第27話 社会人バスケ4
《ルビを入力…》駿君がスリーポイントを決めたことにより、得点は3対2となった。
この調子でどんどん行こうと思う。
前川さんとのマッチアップはめちゃくちゃ面白い。
僕がディフェンスでドリブルを防ごうと距離を取れば、パスを回して
パスを防ごうと距離を詰めれば、ドリブルでかわしてくる。
凄い!勉強になる。
こういう上手い人はこれをされたら、あれをする。とか、あれをされたら、これをする。って問いに対しての答えがすでにあるんだと思う。
たまたま、この練習に誘われただけなんだし、この際色んな引き出しが見てみたい願望が強くなる。
とにかく観察。
「葉月ちゃん、そこ切れていいよ。センター面とって!パス入らないなら逆サイドにスクリーンかけに行って!そこ!」
スクリーンをかけてフリーになったもう1人のセンターにゴール下で鋭いパスが入る。
ナイスパスだ。
観てて思ったことは個人技よりも立ち回り…味方を活かす動きが多いな。
ガードと言うか監督?
なんかコート内での指示がプレイヤーって言うよりも監督として見てる気がする。
正直、僕には真似できないなぁ。
上手いには上手いけど、僕とは質が違う上手さではある。
お手本と言うかこう言うバスケもあるんだなぁって言う感想かな。
ゲームの方は一進一退でくり広げられている。
前川さんは依然として前から圧をかけてくる。
僕にとっては良い練習になるので嬉しいんだが。
前川さんのプレッシャーでもボール運びができることは朗報である。
ボールハンドリングとドリブルドリルを毎日行い、ボールコントロールを磨いてきた甲斐はあったわけだ。
前世では出来なかったガードとしての能力が少しは備わったわけだ。
この10年が無駄ではなかった事で正直ホッとしてる。
引き続き努力は怠らないことを誓おう。
などと僕が一瞬、ゲームと違うことを考えたせいで隙ができたのだろう。
前川さんがボールを取りに飛び込んできた。
僕は間一髪、バックチェンジでかわす。
「あっぶね〜!前川さん相手だと一瞬も気が抜けないよ」
前川さんをかわし、前が空いてそのままフリーとなった僕はドリブルで切れ込む。
ヘルプがきたらパスをだそうと思っていたがディフェンスはパスを警戒してでてこない。
それならそれでいい。
逆にパスをするフリをして踏み込む。
パスのワンフェイクも入れつつ、スクープショット(少し距離のあるレイアップシュートと言えば分かりやすい?)を放ち、軽やかに決める。
「え?
「ナイスシュート!」
「おいおい…てか、もう驚かないぞ」
「切り替えろ!ディフェンスだ!」
と言ってる間に気が緩んでる時を狙われて、前川さんはエンドからボールを貰うと素早くボール運び速攻気味に攻めてきた。
僕は前川さんにはついていたが前を走るノーマークの人にパスを出され決められてしまった。
残り時間はあと僅か、点差は1点差で負けている。
前川さんは僕のドリブル突破を警戒して少し下がりめでついている。
くっ!さすが。落ち着いてる。
ここを打開するために駿君にスクリーンをかけにきてもらう。
前川さんはスクリーンを警戒しつつ、僕に一定の距離を保つ。
スクリーンを使って、スレスレをカットインする。
前川さんはこれを読んでいて僕についてくる。
葉月はまた僕に警戒して中にいる。
駿君はフリーになっている。
「駿君!」
「外。だろ?分かってたよ。取った!」
僕が序盤に放ったビハインドザバックパスをこの場でも使うことを読んでいた前川さんがドンピシャで背中越しのパスに合わせて止めに来る。
やばい!キャンセルムーブは間に合わない。
くっ!これしかない。
「なっ!?ボールがない!?どこだ!?」
ボールの行方はゴール下でフリーになっていた駿君のお父さんの元へ向かっていた。
駿君のお父さんも面食らって一瞬弾いてファンブルしてしまうがなんとかキャッチしてゴール下を無理矢理決めた。
ブー!
タイムアップのブザーが鳴りゲームが終了した。
ギリギリで勝てたぁ。
「マモ!何、今の!?私見えなかったんですけど!」
「え?あー…今のプレイ?説明しなきゃダメ?」
「当たり前でしょ!」
興味があるのかみんなが集まってくる。
「今のは…」
「エルボーパス…かな?」
「え!?せ、正解です」
「エ、エルボーパス!?」
「う、うん。ビハインドザバックパスがカットされそうになったから反対の肘で逆に弾いたんだよ」
「なるほど」
「あの、前川さんは見えたんですか?」
「いや、推測でね。順に追っていくとエルボーパスしかないと思ってね」
「真守くんはそんなこともできるのかい?びっくりしてキャッチできなかったよ」
「いえ、初めてやりました。今まで僕のパスに反応できて尚且つカットされそうになったことなんてなかったもので」
「あ、そうだよね…まだ、中学生になったばかりなんだよね…」
「なんか納得」
『…………』
「よし!あがりますか!」
「そうだね。じゃあボールと得点板は片しとくよ」
「よろしく」
「お騒がせしました」
さ、サッサと帰る準備するか。
「お疲れ。君、ほんとに中学生かい?」
「え?あ、前川さんお疲れ様です。僕ですか?僕は今年から南中に入学した正真正銘の中学1年生ですよ」
「南中!?そっか〜。名前は聞いても良いかい?」
「あ、はい。萩原真守って言います」
「萩原真守くんね。今年ってことは葉月ちゃんと同い年なんだね?」
「そうですね。葉月とは同い年でミニバスやりだした頃からの付き合いです」
「そうなんだ…ちなみに中学ではバスケ部には入るのかい?」
「はい!けど、仮入部ですぐ帰らされてモヤモヤしてます…」
「それで私が誘ってここに来たんだよね」
「葉月?うん、今日は発散と良い練習になったので来て良かったです」
「そうかい。ところで葉月ちゃん、お父さんは真守くんのことはご存知だったのかい?」
「うん!知ってたと思うよ。お兄ちゃんも話してたと思うし」
「なるほどね…あんにゃろう!そう言うことか。葉月ちゃんありがとう。真守くんもまた、バスケやろうね。それじゃ俺はあがるね。お疲れ様でした」
『お疲れ様でした!』
前川さんはお疲れの挨拶と共にいそいそと帰って行った。
僕も帰ろうかな。
「葉月、今日はありがとう!めちゃくちゃ楽しかった!あと、駿君に伝えて。バスケは色んなポジションがあるんだよって。小さいからってガードをやらなきゃいけない理由はない。まぁ、今日のプレイを見てたら答えは出てるのかもしれないけどね」
「わかった!伝えとく。マモ!また、一緒にバスケやろうね」
葉月はニコッと笑顔でそう言った。
不意の美少女の笑顔に僕は焦る。
「へぁ?う、うん。そ、それじゃ僕は帰るね。お疲れ様」
「え?あ、お疲れ〜!」
うぅ、めちゃくちゃドキっとしたよ。
葉月が美少女なの忘れてたよ。
あの笑顔は反則だろ。
でも葉月には好きな人がいるんだし、変な気は起こさないようにしないと。
風邪ひかないように早く帰ろっと。
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