二章第4話 エルフの少女

 「えっと…皆さん助けてくれてありがとうございました。…あの?猫さんの方は大丈夫なんですか?思いっきり刺されちゃってましたが…」

 「平気平気!吾輩、毒が効かないんだにゃん。これぐらいの毒屁でもないにゃん。」

 助けた少女はおずおずと一行にお礼をいった。その際自身を庇ってスコーピオに刺されたハチを心配している。


 少女は尖った耳と優しい水色の瞳を持った12歳位の少女だ。エルフ族の少女である。

 その髪の毛は水色でサラサラと流れるロングヘア。髪の毛の一部は三つ編みにしており白いリボンで結んでいる。服装は白を基調としたワンピースであり、海兵が着るようなセーラー服風のデザインである。胸元で結ばれたリボンや襟は濃い青色である。

 ワンピースの裾には青い錨マークがプリントされている。足元は素足に青のサンダルという涼しげな服装だ。

 顔立ちもあどけないが将来が期待できる可愛らしい顔立ちをしている。


 ハチのそのカミングアウトに少女もそうだが他のメンバーも驚いていた。

 「まぁ言ってないからにゃん。でも吾輩毒が効かないのは本当の話にゃん。」

 「えぇ…そんな事ってある?」

 「ロ…ハチちゃんに毒が効かないなんて初めて知ったわよ?ヴラムは知ってた?」

 「いや知らん。」

 「お二人が知らないなら俺やエーデルが知らないのは勿論ですね。」

 一行はハチに関する議論は取り敢えず埒が開かないので置いておくことにした。


 「えと…貴女のお名前は何ていうの?」

 エーデルはにこっと微笑みながら少女に目線を合わせて話しかける。少女は優しそうなお姉さんにホッとしている。

 「私は"ベル"と申します。宜しくお願いします。」

 「ベルはフランネルの住人なのか?」

 「はい!パパとママと暮らしてるんです。」


 シュリが質問するとベルはニコニコと人懐こい笑みを浮かべて答える。エルフ族が他の種族。それも外からも人が入れるような町にいるのはかなり珍しい。それに警戒心の強いエルフ族の中でここまで人懐こいエルフ族などそういない。

 何よりそんなエルフが一家で暮らしているという。一行は不思議そうな顔をしている。


 「あの。良かったら私の家直ぐそこなので何かお礼をさせて下さい!」

 「え?そんなに気を使ってもらっていいの?」

 「はい!パパとママからも人に親切にされたら親切で返しなさい。って教わりましたから。」

 「ん〜じゃあお言葉に甘えるにゃん。吾輩はハチ。宜しくにゃん。」

 「はい!ハチさん改めて命を助けて頂きありがとうございました。」

 ベルはペコリとお辞儀をしてニコニコと微笑んでいる。そんなベルが微笑ましくてハチもニコニコしている。


 「やぁん♡猫ちゃんと可愛いエルフちゃん♡なんて癒されるのぉ♡」

 「…ベルは分かるが片方の正体は筋肉ムキムキの大男だぞ。」

 マギリカはうっとりしながら二人を眺めるがヴラムはまたしてもロマンもへったくれもない言い方をしている。

 

 ハチ以外のメンバーもベルに自己紹介していく。ベルはニコニコと全員と会話して楽しそうだ。意外にもきつい言い方ばかりするヴラムや体格が良いため怖がられやすいシュリにも物怖じしない。

 寧ろシュリみたいに背が高くなりたいとかヴラムと耳がお揃いなのが嬉しいと喜ぶ始末。

 

 流石のシュリも女性とはいえ幼い子供には緊張しない様であり直ぐに懐いてくれたベルが可愛くてベルの要望で肩車したりしている。

 ヴラムも態度が他のメンバーよりずっとマイルドに接している。ツンデレがデレた瞬間である。


 



 五人はベルの案内の元フランネルに足を踏み入れた。フランネルに入ると今まで暑かったのが嘘かの様に涼しくなった。ヴラム以外のメンバーはその気持ちよさに蕩けるかのような表情を浮かべている。

 「んな大袈裟な…」

 ヴラムは一人呆れ顔だ。


 ドラセナ大陸各地の街や村は足を踏み入れるとこの様に涼しい気温を保っている。

 それは魔道具である"瞬間冷却結界"の恩恵だ。この大陸は昔から過酷な環境である。その暑さの為に熱中症等で死ぬ者もおり、昔はスベリア大陸と並び"死の大陸"と称された。

 因みにスベリア大陸は真逆に寒すぎる環境である事から凍死すると言われていた。


 瞬間冷却結界は柵や柱のような見た目でありこれらを街や村等任意の場所をぐるっと囲む様にして設置。

 そして役所等で管理してる起動スイッチを押すと魔力が流れ込み、囲まれた場所の温度を一気に下げてくれるのだ。

 また結界と名付けられてる通り、外からの魔法攻撃を防いでくれる役割を持つ。特にこの大陸は毒液を撒き散らす魔物や毒の息を吐く魔物もいるので重宝している。

 

 何せ魔物の放つ毒は魔力が練り込まれてできている。普通の毒よりも体の内部に入りやすい。しかし結界の外から攻撃されても結界内には届かない。正に一石二鳥だ。

 スベリア大陸ではこれと同じ様な仕組みだが違うのは冷却ではなく"瞬間暖房結界"であり、暖かくする機能がある。


 これらの魔道具の発明により、人々の居住可能地域が拡大したといっても過言ではない。


 

 「私の家はこちらですよ!」

 ベルの声かけに五人はベルの後をついて行く。家は白い木でできており、屋根は水色。玄関付近にはサーフボードや赤と白の浮き輪が付けられている。

 因みにフランネルは確かに涼しいが地面はカラカラでひび割れている。町の外もパキラに行くまでは周りに水もない。ベルの家はどちらかというと海辺や、常夏リゾート地であるココヤシ大陸で見るタイプの家だ。


 「なんか…明るそうな家だね。」

 「私こういう家好きよ♡まるで旅行に来たみたいだもの!」

 エーデルが素直な感想を漏らすとマギリカは絶賛している。その言葉にベルは更に笑みを浮かべる。


 「気に入って下さって嬉しいです!どうぞお入り下さい!」

 ベルは家の扉を開けて五人を招き入れた。


 「ただいま!パパ!ママ!」

 扉を開けた先。一行はてっきり大人のエルフの男女がいると思っていた。だがそこにいたのは竜人族の中年の男女である。

 「おかえりベル。」

 パパと呼ばれた青い鱗を纏った竜人族の男性が手を広げるとベルが駆け寄って抱きついて行く。

 「お帰りなさいベル。あら?お客様?」

 キッチンから手を拭きながらやってきたのはママと呼ばれた桃色の鱗を纏った竜人族の女性。白いエプロンをつけており優しそうな女性である。


 一行は少々驚きながらも色々事情があると察して特に何も聞かない。ベルはママの竜人の質問に明るく答えた。

 「そうだよ!この人達が私を助けてくれたんだ!あの猫ちゃん毒効かないんだって!凄いよね!」

 「そうかそうか。娘を助けて下さりありがとうございます。私は"ドラゴニア"と申します。

 ベルの父です。」

 パパ竜人…ドラゴニアがベルの頭を撫でながらペコリとお礼を言う。するとママ竜人も深々と頭を下げた。

 「皆さんありがとうございました。私の名前は"マープル"。ベルの母です。」

 そう言って自己紹介をし始めた。


 つられて五人もそれぞれ名乗って行く。

 「あらあらご丁寧に。私はマギリカよ。よろしくね♡」

 「吾輩はハチと言うにゃん。ベルちゃんが無事でよかったのにゃ。」

 「俺はシュリと言います。」

 「ヴラム…」

 「それだけ!?まぁいいか…私はエーデルと言います。訳あって私達五人で旅をしてるんです。」

 五人の自己紹介を親子はニコニコと聞いている。


 「まぁまぁ。旅ですか?いいですね。私も旅をしていた物ですよ。」

 ドラゴニアは思い出に耽る様に目を閉じながらそう穏やかに話す。

 「もう!あなたったら。それよりもベル?村の外は危ないと言ったじゃない。どうして外に出たの?」

 マープルは思い出に耽る夫に呆れた目を向けるが直ぐに厳しい目をベルに向ける。ベルは少ししゅんとしている。


 「だって…もう少しで"大慰霊祭"だから…"リュウグウソウ"が欲しかったんだもん。」

 「リュウグウソウ?大慰霊祭?」

 ベルの言葉にエーデルはキョトンとしている。


 「大慰霊祭というのは"アギト"の都で主催してる慰霊祭なんです。主に聖竜騎士団でお亡くなりになられた方々の冥福をお祈りする儀式なんですよ。

 リュウグウソウはこの大陸のような乾燥した地域に生えてるお花です。」

 「とっても可愛いお花なんですよ。でも結局見つかる前に襲われちゃいましたぁ…」

 そう言ってシュンとするベル。


 すると

 「ふん。そんなにその花が欲しいのか。」

 「はい…」

 ヴラムがぶっきらぼうにベルに問う。ベルはコクリと静かにうなづく。するとヴラムがため息を吐いて。

 「やれやれ。非力な小娘が一人で向かうのは無謀の極みだな。まぁいい。

 所で小娘。俺は少しこの周辺を散策するが正直此処らの地理に詳しくない。案内しろ。俺と行動してる間に花でも何でも摘めばいい。また変な魔物風情に襲われてるのを助けるのは癪だからな。」

 フンとヴラムがそっぽを向きながら告げる。


 つまり自分がベルを守るからその間に摘めば良いと言いたいのである。ベルもそれに気付いたのか嬉しくなりヴラムの手を握る。ヴラムは少し目を見開いて固まっている。

 「はい!一緒に行きましょ!ヴラムさん!」

 「おい!勝手に懐くな!離れろ!」

 口では拒否しながらも照れているのか頬を少し赤くしながらヴラムは手を振り払おうとしない。大人しく手を繋いでいる。


 「なら吾輩も行くのにゃん。吾輩は毒が効かないから安心にゃんよ。」

 「わー!ハチさんも来てくれるんです!嬉しいです!」

 そう言ってベルはハチの手を掴む。ぷにぷに肉球とふわふわの毛が気持ちよくて直ぐにベルのお気に入りになった。

 「では行きますよ!」

 「うわ!貴様引っ張りながら走るな!転んだらどうする!」

 「子供は元気なのが一番にゃんね!」

 

 そう言ってベルとそのお守りをする事になったヴラムとハチはそのまま家から出て行った。

 その様子を見ていたシュリは。

 「は!名乗り忘れた!ヴラム様が行くのなら俺も!」

 「まった!シュリは遠距離攻撃できないし毒耐性ないでしょ!危ないから此処にいなさい!」

 「嫌だ!ヴラム様をお守りするのは俺の使命なのに!」

 シュリは少し焦り始めている。顔も捨てられた子犬のようだ。しかしシュリのバトルスタイルとこの大陸は相性が悪いのだ。

 エーデルは全力で止めた。しかしシュリは暴走する。するとマギリカが


 「あら?シュリはヴラムが弱いと思ってるの?」

 「い…いえそんなことは…」

 「後貴方がもしヴラムを庇ってスコーピオにでも殺されたら、あの子自分を責める人生を歩むわよ。あの子乱暴そうな性格だけど本当は優しい子だもの。

 きっと気にするわよ?それでもいいの?」

 

 マギリカが真剣な顔で言うとシュリはうっと声を詰まらせた。

 「それは…そんな思いは…させたくないです。

 ただでさえ俺の方があの方より先に死ぬのは分かってるのに…」

 シュリは顔を伏せる。シュリ自身もわかっている。自分がどんなに頑張ってもヴラムより先に老いるし死ぬ。

 昔から見上げていたヴラムの顔も徐々に目線が同じになり、そしてとうとう超えてしまった。今では見下す形になった。それが何よりの証拠である。


 だからこそこの短い生を育ての親であり恩人の彼に使いたいと思っていた。

 「ヴラムはね?あんな感じだけど貴方の事息子だと思ってるの。お願いだからあの子の為にも自分を大切にして。」

 「…わかりました。」

 マギリカの訴えにシュリは漸く折れた。エーデルは素直にマギリカの話術に感心していた。

 

 残った三人はベルの両親に勧められてお茶をご馳走になった。

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