二章第2話 魔法修行

 一方その頃ヴラム一行。

 「"光爆弾ルーメン・インパクト"!」

 エーデルは魔法を放っていた。一行はパキラを離れて中継地点に位置する村。"フランネル"を目指していた。

 その際に途中で蠍型の魔物"スコーピオ"が現れたのである。スコーピオはシロツメでは見かけないこの大陸特有の魔物である。

 その尻尾の先には毒針があり、刺されるとその箇所が真っ赤に腫れてそこからじわじわと全身に毒が周り死に至る。刺された時点でまず動けなくなる。


 その死ぬまでの過程でも、筋肉の拘縮や全身に回る激痛、全身麻痺と五感の欠如など楽ではないし、かなり進行も遅いので恐れられている魔物である。だがその毒を中和する事で薬にも出来るのでいないと困る魔物でもある。

 因みにこの大陸は毒を持つ魔物が多い為厄介な大陸なのである。


 直ぐに一行が戦闘体制に入るが、マギリカが

 「あら?丁度いいわね。エーデルちゃん!魔法の実力見せて頂戴!サポートは任せて」

 「はい!」

 これまでの間マギリカはまだエーデルの悩んでる攻撃魔法についての実力を見ていないのである。直ぐにエーデルは構えて攻撃魔法を放つ。


 しかし放たれた魔法はやはり威力と命中率に乏しくてスコーピオに当たらずに別の場所へとで行く。そしてまた

 「"光爆弾ルーメン・インパクト"!」

 唱えるが今度はふよふよと更に遅く移動して当たらない。その後も唱えるエーデル。

 「"光爆弾ルーメン・インパクト"!"光爆弾ルーメン・インパクト"!」

 そして数打ちゃ当たるとはよく言った物で何とか当たった。威力はあるようで一発で仕留めた。だが


 「"魔女のデスサイズ"!」

 キシャァァァア!

 「え?」

 エーデルの後ろで何かのカナギリ声とマギリカの声が聞こえて振り向くとエーデルの直ぐ後ろにもう1匹のスコーピオがおり、それがマギリカの魔法だろうか?

 真っ二つに切られ断面から緑の体液を出していた。


 「よし!後いないわね!皆んな一度休憩するわよ!」

 マギリカや他の3人が確認してスコーピオや他の魔物がいないと分かるとマギリカはパンパンと手を叩いて休憩を促した。

 「エーデルちゃんも休みましょ?そこで私の見た感じの感想を伝えるから。ね?」

 マギリカはエーデルの頭を撫でた。エーデルとてこれは良い感想は望めないだろうと覚悟はしている為、マギリカに大人しくついて行った。



 

 「ヴラム様。お疲れなら肩をお揉みしますよ。」

 「いやいい。それで貴様は何を作っておるのだ?」

 「ん?さっき買ったお薬と他の薬を調合してるのにゃん。あとついでにスコーピオの尻尾から毒を採取してるにゃん。」

 男性陣は地面に座っていた。シュリはヴラムを労るがヴラムはそれを拒否した。

 そして何やら先程から石のすり鉢でゴリゴリ何かを擦っているハチ。

 

 その少し離れた所でエーデルとマギリカが横に並び座っている。

 「まず。エーデルちゃんの魔法の良くないところ。これは見て分かる通り命中率と速さが足りない。あとその威力もあまりよくないわね。」

 「はい…え?威力も?」

 「後で説明するわ。それにこれはね?エーデルちゃん自身の問題。集中しちゃうと周りが見えなくなる。あそこでもし襲われて刺されたら死んじゃう所だったのよ?」

 実際エーデルは後ろにいたスコーピオに気づかなかった。それまで目の前のスコーピオに攻撃を与えねばと集中しすぎたのである。


 「なのでこれから夜時間やこういう休憩時間にはまず命中率の訓練を受けてもらうわ」

 「訓練?」

 「ええ。そうねぇ例えば」

 マギリカは右手の人差し指を立てた。するとそこに白っぽい透明な小さい魔法陣が現れてそこからポンポンと白い風船のような物が出てきた。


 「これは私の魔力の塊ね?これを空中に浮かべるからエーデルちゃんはそれを破るの。

 ただ道中の旅は時間も限られるから制限時間を設けて何個破れたかっていうのを見るわね?

 街中での探索と夜寝る前とかの時間がある時、安全な場所なら全部破るまでのタイムを測るわ。

 敢えて目標は作らない。作っちゃうと多分焦っちゃうでしょ?それを越えなきゃって。」

 マギリカはそうエーデルを見つめる。


 「あともう一つ。速さなんだけどね?そもそも光の魔法は基本他の属性魔法の移動より一番早いのよ?」

 「え?」

 エーデルはそのマギリカの言葉にキョトンとする。自身の魔法ではまずあり得ない。なんなら別属性のヴラムの凍結スピードの方が明らかに早いのである。するとマギリカが


 「成程ね…エーデルちゃんは魔力の集中を何処に特化させるか…それを誤解してたみたい。敢えて厳しく言うと自分の魔法属性はきちんと調べなさい!」

 マギリカは少し厳しい言い方をするとエーデルはビクッと体を強張らせてショボンとする。

 「す…すみませんでした…」

 「謝らなくていいわよ?今からきちんと調べればいいの。まぁ…自分の魔法属性の事詳しく知らない人って案外いるし…」

 「あ…あの…光が早いってどう言う事ですか?もしかして光の速さが1秒でこの星を7周半出来るってのと関係あったりします?」

 エーデルが少し自身なさげに言うとマギリカは


 「うん!関係大有りよ!だって光だもの。考えてみてよ。こんな早く動くやつが当たったら当たるだけで大ダメージよ?つまり光の特色の素早さを犠牲にして攻撃力に全振りするのは、無駄の極み!だからあまり良くないって言ったの。」

 「ゴハ!」

 エーデルは今まで積み上げたつもりだったものが呆気なく崩されてダメージを受けた。


 「え?てっきりヴラムも威力に関しても◯出してたから大丈夫だと…」

 「あぁ…成程、確かにヴラムは強いしお手本にする分では全然いいわよ?けどあの子は、そもそもの基本が既に確立されててエーデルちゃんみたいに魔法で悩むなんて事なかったみたいだし、まぁその分性格が歪んでるのかもだけど」

 「聞こえとるぞ!馬鹿者!」

 マギリカの言葉はヴラムの尖った長い耳にはしっかり届いていた。


 「んもお!私の方がアンタより年上なんですけど!はぁ…その分エーデルちゃんは素直だし可愛いのにぃ…」

 マギリカはムギュッとエーデルを抱きしめる。エーデルは少し顔を赤らめている。

 「ふん!性格歪んでるのは悪かったな!話は済んだのか?とっとと行くぞ」

 ヴラムは立ち上がり土埃をぱんぱんと払って歩き出した。他の二人も後をついていく。


 「ふぅ…ま!エーデルちゃんが一人前になるまで私が側にいるわよ!マギリカ先生に任せなさい!」

 マギリカはエーデルにサムズアップして答えるとエーデルは

 「は…はい!宜しくお願いします!先生!」

 「あ!それと一つ。いきなり攻撃力に振ってた魔力を素早さに加えてはダメよ!命中率が向上したら徐々に早めていくぐらいにしてね!

 じゃないと仲間の誰かかの体に穴が空いてしまうかもよ?」

 「気をつけます!いやあんたらは何で後退りしてんのよ!」

 マギリカの忠告を真面目に聞くエーデル。恐ろしい想像を聞いた男性陣はエーデルから無言で少し距離を離し始めた。エーデルはため息を吐きながら今後の修行を頑張ろうと意気込んだ。


 「エーデル。大丈夫でしょうか?」

 「さぁな?まだ治しようがあるからまだマシであろう。」

 心配するシュリをよそにヴラムはさっさと歩いていく。ハチはその様子を黙ってみていた。

 

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