第18話  全国区の監督

《全国区の監督》



この間の連絡には驚いた。

昔、一緒にバスケをやっていた俺が認めている数少ない知り合いからの連絡を受けて、話を聞いてみると信じられない事を口にしていたからだ。

奴が言うには、

『今、うちにいる最年少の子達がすごいんだよ。今度、お前んとこのチームと試合させてくれないかなと思ってさ』

なんて言ってきたんだよ。

うちは何回も全国行ってるし、強い子達がわんさかいるし、世間一般的に見ても強豪と言っても過言ではない。

そして、そいつが教えてるミニバスチームは多めに見てもうちの相手になるチームではない。

そのことが分からない奴では決してない。

こんな冗談を言う奴では無いので

「面白い!試合の件は了解した。当日楽しみにしている」

と言って電話を切った。



当日。

第1クォーターの初っ端から小学生離れをしたパスを放ち、相手に度肝を抜かせた。

予想通り第1クォーターはこちらが大差をつけて終了した。

そのままメンバーを変えずに第2クォーターも突き放しにかかろうとしたが、交代した相手のガードの子が意外としっかりした立ち回りを見せて、突き放せずに第2クォーターも終了した。


ハーフタイムで休憩を行い、続く第3クォーターはミニバスのルール上、メンバーを入れ替えなければならず、控えのメンバーを出した。

控えと言えども、うちのチームの方が強いに決まってると思っていると、やけにディフェンスが上手い小さい子がいるなぁと関心して見ているとその子を起点にみるみる点差が縮まってきた。

そして、第3クォーター終了する頃には5点差まで詰め寄られた。

このままでは不味いと思い、第4クォーターはメンバーを戻すことにした。


第4クォーター始まると第1クォーターで見せた小学生離れしたパスと遜色ないパスを敵チームの1番小さな子が放っていた。

これには俺も度肝を抜いたよ。

すぐにあの子か!と思って、食い入るようにその子を観察したよ。


試合には慣れてるし、大人顔負けのボールハンドリング、パスも申し分なく、発想も良い。

あとで聞いたらこの試合が初の試合らしく、そんな馬鹿なことがあるか!って普通に突っ込んじまったよ。

普通、初めての試合は何をして良いか分からず、何もできないまま試合が終わってしまうものなんだよな。

自分がしたい事を相手にやらせてもらえない。

なんせ、自分も必死だが相手だって必死だからな。

何百、何千と練習と試合を繰り返して、やっと自分がしたい事ができるようになるってもんだ。

相手はこう動く、すると自分はこう動くとパスが貰える。

さらに相手はこう動く、自分は今度はこう動くと相手をドリブルで抜けてシュート又はパスを選択できる。

みたいに経験を通して、徐々にやれるようになるのが普通なんだよ。

いきなりできる奴はまずいない。

いるとすれば、別の似た様なスポーツを齧っていたりすれば、少しはできるかもしれんがな。

だが、あの子は他のスポーツをやってるって言うよりはバスケ一筋、10年は続けているような、熟知しすぎてる動きなんだよな。

無駄な動きが無く、洗練されていて、経験者の俺から見ても未経験とは思えない程、ちゃんとバスケをしてる。

あんなパス、バスケをちゃんと知ってないとまずできないぞ。

あれでまだ4歳って言うんだから、想像を絶する。

俺が知っているバスケの概念が吹き飛びそうだ。

だが、これからのバスケットボール界を引っ張っていく存在であるのは間違いないだろう。

ゾッとすると同時にワクワクもしてきた。

これからの彼の成長が楽しみで仕方ない。

懸念があるとすれば、身長か。

日本人は基本的に海外の人よりも身長が低い。

バスケットにとってこれは大きなハンデになってしまう。

NBAの選手たちは2メートル越えのガードなんて普通に存在する。

まぁ、身長に関してはある意味で運否天賦に任せるしか無いのだが。

しっかり、ストレス無く育ってほしい。


試合の方は白熱した試合展開の末、同点で終了した。

いやぁ、両チームとも未来ある少年たちを見てるとワクワクが止まらんね。

もー1試合やるはずだったが相手チームの疲労が結構あると判断して辞めになった。

無理してもしょうがないからな。


『よっ!うちの子達はどうだった?全国区相手に引けは取らなかっただろ?』

「おう!想像以上でびっくりしたわ!何人かはうちで育てたいくらいだわ」

『駄目に決まってんだろ!うちで大事に育成するんだから』

「大会には出るのか?出るなら面白いけどなぁ」

『本人たちの希望によるけど、今日見て分かったけど、まだまだ体力がついてないからね。怪我したら元も子もないからなぁ。基本は小学生になるまでは出させないと思う』

「そうか。残念と安心が50%だな。まぁでもそうすると大会出場するなら3年後か。期待してるよ」

『おう!期待しててくれ。そっちも同年代の子を大事に育ててくれよ』

「分かってるわ!全国区のチームなめんなよ。てか今度、飯でも食いにいこうや。その辺の話もっと聞きたいからさ」

『おう!いいぞ。じゃあ近いうちに連絡するわ』

「それじゃ、また今度な。おい!お前ら!片付けたらあっちで集合な!」

「はい!」

『はーい!うちも集合!…』


そのあと、集合して帰り支度をしてるとうちの奴らが

「監督〜もう終わり〜?」「もっとバスケしたかったなあ」「楽しかった〜またやりたい」

と言っていたので今回の練習試合はうちとしても成功だったかなと思い、嬉しく思ったのは言うまでもない。

それにしてもあの子、真守君って言ったか。真守君はこれから台風の目になることは間違いない。

こっちとしても影ながら応援していこうと思ったのだった。



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