第3話 旅の始めは3人で
そして次の日
エーデルは荷造りを終えて今までお世話になっていたアパートを出発する。
「あら?エーデルちゃん。どうしたのその荷物?」
パン屋のおばさんが話しかけてきた。
「私暫く旅に出るんです!自分を見つめ直す為に!」
「あらぁそうなの?看板娘の復活だと思ったのにぃ…。あ!もしかして鬼人のあの男の子も行くの?」
「え?行きますけど…でも二人じゃないですよ?魔族の子も一緒です。」
するとおばさんはあらぁと口に手を当てた。
「あらやだ!もしかして昨日話題になってたあの綺麗な男の子?」
「知ってるんですか?」
「えぇ!女の子達は顔が良いのに勿体無いっていってたわよ?」
「それは分かるかも…」
あの顔面を持ちながらあの口調と性格。確かに損してる。しかしおばさんは更にウフフと笑う。
「でもね?あの子良い子よ?風船飛ばして泣いてた子がいたのよ?空高く飛んでいったの。それをその男の子が翼生やして飛んで風船を取ってくれてたのよ?」
「え!そんなんですか!」
魔族はもう一つの特徴としては蝙蝠の様な翼を背中から出すことが出来る。そして飛行する事が可能だ。
エーデルは口をポカーンと開けている。てっきり放置するタイプだと思ってたからだ。
「まぁ…気の利いた言葉とかはかけずに取った風船を子供に押し付けてサッサとどっか行っちゃったけどね?あとはそうねぇ…お金を脅し取られそうになってたお爺ちゃんとお婆ちゃんがいたんだけどね?
あの男の子が脅してた男を退散させてくれたんですって!でもその時もサッサと行ったみたいよ?多分不器用なのよねあの子。」
出てくるヴラムの行った善行。そういえばとエーデルは昨日のことを思い出していた。
バトルの時にもエーデルが二人の男にやらしい目で見られた時も背中に隠してくれた。そしてエーデルが魔法を発動するまでは一人でその二人を相手にしようとしていた。
そしてもう一つは最初見た時に女性達に取り巻かれていた時。きっとそれが通行の邪魔になると考えたのだろう。
お年寄りや子供、他の通行人が困ってるからこそ酷い罵倒を女性達に浴びせて退散させたのではなかろうか?
「私…ヴラムの事よく分かってないなぁ…」
「でも一緒に旅するなら知っていけばいいじゃない!お友達になれるかもしれないわよ?
けど…ふふふ♡エーデルちゃんもすみに置けないわねぇ♡いい男二人侍らせて旅できるなんて…その内取り合いになるんじゃない?」
「え〜いやいやなりませんよ。では私そろそろ行きますね?」
「あらそうなの?気をつけて!あ!そうだ」
するとおばさんはゴソゴソと紙袋を取り出した。中にはパンがぎっしり入っていた。
「良かったら3人で食べなさい!」
「わぁ♡いいんですか!ありがとうございます!」
パンを受け取ったエーデルは頬を染めて喜んだ。
「いいのよ!エーデルちゃんは私に取っては娘みたいなものだもの!」
「うふふ!嬉しいなぁ…。よーし!頑張ってきます!そしてまたここのパン買いにきますね!」
「バイトも募集してるからね!」
「あはは!ハイ!行ってきます!」
エーデルは晴れやかな気分で町の入り口に向けて走る。するとそこには既に他の男二人が待っていた。シュリの横には大量の荷物を積んだ荷車が置かれている。
「ちっ遅い…」
「はいはいごめんね?」
「全く…自分から言い出したくsモガ!」
「まぁまぁこれでも食べて落ち着きたまえ!」
エーデルは袋からチョココロネを取り出してヴラムの口に詰め込んだ。
「シュリは何がいい?」
「ひえ!え…えと俺はこれで…」
シュリはカレーパンを取り出した。
「んじゃあ私も食べよっと!食べ歩きながらいきましょう!」
エーデルはメロンパンを取り出した。
「うま…」
ヴラムは静かにモグモグとチョココロネを頬張った。
クロユリの森はブロッサムの街から少し遠い町である。まずは途中にある村"ウツギ村"を目指して歩く事にした。
3人は貰ったパンをすぐに平らげてお腹がいっぱいである。
ウツギ村までの道のりはあたり一面が緑の草原である。比較的安全な地域なので行商人もよく通る道だ。
「上手い事辻馬車とか来たらラッキーだよね。」
「んな上手い事が起こるか?」
「んもぉヴラムはテンションひっくいなぁ!旅だよ!旅!テンション上がらない!?」
「いや別に…あと貴様のテンションならあのババアと合うかもな。」
新たな旅にエーデルはワクワクが止まらない。しかしヴラムはめんどくさそうな顔をしている。
「俺とヴラム様の相性もバッチリフィットしてます!」
「嫌だ」
「あ…やなんだ…」
シュリは何やら興奮している。ヴラムは耳の近くでそう声を上げるシュリに眉間に皺を寄せている。顔がシワシワになっている。
そしてそんな一方通行な矢印にエーデルはシュリを哀れそうに見ている。
すると何やら地響きが起こり始めた。
「え!な…何!」
「成程な…"ボア"の大群だな。」
"ボア"…猪のような姿をした魔物である。大群で行動する。ちなみに味は豚肉と似ていて美味だし、玉ねぎと合わせて調理すると血液サラサラだ!
「しかし凄い大群ですね?」
「ふむ…む!」
大群はドドドと砂煙を上げて前を歩く旅人に突っ込もうとする。ヴラムはいち早くそれに気づいて素早く羽ばたく。
「"
旅人の前に着地して瞬時に氷のバリアを張る。しかしあまりの大群だ。氷はピキピキと少しずつひび割れていく。
「何してる!早く逃げんか!」
「は!はい!」
ヴラムは逃げ遅れてる旅人に警告した。旅人はすぐに走っていく。すると氷の壁に阻まれていたボア達は方向転換した。今度はエーデルとシュリの方に走っていく。
「やば!魔法を!」
「いや…此処は俺に任せろ!女性に守られる訳にはいかん!」
するとシュリは背中に担いでいた巨大な包丁のような大剣を取り出して構えた。
「ふん!」
迫り来るボアに思いっきり大剣を横に振る。すると振った衝撃で起こった強い風にボアが吹っ飛ばされていく。その間エーデルは魔法を発動する。
「"
エーデルは以前獣人に放った技を放つ。すると後方にいたボアに当たりダメージを与えた。
そして更にシュリは迫り来るボアを切り裂いてゆく。
「ぶもおおおお!」
ボアは断末魔を上げていく。
「全滅した?」
「いやまだだ!シュリ!後ろだ!」
ヴラムが空を飛びながらそう叫ぶ。シュリ達の後ろからこんどは先程のボアの一回り程大きい個体が現れた。
群れのリーダーであるキングボアである。キングボアは自身の群れが壊滅寸前または壊滅すると現れるレアな個体。その肉は極上である。
「はや!私の魔法じゃ間に合わない…シュリ!?」
するとシュリがググッと身を屈ませたと思うと思いっきり地面を蹴った。
そして走り出す。その速さは韋駄天の如く。
「ブオオオオオオ!」
迫り来るキングボアに迫るシュリ。キングボアはシュリに突進しようとするがシュリは素早く横に避けてキングボアの横っ腹を思いっきり蹴る。
するとシュリの何倍も大きい巨体から骨の折れる音がしてそのまま吹っ飛んでいった。
そしてそのまま木を薙ぎ倒して遠いところにあった岩に衝突した。
「ふぅ…」
シュリはゆっくり息を吐く。
「…え?」
エーデルはポカーンとしていた。
鬼人族は生粋の戦闘部族である。高い身体能力と筋力に恵まれていて、その力は怪力である。それはエーデルも知っていた。しかし鬼人族の身体能力を生で見る機会なんてなかった為かなりびっくりしている。
「よしシュリよ。あのキングボアの肉を採取するぞ。小娘を連れてこい!」
「え!いやあのヴ…ヴラム様が連れて行っては?」
「面倒くさい。あと女慣れしろ。」
そしてヴラムはさっさとキングボアの元に飛んでいった。
「え…えっとその?」
シュリは顔を真っ赤にしている。
「よし!背中に乗せてもらうね!シュリ屈んで?」
「へ?こ…こうか?わ!」
「よーし!シュリ号発進!」
「わわわわわわ!」
「ふむ…折れた骨と岩にぶつかったところがズタボロだな。だかまぁそれ以外の部位は大丈夫であろう。ん?」
ダダダダダダと何かが迫る音が聞こえる。
「ひゃあ!速い速い!怖い!」
「うわぁぁぁ!」
それはエーデルとそのエーデルを背負ったシュリである。エーデルはそのシュリの速さに怯えて少し涙目だ。シュリの方は女性と密着している緊張から顔面は真っ赤で汗はだらだら目はぐるぐる回っている。なんならプシューと湯気まで出ている。
「まるで機関車だな…」
ヴラムは従者のあまりのウブさに呆れ顔だ。
キキーッと音を立ててシュリは足を止めた。エーデル降りるとガクガクと足をふらつかせている。そしてヴラムに近寄り腕をガシッと掴む。
「めっちゃ怖い!」
涙目である。
「そ…そうか…」
そんなエーデルの必死の形相に面食らうヴラム。悪態をつける余裕がない。
「ハァハァ…ど…どうしよ…俺は付き合ってもいない女性と密着してしまった!」
シュリは地面に手と膝をついて顔面を真っ赤にしている。地面に汗が滴り落ちる。
「あぁあ!貴様らしゃんとせんか!ほらシュリ!貴様の剣を貸せ!こいつを解体する!」
「へ?どうすんの?」
「これから旅するにあたり金とメシが必要だ。キングボアの肉は極上だし、高値で取引される。何割か売って残りは俺達の食糧にすればよかろう。」
するとヴラムは器用にシュリの剣を使って解体作業を行う。
因みに未だにシュリは顔を赤くしている。
「うわぁ…う…」
エーデルは口元に手を当てて顔を青くしている。気持ち悪そうだ。
「ジロジロ見るな。俺は人に見られんのは嫌いだ。あっちの景色でも眺めてろ。」
「あい…」
エーデルはありがたくそれに従い遠くの景色を眺めていた。
「(いやまさか気を使ってくれたのかな?)」
エーデルはチラッとヴラムの方を見る。ヴラムは真剣な顔で肉を捌いている。そしてエーデルと目が合う。
「何だ。」
「ううん何でもないよ。(まさかね?)」
するとシュリは立ち直ったのか顔色を元に戻した。
「申し訳ありません。ヴラム様!ヴラム様にこんな労働をさせてしまいまして!」
「五月蝿い。もう終わりだ。余計な手出しをするでないわ。」
「ヴラム様!うぅなんてお優しい!このシュリ!貴方様に一生ついてまります!」
「あぁ!鼓膜が破れるわ!一々距離が近いわ!離れんか馬鹿タレ!」
「ねぇ?えっと終わった?」
「フン。勇者騎士団に入る者が血如きで恐れるとはな…軟弱者めが。後は洗えば処理は終わりだ。」
「そ…そっか…うわぁ…綺麗に骨だけだ…」
そこにはキングボアの白い骨が転がっている。そしてヴラムの横には赤やピンクの肉塊が転がっている。
「ちっシャツと手袋が汚れた…」
「ご心配なく!ヴラム様のお着替えはご用意しております!」
「ふん…ご苦労…」
シュリはヴラムのご苦労という言葉に目をキラキラさせる。そして肉塊を近くの川に持って行き、洗いに行った。
「骨はどうするの?」
「魔法薬の材料になる。砕いて売れば問題あるまい。」
そしてヴラムはシュリの残した大剣で骨を細かく砕き荷物入れに入れた。
「ヴラムさまぁ!肉洗ってきました!」
「あぁ…"
ヴラムは肉に向けて手をかざす。すると徐々に凍っていき冷凍保存の完成である。
「すご!便利!」
「ふん。初歩の初歩だ。シュリ荷物を持て。」
「はい!かしこまりました!」
ヴラムに命令されたシュリはニコニコと大量の肉塊を適当な布に包み背中に担いでいく。
エーデルは鬼人の怪力に面食らいながら主従の後をついて行った。
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