第33話  大会前の試合4

惜しかった。

弾かなければ一気にチャンスになったのに。

「惜しかったね。ナイスファイト!」

そう言ってくれたのは千葉先輩だった。

すごいな。自分が一番大変なのに。

メンタルは強いんだろうな。


僕が弾いたボールはエンドラインを越えてしまったのでスローインはエンドから始まる。

エンドからのスローインって実はかなり危ないんだよね。

ゴールに近いのはそうだし、ディフェンスはゴール下を警戒するのは当たり前。

そーすると…

考えてる最中にボールは入れられる。

中を意識した時に外が疎かになるのはしょうがない事。

ただ、今回は外のスペシャリストの中山先輩がいることがヤバい!

警戒していても無理矢理射ってくる。


スパンっ!


……3連続スリー。

今のスリーポイントは点数差以上に重い一撃。

再び同点。

離しても離しても喰らいついてくる。


「へい」

声のする方を見ると龍也が呼んでいる。

そこにパスを合わせ、ミートと同時にジャンプシュートを放つ。

高い!しなやかなフォームで射つシュートに星野先輩もついていくのがやっとだ。

ザシュッ!

「ナイスシュート!調子良いな!」

「まだまだ!もっとパスくれ!」

「了解!」

「ディフェンス!ここ止めるぞ!」

「「おう!」」


ボール運びをする竹内先輩をつつ、警戒するのは中山先輩だ。

中山先輩はローポストにいる。

ん?ローポストなら入っても2点止まりか。警戒する必要はない?

いや!

45°に位置する大木先輩がローポストにおりていき、スクリーンをかける。

「スクリーン!スイッチ!」

スクリーンがかかった瞬間中山先輩が外に出る。

千葉先輩が慌てて外に飛び出す。


いつも通りのタイミング、いつも通りのミート、いつも通りのシュートフォーム、いつも通りのシュートタッチ、いつも通りを体現したシュートが……入る。


スパンッ!


よ、4連続スリー……

これで14対13。

逆転された。


なるほど、これは強烈だな。

あのNBAの金字塔、ステフ◯ンカリーを相手にしてるとこんな感じなのかな?

まぁ、ステファン◯リーの方がすごいに決まってるけども。

それは置いといても、キツイ状況である事に変わりはない。

この状況で1番やばいのは次もスリーが入っちゃうって言う先入観。

実際に本当に入るかもしれないが、そちらに意識が偏ると相手に上手く転がされるに違いない。

そこは先生に任せるしかないか。

先生の方をなんとなく見てみる。

目が合った。

何も言わずに先生は頷いてくれた。

よし、任せよう!

残り5分くらいか。

龍也も調子良さそうだし、相手がスリーを中心に攻めてくるなら、逆にこっちはペースを上げて早い攻撃を展開するか。

体も感覚も温まってきたし、行くとしますか。


ボールを貰い、ドリブルに移行する。

竹内先輩は先ほどよりさらに距離をとってディフェンスをしてる。

竹内先輩が僕のドリブルを警戒して間合いをあけてる状況なのでフロントチェンジが容易にできる。

フロントチェンジをしながら間合いを詰める。

その詰めた間合いを竹内先輩はさらに間合いをあける。

なるほど、この間合いがあれば抜かれないと思っているのね?

ま、普通ならこれだけ間合いをあけてくれるのはボールを運ぶ上では楽でいいんだけどね。

ガードにとってリスクが無いから。

だけど今は練習だし、リスクを度外視に見ても、もっとチャレンジをしてほしいよね。

リスク管理もガードの仕事だけどね。

オフェンスにとってもディフェンスにとっても練習はもっとチャレンジしたほうがいい。

ディフェンスにしても抜かれてもいいからプレッシャーを与えたほうがボールを運ぶほうも練習になるし、プレッシャー与えながら抜かれないようにするのが理想だよね。

なので、竹内先輩には悪いけど退いて守っても意味ないことを教えてあげよう。


「さっきはやられたけど、次は抜かせないよ」

お?竹内先輩が話しかけてきた。

「さっきはまだ体が温まってない状態でしたけど、段々と温まってきました。僕ももっと強くいきますよ。覚悟はいいですか?」

僕の返答に竹内先輩は少し顔を顰めるがすぐに表情を戻す。

チェンジオブペース。

ドリブルの緩急をつけ、間合いとタイミングを計る。

確かにさっきより半歩、いや一歩分下がってディフェンス意識してるので若干のその自信もわかるのだけど、さっき言ったよね?体が温まってきたって。

竹内先輩には言ってないけど、集中力(感覚)も温まってきてるのよ。


ドリブルしながら、わざと体勢を高くして煽る。

竹内先輩は動かない。

高い姿勢から一気に低い姿勢にうつし、前進する。

竹内先輩は退きながらさっきの間合いを維持する。

僕は躊躇わずそのままハーフラインまで前進する。

竹内先輩のプレッシャーは未(いま)だ無い。

ちなみに前世の僕だったら、こんだけディフェンスが離れてたらそのままスリーを射っちゃうんだけど、今世の僕はまだスリーを射てない。

ただ、理想には近づいてる。

相手が退いたら、スリー。

相手がプレッシャーかけてきたら抜く。

今はまだひたすらドリブルで抜く技術を磨く。

ディフェンスが退いても抜ける技術を習得する時期。

そして、練習相手にはピッタリのディフェンスする竹内先輩。

やるしかないでしょ。

フロントチェンジで右から左、左から右にボールを移した瞬間。

右から抜きに行く。

一気に間合いが無くなったがちゃんと竹内先輩は反応する。

そこからさらにクロスオーバー気味に逆をつく。

竹内先輩の反応が遅れる。

この瞬間とき、竹内先輩は僕の前ではなく横についている。

そこから強引にスピードを上げてレイアップシュートの体勢に入る。

飯田先輩がカバーに来る。

僕のジャンプの動きに合わせてシュートブロックしにくる。

僕は空中で体勢を変え、飯田先輩の背中越しにボールを移し、手首の力だけでボールを放る。

ボールはボードに当たり、ゴールに吸い込まれる。

ダブルクラッチ。

へへっ!決まった!


「おいおい!あいつどんだけ飛んでんだよ。スピードだけじゃなくてジャンプ力もあるじゃん!」

「それだけじゃない。ボールコントロールも馬鹿みたいに上手いよ」

「パスもできるぞ!視野も広いし」

「シュートもレイアップとスクープショット?だけど、かなりの確率で入れてる」

「竹内、ディフェンス大丈夫か?」

「なんとかな。ただ、ついていくのがやっとって感じだ。悔しいが」

「なら、先生がいつも言ってる3人目の意識を強くしていこう!」

「だな。カバー意識高めで行こう!これも練習だ!大会前にちょうどいい」

「中山、どんどんパスだしていくからな。射てよ」

「はい!」



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