二章第5話 竜人とエルフ

 シュリも落ち着いて三人はベルの両親とテーブルを囲んでお茶を飲んでいる。

 「驚いたでしょ?私達夫婦は竜人族なのにあの子はエルフだから…」

 マープルが静かに微笑みながら手作りのケーキを切り分けて皿に乗せて三人に渡す。

 ベルとヴラム、ハチの分も取り置きされている。


 「いえ。そんな事ありません。俺も鬼人族ですが魔族であるヴラム様に育てられたので。」

 シュリがそう答える。実際孤児や人攫いにあった子供を救出して親子関係を結ぶとなると種族も何も関係なくなる。

 ただヴラムとシュリの様に長命種が短命種を引き取るのは珍しい例だ。親より先に子が死ぬ。それに耐えられるような人物は中々いないし避ける傾向にある。


 よくあるのが長命種が長命種を、短命種が短命種を引き取る例である。これなら寿命も親子として釣り合いは取れる。

 短命種が長命種を引き取る例も、子より先に親が死ぬという順番は守られるのでこちらも多い。

 だから人間族などよりも少し寿命は長いもののエルフ族より遥かに早く死ぬ竜人族が長命種のエルフを引き取るのはあまり珍しくはない。


 「此処まで聞くのはあれだと思うんですけどベルちゃんの本当の両親は…」

 エーデルがおずおずと質問するとドラゴニアとマープルは顔を合わせた後エーデルの方を再度見て顔を横に振る。

 「分かりません。唯…あの子が赤ちゃんの時にこの村の近くで捨てられてました。灼熱の太陽の下、あの子は瀕死の状態で…けど直ぐに見つけた後は病院に行ったりミルクを飲ませたり色々と看病を重ねて助ける事ができたんです。

 その後はあの子はエルフだから変な人に狙われる可能性もある…だから私達で育てる事にしたのです。」

 ドラゴニアはそう目を伏せて静かに答える。


 「酷いわ…幾ら何でも実の親も親よ!何か事情があって育てられないにしても孤児院に預けるとか安全な場所に預けるのが筋でしょ!

 そんな野晒しに置いておくなんて!酷すぎるわ!」

 マギリカは憤慨している。無責任にも程があるベルの実の両親に怒りを露わにしている。

 するとまあまあとマープルが宥める。


 「けどそのお陰で私達はあの子の親になれました。大切な宝物をくれたんです。だから逆に考えてますよ。

 あんな可愛い娘を捨てるなんて勿体無いって。」

 マープルがクスクスと微笑んでいる。その顔に他のメンバーも思わず笑顔になる。

 お茶会は穏やかなムードである。





 一方花を摘みに行った三人。

 「ありました!これがリュウグウソウです!」

 ベルは目をキラキラして花を摘んだ。見た目はサボテンに似ているが棘ではなくふわふわ産毛のような物が生えている。

 その周りには可愛らしい水色の小さな花がポツポツと咲いている。 

 するとまたもう一つ色違いの物を見つけてベルは夢中で摘む。花の色は白である。


 「可愛い花にゃんね。図鑑でも見たことあるにゃん。この太い茎は輪切りにするとネバネバが出てくるにゃん。これは火傷に効くんだにゃん」

 「そんなんですか?私お花ばかりに目が行っててて知らなかったです。」

 ハチの豆知識にベルは興味津々である。


 ヴラムは気になってた事をベルに聞いてみた。

 「大慰霊祭でこれを何に使うんだ?」

 するとベルは少し寂しそうな顔を浮かべて

 「これ…死んじゃったお兄ちゃんが好きなお花なんですよ。」

 ベルの発言にヴラムとハチは息を呑んだ。


 「私、実の両親の事は知らないんです。けど私を引き取ろうと言ってくれたのはお兄ちゃんなんです。お兄ちゃんも竜人族なんですよ!パパに似たピカピカの青い鱗がとってもかっこよかったんです!

 私にもすごく優しくて…そんな兄は聖竜騎士団の団員だったんです。けどある任務で命を落としてしまったんです。」

 ベルは少し涙目になりながら静かに話す。そんなベルの話を二人は真剣に聞いていた。


 「お兄ちゃんは海が大好きでした。いつか私を連れて海の向こうの色々な場所へ行こうって約束してくれたんです。」

 家のデザインはまだベルが引き取る前に兄が考案したデザインである。ベルの今着てるワンピースも兄が選んでくれたお気に入りだ。


 「大慰霊祭はお兄ちゃんと会えるチャンスなんです。だから、このお花をお兄ちゃんにお供えしたいんです。海の色をしたこの花をお届けしたいんです!」

 「…」

 ベルの言葉にヴラムは悪態もつかずただ目を伏せて黙って聞いている。

 しかしふと横を見ると驚愕で目を見開いた。


 「うわぁぁあん!ベルちゃん!にゃんて良い子にゃんだぁ!」

 ハチがおいおい大粒の涙と鼻水を出して大泣きしている。

 「うわうるさ!おい泣くでないわ!喧しいぞ!この狸もどきが!」

 

 ベルもキョトンとしている。少し困った顔だ。いそいそとポケットティッシュをワンピースのポケットから取り出して渡す。

 「あの…これ良かったら。」

 「ズビ。ありがとうにゃん。」

 受け取ったハチは何枚かティッシュを取ると思いっきり鼻をかむ。


 「まあ…事情は分かった。だがこれだけは言っておく。今あの二人の子は小娘。貴様だけだ。

 あいつらも息子が死んだ事で落ち込んでおるだろうな。そこで貴様が死んだらどうなる?

 この大陸は変な魔物も多い。それに加えて貴様はエルフだ。警戒すべきは魔物だけではない。あの母親が貴様に注意したのは貴様に死んでほしくはないからだ。それは分かっておるな?」

 「…はい…」

 「なら危険な場所に行く時は必ず他の奴らと行け。分かったな。」

 ヴラムが厳しい口調で言うとベルは少しシュンとしながらもちゃんと聞いている。ヴラムはそれ以上は言わずにベルの頭を優しく撫でる。


 「ふん。それより花は摘んだのだ。さっさと戻るぞ。」

 「あ。はい!」

 「ベルちゃん。ヴラムは確かに怖いけど本当は悪い子じゃないから気にしないでほしいにゃん。」

 「聞こえとるぞ!化け狸!」

 「誰が狸にゃん!」

 ギャーギャーと喧嘩しだす二人。ベルはそんな二人を呆然と眺めるが段々楽しくなってきたのか吹き出してクスクスと笑い出した。

 




 場面は戻りエーデル達。

 「そう言えばあなた方は旅をしているとお聞きしましたがどちらへ向かわれるのですか?」

 「私達はこれからマミラニア砂漠へ行こうと思ってるんです。」

 質問されたエーデルがそう答えるとマープルをまぁと声を出して両手をパンと叩いた。


 「それなら私達と一緒にアギトへ行きませんか?砂漠はアギトの向こう側にありますし、それに大慰霊祭は砂漠で行いますので。明日には出発予定なんですけど。」

 「え?アギトでするんじゃないんですか?」

 「マミラニア砂漠に戦士達のお墓があるんです。亡くなられた方々のご家族や子孫の方々が集まってお会いになるのがこの慰霊祭の本番なんですよ。」

 「へぇ…」

 マープルの説明にエーデルは頷きながらお茶を飲んでいる。


 「確かに…それに私達も一緒に行った方が安全だと思うもの。」

 「俺もそう思います。何かあれば我々で守る事もできますからね。」

 マギリカとシュリは同行する事に賛成の様だ。


 暫くすると花を取りに行った三人が戻ってきた。ベルの両手にはきちんと青と白の花が咲いたリュウグウソウが握られている。

 その後、ベル達親子三人の勧めで五人はその日ベル達の家にお泊まりする事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る