二章第3話 ゴードン隊の申し出

 ヴラム一行は歩き続ける。燦々と降りしきる日光に一行は汗を流している。その中で唯一ヴラムは汗が出ておらず平然としている。

 「いやアンタ…なんで平気そうなの?氷使いでしょ?」

 「だからなんだ。平気な分に越した事なかろうが。そう言うお前も光使いの癖して日光に当てられてバテルでないわ。」

 「それとこれとは違くない?」

 エーデルは汗を流してヴラムに突っ込んでいる。暑い為着てたパーカーは脱いで荷物にしまってる。ロンTを腕捲りして暑さを逃がしていた。


 見ると他のメンバーも少しでも涼しくしようと薄着になっている。シュリも羽織りを脱いでるし、ハチは腕まくりしている。マギリカは元々が薄着なので、大きい帽子を取り団扇がわりに仰いでいる。

 唯一ヴラムのみ、未だ真っ黒のマントとスーツ姿である。側から見たら感覚が麻痺してる人にしか見えない。暑そうな格好なのに汗が一つも出てないのである。


 「フン…軟弱者めが。それよりあそこにあるのはフランネルではないのか?」

 「え?あ!本当だ!」

 陽炎が揺らめいている遠くの方に一つの村がある。花のある砂漠まで行く道のりの中間地点であるフランネル村である。


 一行はやっと休めると安心し、フランネルを目指す。すると

 「いやぁぁぁ!」

 少女の叫び声が聞こえた。

 「今の声は!?」

 「ちっ!また面倒事か!」

 一行は叫び声のする方へと走っていった。

 

 



 一方その頃の勇者騎士団。

 「ハァ…」

 アルスは溜息をついて悩んでいた。探していた花が町から消え失せたからである。そしてまた移動している。

 本当ならば他の大陸の警備隊に協力要請できれば楽なのだ。けど大陸毎の縄張り意識やそもそもまだ他の大陸で例の花が問題を起こしてるなどといったニュースも入ってこない。協力要請したところで動くかすら分からないのだ。


 「お疲れのようですね」

 スノーがやってきてアルスの机にコーヒーを置く。

 「ありがとう御座います…」

 「いえ。ですが一服したらその酷い顔を治してください。他の隊員の士気にも関わるので」

 「手厳しいですね…」

 アルスは苦笑している。


 アルス的にはまさか自分がスノーを押し除けて隊長になるとは思ってなかった。少しでも早く昇進したい彼にとっては全然ウェルカムだが

 スノーはアルスが新人の時に教育係を務めていた。真面目で凛としているその姿は正に騎士であった。

 そんなスノーはアルスにとって尊敬できる人生の先輩だ。職務に当たる時の責任感の高さも真面目さも、全てスノーに学んだ事。

 

 スノーは無表情で何を考えてるかわからないが何だかんだ彼女の側は落ち着く。アルスはスノーの入れたコーヒーに手を伸ばす。するとコンコンとノックの音が聞こえた。

 「はい。どうぞ」

 アルスが声をかけるとガチャリと扉が開いた。


 「アルス君!落ち込んでるようだがどうしたのだね!」

 中に入ってきたのは筋肉隆々の巨体に髭を生やしたゴツい強面の中年男性である。 

 彼の名は"アレックス・ゴードン"。アルスと同じ隊長クラスの騎士である。

 因みに彼の率いてるゴードン隊にはヒューベルトとゴローも所属している。


 見た目は怖そうだがその性格はとても心優しく実直である。大体の隊員の殆どはマルクより彼の方が副団長に向いてると考えている。アルスとスノーもその一人である。


 何よりアレックスはジークハルトとは同期。今でも親交があるらしく、マルクより一緒にいるところを見かける。

 「アレックスさん!僕は平気ですよ。それよりもどうかなさったのですか?」

 「いやな?君達の隊で何か捜索しているようだからな。少し気になったんだ。もし何かあれば我々ゴードン隊も協力しよう。今の所我々の隊は大きい事案を抱えておらんし」

 アルスはアレックスの申し出に感謝した。何よりアレックスはこの騎士団内でも仲間に対する思いが強く若者でバカにされやすいアルスのことも評価してくれる。


 その為下手すれば他の騎士の誰よりも信頼感を持たれている。アルスも勿論彼を信頼している。嫌味を言われる事も多いアルスを庇ってくれて評価してくれるそんな彼だからアルスは素直に協力を要請することにした。


 「ありがとう御座います!実は…」

 アルスはアレックスに事情説明を始めた。




 場面は戻りヴラム一行。少女の叫び声のした方へ向かう。

 「い…いや…来ないで下さい…」

 「キシャァァァア!」

 

 怯える幼い少女を3匹程のスコーピオが囲んでいる。少女の手をよく見ると足から血が出ている。どうやら叫び声の正体はこの少女の様だ。

 スコーピオの1匹が少女に向けて毒針を刺そうとしている。するとバトルモードに切り替わったハチがいち早く駆けつけて少女の壁となる。


 「う…」

 するとハチの背中にスコーピオの針が刺さってしまった。それに他の一行は目を見開いた。


 「ハチィィィィイ!」

 「ち!"氷結"!」

 ヴラムがすかさず魔法を唱え、スコーピオ3匹を凍らせた。

 

 ハチ以外のメンバーと少女はスコーピオが動かなくなったのを確認すると直ぐにハチの元へ駆けつけた。

 「ハチ!ハチ!」

 エーデルは涙を流してハチに回復魔法をかけている。

 「ろ…ロクロ…」

 「そんな…まさか…」

 「ハチ…こんな最後なんてあんまりだ!」

 ヴラムやマギリカ、シュリは悲しみに暮れていた。

 「ひっく…ごめんなさい!わ…私のせいで!」

 助けられた少女も混乱している様子でわんわん泣いている。




 「いや生きてるにゃん?勝手に殺すでないにゃん。」

 しかし皆んなに囲まれたハチは元の猫の姿に戻りケロッとしていた。刺された筈なのにピンピンして動いている。

 「あー…背中だから見えないにゃんね?まぁでもこれくらいなら吾輩の薬で!…ん?皆んなどうしたにゃん?」

 ハチは何故か俯いてプルプル震えてる他の一行に不思議そうな顔をしている。


 「「「「心配かけさせんなぁぁぁぁぁあ!!」」」」

 「ぎにゃぁぁぁぁあ!?」

 「ご…ご無事で良かったです…」



 嬉しさもあるがそれ以上に紛らわしい反応をするハチに絶叫してブチギレる四人とそんな一行に驚きを見せながら少し引いてる少女という図が出来上がっていた。


 またこの出来事でハチの正体を知ったマギリカはハチの説明からロクロだという事実を受け止めつつも正体に深く触れないことにした。

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