡してきた。


「ご理解が早くて助かりますよ、三宅さん。これからもうちを御贔屓にしてもらえるとありがたいですが、この件に関しては看過できません。これからこういった会食はお断りさせていただきます。それと本人と話し合い、これからを考えさせていただきますね」


「ちょっとそれだけは待って——」


「写真、あるんですから……考えれば分かりますよね。お立場考えてくださいね」


「くっ————」


「私からは以上です。あとは連絡を待ってください。彼女の判断に任せますから」



 彼女を抱え、後部座席に寝ころがせて俺はその場を後にした。





****




「うーん……」



 家ついた俺は彼女をベッドに運び込み、寝かせていた。


 隣にいて起きるのを待っていると、意外にもすぐに目を覚ました。


「大丈夫ですか?」

「……あれ、ここ家、か……」


 まだはっきりしないらしい。

 なにでこうなったのかは分からないが、なにか盛られた可能性が高い。普通に犯罪である。


「間に合ってよかった」


「そうだ、私なんだか頭がふらふらして、トイレで西野君に電話して……それからの記憶がなくて……」



 経緯を説明すると、彼女は驚いていた。



「だからこれからどうするかはあなたが判断してください。もうこんなことは起きてほしくないですから」


「そうだよね……にしても、薬盛られてたかー。そこまでは予想外だった」


 笑いながら言う彼女に少しイラついてしまう。


「笑い事じゃない」

「そうだよね、ごめん」


「俺がどれだけ心配したことか……頼むからもうやめてくれよ」

「ごめんなさい。でもどうしたの? らしくないよ」


 らしくもなくなるだろ。


 急にいなくなったあの日のように、また同じような事を繰り返すところだったんだから。




「菊沢花……、あなたは斎藤花なんだろ?」

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