二章第7話 都の噂

 次の日の朝

 「…騎士団の奴ら失敗したのか…」

 朝食を終えた後一行は一度集合して作戦会議をしていた。というより気になっていた動く花についてだ。

 「え?」

 「これを見ろ。」

 ヴラムが地図を広げて全員に見せた。するの今現在、動く花の印が移動している。シロツメ大陸を抜けて、今は世界の北東に位置するシラー大陸にその存在が輝いている。


 「動く花…一体何なんでしょうか…。マギリカ様の魔力探知にも引っ掛かっていたし、勇者騎士団本部に近づいても捕まえる事ができなかった。それに今まで目撃情報もないのは不自然です」

 シュリは汗を一筋流して少し焦った顔をしている。

 「まぁ騎士団が捕まえられなかったのは痛いにゃん。けど確かに目撃情報が無いのは不自然と言えば不自然にゃん。」

 「確かに…それに色んな大陸を横断してるみたいよね?あんなのが魔女族のいる大陸まで来たら大騒ぎになるわね。」

 ハチとマギリカも同意していた。するとエーデルが


 「…あのさ?本当に動いてる奴って花なのかな?思ったけどあの時マギリカさんの二回目の魔力酔いの時に側を馬車が横切ってたじゃない?だから…」

 「…花ではなく、あの馬車に乗っていた人物かもしれない。そう言いたいのか?小娘。」

 「うん。確証はないよ?」

 「いや…可能性としてはあり得ん話でもなかろう。もしかしたら其奴が花を作成した人物の可能性もあり得る。」

 エーデルの考察にヴラムも少し思うところがあるらしく真剣に聞いている。


 「そうにゃんね。他の可能性ならその花が他の生物に寄生するタイプって事もあり得るにゃん。薬草でもそういうのあるし。人間だけでなく馬車を引いてた馬だってあり得る訳にゃん。」

 馬にしても人にしても確かに町や村等にいても違和感はない。目撃情報がないのも納得である。

 そんなハチの考察に他のメンバーは頭の中で想像した。自身の頭からあの花が咲く様子を。

 全員背筋が凍ったのは言うまでもない。


 「ま…まぁ良い。そう言えばあの馬車なんだが遭遇したのはいつ頃だ?」

 「丁度一週間前だったはずですよ。」

 「成程な…」

 シュリの答えを聞くとヴラムは一度ドラゴニアの部屋に行き、便箋とペンはないか聞きに行った。

 がそれを聞いたベルがキラキラお目目で花柄の可愛い便箋と可愛らしいペガサスのチャームのついたペンを差し出してきた。ヴラムは断りきれずそれを受け取り再び一行のいる部屋に戻って行った。


 「何するの?」

 「馬車がホワイトクローに入ったと言うのなら検問を受けた可能性があるし、記録もまだ残ってるやもしれん。取り敢えずその馬車と遭遇した日時と特徴を書いて調べさせる。」

 ヴラムは勇者騎士団宛に手紙を出すようだ。 花柄の可愛い便箋なのであれだが、内容が重要なのだとヴラムは自分に言い聞かせた。ヴラムは乱暴ないつもの態度とギャップのある綺麗な字で丁寧にサラサラと細かく書いている。

 

 そのギャップにエーデルは目を点にしていた。ついでにそんな彼が可愛いペガサスチャームが揺れるパステルレインボーのユメカワなペンを使ってるのがどうにもシュールでついエーデルは吹き出した。

 がそれに反応したヴラムが眉間に皺を寄せてエーデルの頬を摘んだ事で笑いは制止した。


 その後書いた手紙をヴラムとついて来たシュリの二人が郵便局に出しにいった。ちなみに便箋を入れる封筒にとベルから渡された流星の形の可愛いシールも渡されたが流石にそこまでするとふざけてると思われそうなので普通のシンプルなシールを貼って封をした。

 他大陸宛の手紙なので時間はかかるが確実に届くだろう。

 

 そして二人が戻り少し経った後五人とベル達親子は荷物を持って早速アギトへ向かう事にした。





 その頃アギトの都は少しパニックになっていた。

 「おい聞いたか!?戦士の墓でゾンビが出現してるんだって!」

 「聞いた聞いた!大慰霊祭の準備を手伝った奴とか司祭達が襲われたらしいぞ!」

 それはもう少しで迫る大慰霊祭当日に向けての準備の為に大人達が戦士の墓を訪れた時のことである。


 大人達が墓に入り、灯り用の松明や飾り付け用の花で壁を彩っているいた時の事だ。墓の奥から変な呻き声や足音が聞こえたらしい。そして様子を見にいくとそこには聖竜騎士団の鎧を纏ったミイラや骸骨が動き回っていたと言うのだ。

 大人の人が怯えて悲鳴を上げるとそのゾンビ達が気付き追いかけてきたらしい。


 「けど本当かな?毎年大慰霊祭してるけどそんなの起こった事ねーじゃん?」

 「だよなぁ…けど何が起こるから話からねぇから今年は嫁と息子には留守番してもらって俺だけで行こうと思ってるよ。」

 「まぁその方がいいのか。俺も婆ちゃんに留守番してもらおうかな…」

 都民達は不安が募り、大人の男達は家族に何かあると悪いと一人で赴くと決断している者もいる。


 聖竜騎士団の方でも現在問題になっていた。そして方針として騎士団が捜査を行い、噂の真偽を確かめてもし本当にゾンビが出る場合は大慰霊祭においての戦士の墓への通行を禁止する事にした。

 今まで決して中止にした事のない大慰霊祭において今回のような事は初めての事だ。

 アギト中を不安が染めていく。





 その頃、ヴラム達一行は村を出てアギトを目指していた。途中野宿を挟む事もあったが、比較的安全に進める事ができた。

 遠距離攻撃の得意なヴラムとマギリカ、ブレスを使える竜人夫婦。毒耐性を持つハチ。防御鉄壁のエーデル。シュリは自分なりにデカい岩や木、自前の大剣で魔物を薙ぎ払っていく。

 毒持ちの魔物が多いこの大陸においては中々の布陣である。


 「いやぁ…皆さんのお陰で予想以上に快適に旅ができてますよ!ありがとう御座います!」

 竜人夫婦はニコニコと一行に礼を述べる。

 「あらぁ♡そんなそんなお気になさらないで!ベルちゃんは怖くないかしら?」

 「はい。皆さんが守ってくださるので。でも私何もしてないですね…」

 マギリカに声をかけられたベルは少し申し訳なさそうである。


 「ベルちゃんが危険な目に遭ったらパパとママが悲しむよ?だから気にしないで?ね?」

 エーデルがベルの頭を撫でながら優しく言うとベルは安心したような顔をしている。

 「私も…強くなりたいです…」

 「うん。分かるよ。私も同じ!一緒に頑張って強くなろうね!」

 「はい!エーデルさん!」

 エーデルとベルは笑い合っている。


 「あらあらまるで姉妹ねぇ…」

 マープルは二人を穏やかそうに見つめている。

 「見てると思うにゃん。きっと種族とか関係ないにゃん。姉妹にしても親子にしても結局大切なのは絆だにゃん!」

 「それは言える!何故なら鬼人族の俺と魔族のヴラム様の絆は誰にも負けんからな!」

 ハチの呟きにシュリは目を輝かせて同意して熱弁している。そんなシュリをしわしわな顔で見つめるヴラム。シュリの事は可愛がっているがなんか複雑な気分のようである。

 というかシュリからの矢印が重すぎて押し潰されそうである。


 「まぁ…実の親子でも絆が皆無なんて事もあるからな…」

 ヴラムはボソッと呟く。ヴラムはそれを知っているからこそシュリを大切に大切に育て上げたのだ。

 世界一幸せになって欲しいと願いながら。


 しかしかなり小さな声の為、誰もその声を拾う事はできなかった。

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