第二章 エルフ少女の物語。
二章第1話 上陸ドラセナ大陸
フェリーに乗って"ドラセナ大陸"へ向かう一行。船も大分進み徐々に目的地が姿を現し始めた。
「わぁ!見てみてヴラム!ほら見てよ!」
エーデルは大はしゃぎでヴラムの腕を引っ張っている。エーデルの視界には海に浮かぶ島。
見た目は全体的に茶褐色や茶色、黒などゴツゴツした岩の塊のようである。出発してきたシロツメ大陸は緑などもありまだ華やかな部類の為、その違いは一目瞭然である。
「ちっ…五月蝿いぞ小娘…見えとるわ。全く…色気も味気もない見た目の島に興奮するとは変わっておるな。」
ヴラムは掴まれた腕を振り払い、手を額に当てて呆れた顔をしている。エーデルはキョトンとして
「えぇ?ワクワクしないの?つまらんなぁ…」
「つまらんくて悪かったな」
ヴラムはベェと舌を出してさっさとフェリー内に戻っていき、いつの間にやら寝ていたシュリやハチ、化粧直しをしていたマギリカに声を掛けに行った。
「もぉノリ悪いんだから」
エーデルは頬を膨らませて少しお怒りである。
暫し進むとフェリーはドラセナ大陸の港町である"パキラ"に留まり沢山の人々が続々と降りていく。ここドラセナ大陸は露店などもあって賑わっており、観光客や態々商売に来る人もいる。
「わぁ!人が一杯だぁ!」
エーデルは目をキラキラさせてあちこち眺めている。
「でしょ!?まるでお祭りよね!」
マギリカもエーデルと共にキャッキャっとはしゃいでいる。
「ちっ…うちの女どもは…」
ヴラムは尚も冷めた態度で女性陣を見つめる。そんなヴラムを宥めるシュリはある事に気づきキョロキョロしている。
「あれ?ハチは…」
「ん?誘拐されてサクラ大陸の三味線にでもされたのではないか?」
ヴラムが洒落にならない冗談を言い始めシュリは苦笑している。しかしすぐにハチが姿を現した。
「ああ!ごめんにゃさいにゃん!ちょっと狙ってたお薬があったのにゃん!」
ハチの手には紙袋が抱かれている。
「ふん…それで?ちゃんとした合法のものなのか?」
ヴラムの嫌味にハチは若干イラつきながら
「当たり前にゃん!それに後々この旅では必要になるにゃんよ!」
「旅に必要?」
ハチの発言にシュリは首を傾げる。するとハチはドヤ顔で
「毒を以て毒を制する。シュリ君!よく覚えておくのにゃ!」
その言葉に更に首を傾げるシュリ。一方女性陣は、アクセサリーの店などでハシャギまくっている。
「これはOK!これはダメ!これは◯!」
マギリカはエーデルが良いと言ったアクセに何やら評価をつけている。流石のエーデルも自分の選んだ物に勝手に評価をつけられて不満そうだがマギリカは
「エーデルちゃんのセンスじゃなくてこのアクセ自体がダメなの。因みにこれがダメなのは呪いがかかってるから。確かにこの大陸って露店あるけど怪しい物もあるのよねぇ…」
マギリカが気にしてたのは呪いがかかってるかどうか。魔道具…それは何も人々に恩恵を与える物ばかりではない。
魔力のエネルギーを込める事で相手にデメリット…つまりは呪いをかける事が可能。
その呪いの魔力を込めた魔道具は別名"呪具"と呼ぶ。
呪具を身につけさせる又は使用する事で相手を不幸にする。軽い物なら少し筋肉を弱らせたり、風邪にしたりぐらい。しかしより強い魔力を込めれば呪いも強くなり、最悪相手の命を奪う事もできる。
この大陸において露店は多く、皆んな殆ど自由に商品を出している。店を出す許可さえ出ればほぼ放置される。
そのせいか高値で取引される呪具や麻薬等の非合法な薬の売買も横行している。
だからヴラムはハチに合法か聞いていたし、マギリカもエーデルのアクセを魔力探知で判断していたのである。
「うわぁ…こっわ…」
エーデルは青い顔して手に取ろうとしてたアクセから手を離す。店の人はチッと舌打ちしていた。
「私みたいに魔力に敏感なら楽しめるけど、ある程度の見効きが出来ないと難しいわよ?変なの掴まされて人生を棒に振りたくないでしょ?」
「はい…」
エーデルはマギリカの言う事に素直に従う事にした。年長者の言う事は格が違う。
「おい!さっさと行くぞ!そこの女子共!」
「あ!うん今行く!」
一方の男性陣はズンズン進む。途中でシュリも露店を気にしてるがヴラムに注意されて素直に着いていった。どうしても欲しいものがあるならヴラムの目を通すように言われて。
ハチはハチで目当ての薬も手に入りご満悦の様子であり、薬を自身の荷物入れにしまっている。
「んもぉ…男どもはなんでウインドショッピングの良さが分かんないのかしら!」
マギリカはハァとため息を吐きながらエーデルと共に男性陣と合流。
露店が特に多く、観光客目当てのスリなども多発しているパキラはあまり治安が良くない。
聖竜騎士団も隠れて賄賂などを貰い、そう言った連中を見逃している。金の力は中々強い。
勿論、これは聖竜騎士団だけではない。勇者騎士団は勿論、他の大陸の警備隊だって負の面を持ち、貴族の罪を見逃す代わりに後ろ盾、もしくは賄賂を要求するなんて珍しくない。
一行はスリのカモにされるのもごめんだし、変なのを掴まされるのも嫌だと、いち早くこの町を抜け、そのまま花のある砂漠まで歩き出した。
一方その頃の勇者騎士団本部。
「隊長!申し訳ありません!見つかりませんでした!」
あの後地図に記された点を頼りに街中を一斉捜索したホワイト隊。だが結果は不発。何時間も虱潰しに探しても見つからなかった。
地図の解像度はそこまで高くない。町の中のどこにあるのかまではわからない。
分かるのはあくまでもシルバークロー内に動く花がまだあるという事だけだ。
アルスは頭を抱えた。あの巨大かつ目立つ花、そうそうない。しかし町の人々に聞いても知らぬ存ぜぬであり、全く手掛かりがないのである。
「一体…どうなっているんだ!」
アルスはイラつきながら自身の執務室の机をドンと叩いた。
そんなアルスを他所に勇者騎士団副団長のマルクが自分の執務室にて一人の青年に接待していた。
「先生!いかがですか!?」
「うん。マルク君のお陰で研究が進むよ。」
「な…なら例のお薬は?」
「勿論君にあげるよ?けど此方にも色々準備がいるんだよ。今は渡す時ではない。その時がくれば君にあげる。」
マルクは手のひらをスリスリと胡麻すりしたり、肩を揉んだりと兎に角青年の機嫌を取ろうとしている。
青年はボロボロの布のようなマントやみすぼらしい服を着ている。その胸にはみすぼらしい服と見合わない高そうな、白い石のペンダントをつけている。石の中にはよく見ると薄い緑の花が閉じ込められている。
そしてその髪はボサボサと伸びており血のように赤い。目の色は光が無く所謂魚の死んだ目。肌の色もまるで死人の如く青白い。
そして目立つのは両手に巻かれた包帯。よく見ると首にも巻かれている。頭以外の全てを包帯が覆っており肌が見えない。
大凡、貴族や金持ちを優先する選民思想の塊であるマルクが胡麻すりするような相手には見えない。
「そんなぁ…先生はお人が悪いですなぁ!」
「ふふふ。けどこれは取引だよ?僕にもメリットが無いとそれは成立しない。」
「仰るとおりですね!分かりました!お待ちしております!」
マルクがそう胸を張って宣言すると青年は口元に笑みを浮かべて
「期待してるよ。」
そう立ち上がり執務室のドアまで歩いて行く。
「どちらへ?」
「ん?そろそろお暇させて頂くよ。じゃあね。」
ニコッと微笑み部屋を出て行く青年。マルクはヘラヘラ笑いながらそれを見送る。
そしてドアがガチャリと閉まると、マルクは途端にニヤつき始めた。
「ふふふ…ふふふふふ!私の時代が!もう少しで到来するぞ!」
マルクは目を見開き上を向いて大声で笑い出した。マルクからすれば簡単な事。
勇者騎士団の入団試験には沢山の勇者が応募する。その勇者達の情報の書かれた紙をコピーして青年に渡すだけなのだ。
本来厳しく管理される物。しかしマルクは例え腐っても階級だけは上なのだ。管理室になど軽く入れてしまえる権力があるのだ。
マルクは自身の権力を行使し、そしてその権力より更に上の権力を手に入れる事ができるチャンスを逃すまいと手を固く握ってその手を振り上げて大笑いしていた。
「はぁ…どうすれば」
一方のアルスは花がなぜ見つからないのか疑問に思いながら本部内を歩いていた。もしかして地下にあるかもと地面を掘ったり下水道や地下道を探すも見つからない。最早少し疲れ始めもしかして浮かんでんじゃね?とまで考えて自身の魔法で空を探索したりしたが、空を浮かぶシュールな光景も見れなかった。
アルスは頭を抱えていた。すると
スッと血のように真っ赤な髪を持つ青年が横を通った。そのなんとも言えない存在感と謎の背筋冷たさにバッと振り向いた。しかし青年は気にせずにコツコツと本部の外へと出ようとしていた。
「気のせいか?」
アルスはその青年の背中を不思議そうに見つめながらもすぐに元進んでいる方向を向いて歩き出した。
だがその後に再度地図を見ると花はシルバークローから遠ざかっていた事から更にホワイト隊は混乱に陥っていた。
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