第9話  部長の目標

《部長視点》



プルルルルルル、プルルルルルル。

時間は夜9時。

けたたましく鳴る自分のスマホの画面を見るとそこには社長の名前があった。

こんな時間に何の用だ?

まぁ、考えていても仕方がない。

俺は電話にでた。

「おう!俺だ!」

「もしもし、社長ですか?こんな時間になんかあったんですか?」

「まぁな。明日、事務所に来れるか?」

「明日ですか?明日は…午後から外回りの予定なので、午前中なら事務所に寄れます」

「そうか。なら、午前中になるべく早く来てくれ!要件はその時話すから。よろしく!」

プープープープー…


…社長、慌ててたな。

あの感じはただ事ではないけど、明日でいい?

…分からない、今俺が考えても埒があかないな。

さっさと寝て、明日に備えるか。




…アラームが鳴っている。

起きる時間か。

朝は億劫で仕方ない。

まずはシャワーを浴びて頭をスッキリさせるとするか。



ふー、さっぱりした。

それじゃ、朝ごはんでも食べようかね。


火をつけて、フライパンを置く。

その間にトースターにパンをセットする。

温まってきたら、フライパンに油を垂らす。

そして、ベーコンを敷いて、火が通るまで放置。

ベーコンに焼き色が付いたらひっくり返す。

強火にして、卵を2つ落とす。

少し、フライパンに水を入れて、水がじゅうじゅう言っているのを確認したら、弱火に戻す。

蓋をして、また少し放置。

その時、チン!っと鳴ったのでパンを取って、バターを塗る。

プレートにパンを置いて、フライパンの中身を確認する。

いい具合に卵がかたまったな。

卵の火の通り具合を見て、満足し、プレートに移す。

完成。

俺の好きな胡椒と醤油をかけて、いただきます。

うん!上手い。

野菜が無いけどしょうがないな。

あ!確か、冷蔵庫にあと1つだけトマトがあったような気がする。

あった!野菜室の奥のほうにしまってた。

このまま、食べちゃうか。

むしゃり。

お!上手い!

食べ始めて数分で全部食べ終えてしまった。

美味しかった。ご馳走様でした。


朝食を食べ終え、まだ少し時間があるのでソファに腰をかけ横になる。

いかん!このまま寝てしまいそうだ。

ダメだ。少し早いが、着替えて行くとするか。

いつものスーツに着替えて、昨日用意した午後の分の資料があるのを確認して車に乗り込む。


30分くらい車を走らせ、事務所に到着した。

昨日のあの電話…いったいなんの話があるのだろうか?

そんな事を考えながら、事務所の社長室に向かい、ドアを叩く。

コンコン。

「社長、入ります」

「ん?おう!入れ」

ガチャリとドアを開けると、そこには待ってたぞ!と言わんばかりの社長がいた。

「社長。おはようございます」

「おう!おはよう!悪いな、部長。急に呼び出してしまって。実はな、昨日事務所に帰って来た祐一が報告してきたんだが、祐一の所に体験で来た幼稚園児の子がまともじゃないそうでな。1度、部長と2人でその子を見に行きたいと思ってな」

「まともじゃないと言うのは?」

「祐一が言うには、長年やってきたプレイスタイルがあるとか言っててな。幼稚園児に長年もくそもないだろと思って、何を言ってるんだ?と聞き返してしまった。そしたら、自分でもよく分からないって。どー思う?」

「うーん。長年ねぇ…実際に見てみないと分からないですね」

「だろうな。よし、分かった。とりあえず、その子たちは他にやるとこが無さそうなんでうちに来てくれるっぽいんで連絡が来たらってことにするか」

「それしかないですね」

「決まり。そういう事だから、また連絡するわ。今日は、わざわざ すまんな」

「いえいえ。それじゃ、俺はこれで」

社長にペコリと会釈し、俺はその場を後にした。


その日の夜、社長からDMが送られてきた。

内容は『来週の水曜日、16時に足立区の南小に集合』だそうだ。

俺は社長に了解致しました、とDMを返信した。


翌週の水曜日、午後3時半頃。

南小に到着した俺は車を裏の駐車スペースに入れた。

隣には社長の車が有ったので、すでに到着しているのだなと思い、気持ち足早に体育館へと向かった。

体育館の脇には社長がいた。

「社長、今着きました」

声をかけた俺に気づき、笑顔で

「おう、俺も今さっき着いたとこだよ」

「えーっと、真守君…でしたっけ?まだ来てないんですか?」

「ああ、まだ来てないな。ん?おい!あの子たちじゃないか?」

社長に言われた方を向くと、小さな男の子2人が歩いて来るのが見えた。

2人の男の子たちが体育館の入り口で「こんにちは〜」と元気良く挨拶して体育館に入り、いそいそとバッシュに履き替えていた。

俺と社長が見ているとこちらに気づいて、ビクッとして目を逸らされた。

うん、確かにおじさん2人が凝視してれば怖いよね。


「集合!」

その掛け声と共に散り散りだったみんなが一斉に集まる。

「今日から、正式にチームのメンバーになる龍也と真守だ!みんな仲良くしてやってくれなー!」

「はい!」

「それじゃ、いつも通り練習を始めてくれ」

「はい!それじゃランニングからやるよ〜」


練習メニューをこなしているところを見て、確かに幼稚園児の動きではないように感じる。

もう1人の幼稚園児、龍也君は才能の塊である。

今からバスケ始めて、ずっと続けてられれば将来日本を背負う逸材になりかねない。

そして、真守君は技術だけでみたらすでに小学生のレベルすら超えているかもしれない。

このあと、ゲームがあった気がする。その時にもっとよく分かるかもしれない。


練習の合間の小休止になり水分を補給する。

「よーし、それではチームを2つに分けて5対5やるぞー」


両チームともに何やら話あっている様子。

赤と青で色分けしているな。

赤チームが龍也君たち、青チームが真守君たちのチームだな。


ジャンプボールで試合が始まる。


先にボールを手にしたのは赤チームだ。

赤チームの大地(だいち)が縦に大きくボールを放る。

反応したのは龍也君だ。

龍也君はパスをキャッチしてそのままレイアップシュートで点を決める。

ナイスプレイだ。

「ナイスシュート!」

「ありがとうございます」


「ドンマイ」

駿君が真守君に声をかけてる。

おお!真守君、Vカットなんてどこで覚えたんだ?

チーム練習とかでやらないと覚えられないんじゃないのか。

お!ナイスシュート。駿、上手くなったなぁ。

「ナイスシュートです」

「ありがとう」

赤チームの攻撃。

ほぉ!真守君良いディフェンスするなぁ。

龍也君嫌そうにしてるなぁ。

ん?龍也君が何かに気づいたみたいだな。

おお、Vカット!龍也君もできるんだな。

ここでようやく1対1だな。


龍也君はシュートフェイクから、左にぬきにいく。

龍也君はまだ左手のドリブルが弱いな。

それだと逆に捕まえられて、苦しくなるかもな。

案の定、ゴール下であたふたして3秒オーバータイムになってしまった。

「ナイスディフェンス!」

「あざす」

「龍也君、ドンマイだぞ!」


次は真守君か。

龍也君がすぐにマークにつく。

おお!危なげなくボールを運べるな。安定している。

一気に抜いてチャンスだ。

お、味方もちゃんと使えるのか。良い判断だ。

うん!良い形で決めれたな。


「ナイスシュート!切り替えていこう!ディフェンスね」

「はい!」

ほぉ、ディナイね。

一長一短があるディフェンスだけど、良いディフェンスしてる。基本的に真守君はディフェンス上手いな。

てか、上手すぎる。幼稚園児のそれではない。

ちょっと、相手の龍也君が可哀想だな。


久々にみんなのプレイも見たがのびのびやって上手くなってるみたいでよかったなぁ。

そんななかで真守君と龍也君は遜色なくやれているのはちょっと考えられない。

ただ、1つ言えるのは育て方を間違えると日本のバスケ界の損失は大きいと思う。


「部長、どうだ?2人は」

「はい、想像以上でした。祐一の言っていた意味もなんとなく分かりました。これからの事を考えると胃が痛くなります」

「確かにwこれから忙しくなるぞ!」

「社長、自分は明日からバスケ協会の上層部にかけあってみようと思います」

「分かった!俺の力が必要だったら遠慮なく呼んでくれ。すぐに飛んでいくぞ」

「助かります。やる事やってダメだった時は社長の助けを借りたいと思います」

「おう!いつでもいいぞ!祐一!夏休み中に練習試合組むぞ!親御さんたちに許可をもらって来い!」

「え?は、はい!日にちはいつですか?」

「まだ、分からん!明日か明後日に試合相手の方にかけ合ってみるから決まるのはその後だな」

「了解しました!」

「よし、明日は忙しくなりそうだ。部長はこのまま上がってくれ。それじゃ、また明日な」

「はい、失礼します」


帰り道、ふと、先ほどの幼稚園児のプレイを思い出す。

すごい才能だ。彼らは日々成長を続けるんだろうな。

彼らの道標になってあげるのが今の俺の仕事なのだろうと思う。

明日からまた頑張ろう。

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