二章第6話 蠢き始める亡霊達
その夜。此処はマミラニア砂漠の中心地である。砂漠の中心には三角柱の形をした石造りの巨大な建造物が建っている。
これは"テトラ・グレイヴ"といい、又の名は"戦士の墓"と呼ばれている。正式名称は前者の方である。
この戦士の墓はドラセナ大陸の名物ともなっている大慰霊祭で使用する場所でもあり、亡くなった聖竜騎士団の人々の共有墓地でもある。
しかし個人個人で棺に入れられて丁寧に保存されている。ベルの兄も棺の一つに入っている。大慰霊祭当日はその死者の魂が地上に帰ってくると信じられている為、死者の家族や親戚、子孫のなどが会いにくる。
そしてそれぞれ目当ての棺に祈りを捧げたり棺の周りに花やお菓子、手紙などをお供えするのだ。
棺の中を開けて顔を見る事は出来るが、やはり少々子供達にはショッキングな可能性を踏まえて開けて見れるのはある程度大人になってからと暗黙の了解で決められている。
そんな場所故に普段は静かで厳かで何処か神秘的で不気味な雰囲気漂う戦士の墓。静寂に染められたその墓内のある部屋に一人の女性が立っていた。
「相変わらず…悪趣味な花ですこと…少々クラクラしますわね。」
女性は紫と黒が基調の上品なドレス風のローブを纏っている。頭にも同じ様な配色に銀色の月の飾りがついた唾の広いとんがり帽子をかぶっている。
髪は切り揃えられている紫のロングヘア。目は閉じていて、長い紫のまつ毛が目立つ神秘的な雰囲気を纏った女性である。
「やはりと言いますか…この地は魔力の無い竜人族ばかりでつまらないですわ…花もまだ蕾ですし…これじゃあ蜜も望めそうにありませんわね。」
すると女性は振り返り並んでる棺に向かって手を広げて魔法を発動した。透明に近い白い魔法陣から魔法陣と似た色の光が棺に向かって飛んでいく。そして棺に溶け込むように消えていく。
だが次の瞬間。棺の蓋がガタガタと揺れ出した。すると中から、竜人族のミイラや骨が出てきた。それも自力で這い出てきたのだ。
出てきた死者達はそのまま動き女性の前に集合して綺麗に整列した。
「ふふ…でも愛しの"グリム様"のお願いですもの♡例えこの場所が嫌でも守る義務がありますわ。…とは言え私には守るべき場所は此処だけではありませんし…仕方ありません。此処はあなた方に守って頂きますわ♡」
そう言いながら女性は真っ直ぐに歩いていく。死者達はモーゼの如く女性の歩くスペースを開けて整列する。
「まぁ安心なさい。そもそも魔力もない貴方方に期待等してませんもの。直ぐに戻りますわ。それまで守りなさい。侵入者は殺しても構いません。グリム様の為ならばそんなはした命等要りませんものねぇ♡」
女性はクスクスと微笑みながら体の横に魔法陣を出現させて手を入れる。魔法陣から再度手を出すと月のアクセサリーがついた竹箒が握られていた。
そして女性はその竹箒に横座りに座ってそのまま戦士の墓から飛び出していった。それを確認すると死者達は其々散り散りになり、彷徨い始めた。
同時刻。
マギリカはエーデルの訓練に付き合っていた。何故かハチも同席している。
「"
「エーデルちゃん。ちゃんと目標を見て!距離もちゃんと把握しないと当たらないわよ!」
「はい!」
マギリカのアドバイスに懸命に答えるエーデル。するとハチとヴラムは何故自分も呼ばれたのかと不思議そうな顔をしている。
「エーデルちゃん頑張ってるにゃんね。所で何故吾輩も呼ばれたにゃん?」
「いやねぇ?貴方とじっくり話したいと思っただけよ。所で何で貴方はそんな姿になったの?200年前のロクロちゃんはそんな見た目じゃなかったじゃない。
あ!今の猫ちゃんも好きよかわいいし!唯ベルを助けるあの一瞬だけ、姿が私の知ってる姿だったのはどうして?」
マギリカの質問にハチは手を顎に持っていき何やら悩み出した。
「うーん…吾輩はその…訳あってロクロの名前は名乗れないのにゃん。だからハチは偽名にゃん。それと姿は別に好きでこの姿になった訳では無いのにゃん。」
ハチの答えにマギリカは首を傾げる。
「どう言う事?」
「偽名を使ってる理由はちょっと言えないのにゃん。けど姿に関しては…本来の姿を維持できる時間が短くなってしまったにゃん。この姿の方が体への負担が少ないのにゃん。」
「…それってさ?毒耐性がついたのと関係あるの?」
「結果としては関係は大有りにゃん。けど今は言いたくにゃい。この事実は墓場まで持っていくのにゃん。確かに君やみんなの事は信用してるにゃん。けど分かって欲しいのにゃん。」
ハチは被ってる頭巾をギュッと掴み目元まで下げている。
マギリカはその姿を見て
「分かった!聞かない!本当はすっごい気になるけど聞きません!」
「ありがとうにゃん。マギリカ。」
マギリカの宣言に安心したハチ。一方のエーデルは時間を掛けて全ての的を射抜いた後二人の方を向いて
「あのぉ…すっごい気になる話を横でするのはやめて頂きます?集中できない…」
汗をかきながらもジト目で見てくるエーデル。エーデルとて気になってた話題である。
完全に意識がそっちに飛んでしまった。
「エーデルちゃん?これも修行よ!集中力をつけないと!」
「そんなぁ…」
マギリカの指摘にエーデルは項垂れている。ハチは若干申し訳なさそうである。
そんなやり取りを2階から見下ろすヴラム。
「全く…夜遅くによくやるものだな。」
すると寝ていたシュリが起き上がった。
「ヴラム様?眠らないのですか?」
「ん?何だ起きたのか。ふんどっかの小娘がどんな無様な顔を見せるか楽しみなだけだ。」
「ヴラム様はエーデルの事をよく気にされてますね?」
シュリの発言にヴラムは心外だとばかりに眉間に皺を寄せる。
「んな訳あるか!馬鹿なこと言っとらんでさっさと寝ろ。」
「ヴラム様がそう仰るのならば直ぐに寝ます!」
シュリは慌てて布団を被った。
「…別に気にして等おらぬわ…」
ヴラムは窓越しに夜空を眺めながら呟く。
気にしてる訳では無い。唯…がむしゃらに努力する姿を大切な人と重ねていたからだ。
エーデルとは違い、努力だけではどうしようも出来ない弱点。それでもその人は一生懸命、いつか起こるであろう奇跡を信じて何度も何度も努力した。
-200年前
『うう…』
『おい。そろそろ辞めたらどうだ。』
『諦める訳にはいかんのだ!まだだ!もっと練習に付き合ってもらうぞ!』
『…ハァ…』
『!溜め息を吐くな!』
ヴラムはそんな200年前のやり取りを思い出すが直ぐにふるふると頭を振ってその思い出をかき消す。もう200年も経っているのにヴラムは忘れる事ができなかった。
何せその人物との思い出はヴラムにとっての宝物でもある。そしてこの思い出は決して忘れてはならない。そして忘れぬまま長い時を生きねばならない。
それが彼自身の罪滅ぼしであるからだ。
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