二章第8話 到着アギト

 此処はアギトの都。このドラセナ大陸最大の都市でもある。都にはパキラとは比べ物にならないぐらいの露店が並んでいる。

 一行は少し時間は掛かったもののアギトに無事到着した。

 「うわぁ!凄いね!沢山のお店が並んでる!」

 「えぇ。それにアギトは審査が厳しいからね。パキラに比べれば商品も安全な物が多いわよ♡」

 目を輝かせてキョロキョロと見渡すエーデルにマギリカが説明する。それを聞くとエーデルのテンションは更に上がっていく。


 「おい。俺達の目的はあくまでも花の調査だ。遊びに来た訳ではないぞ。」

 「う…」

 ヴラムの指摘にエーデルは声を詰まらせた。

 「まあまあヴラム?息抜きは誰だって必要よ?アンタも少し肩の力を抜きなさい?

 まぁ…でもそうね。エーデルちゃん?調査が終わったら露店を見てまわりましょうか。」

 マギリカの意見にエーデルは目をキラキラさせている。


 「ちっ…弟子に甘すぎるだろうが。」

 「まあまあ。息子に甘い君が言うのはどうかと思うにゃん。」

 「俺は別にシュリに甘くなどない!」

 「ヴラムさまぁ…」

 息子という単語に直ぐにシュリの名前を出したヴラムにシュリは感激の余り涙ぐんでいる。

 ヴラムが父でシュリが息子ならシュリはかなりのファンザコンだなぁとハチは頭の片隅に思っていた。


 するとベル達親子が話しかけてきた。

 「皆さん此処までありがとうございました!」

 ドラゴニアがそう言うと三人揃ってペコリとお辞儀した。

 「私達はこれから大慰霊祭に参加する為の受付をしなくてはなりませんので此処で失礼致します。本当にありがとうございました。」

 「皆さん!ありがとうございました!またお家に遊びに来てくださいね!」

 

 「うん!また来るね!」

 エーデルがニコッと微笑みながら返すとそれを合図にして三人は去っていた。ベルは途中振り向き手を振ってくれるので一行の方も手を振って答えた。

 

 「行っちゃったね。」

 「ふん。静かになって精々するがな。」

 少し寂しそうなエーデルに対して不敵な顔を浮かべるヴラム。だが視線は三人に向いている。

 「また会えるにゃん。それよりも吾輩達は吾輩達ですべき事があるにゃん。」

 「そうね!よーしまずは変な花の目撃情報集めよ!」

 マギリカが片手を挙げて気合を入れる。


 



 その頃大慰霊祭前日。聖竜騎士団は戦士の墓で起きてるゾンビ出現について調べていた。

 「ゾンビってんなもん今まで見た事ねーぞ?」

 「どうせ影か何かと見間違えたんだろ。」

 団員達はそう言い合い半信半疑で戦士の墓に潜っていく。その前の日に飾り付けに行ってた人々が失敗した為、飾り付けもついでに頼まれた。松明も炎が消えていて暗い。


 騎士団員達は飾り付けをしながら調査を進める。松明の明かりが順々につけていくと少しずつ明るくなっていく。しかしそこである違和感が襲った。一瞬だが影が大きく動いたのだ。

 「なあ?なんか今動かなかったか?」

 「気のせいだろ。ん?」

 団員達が少しずつ墓の中が異常であると肌で感じ始めた。すると何やら墓の奥から沢山の足音が聞こえてくる。団員達に向かってどんどん足音が大きくなっている。


 「な…何だよ!まさかゾンビか!」

 「くそ!奥が見えねぇ!松明に灯りつけろ!」

 団員の一人が松明用の棒を取り出して炎の息を吹きかけて松明に灯りを灯す。すると周辺が明るくなりゆらゆらと影が揺らめいている。

 その瞬間。団員達は凍りついた。


 目の前にいる集団。それはどう見てもこの世の物ではない。生者の気配が感じられない。自分たちと同じ鎧を着た者達。

 「お!おい!あいつ"レギウス"じゃねーか!俺アイツの葬式にも参加したんだぞ!」

 集団の中にはまだ朽ちきってない真新しい死者の体が動いている。団員達はこのレギウスの という青年の死を目の当たりにしたのだ。


 確かに…一般市民を猛毒の持つ魔物から救う為盾になり死亡したのだ。脈も心臓も動かず息もしていなかった。体も冷たくなっていた。

 そして彼の葬式も大々的にに行われていた。

 だから言い切れる。レギウスは確実にこの世にいないはずなのだ。


 「ち…全員一度引き上げるぞ!うわ!」

 するとレギウスが大きな口をガパリと開けた。そこから強い電流が放たれた。

 モロにくらった団員はダメージの他体には痺れが生じて上手く動けない。直ぐにまだ動ける団員が背負い助ける。そして全速力で逃げた。


 その後を全力で追いかける死者達。中にはレギウスの様にブレスを吐く者もいたが、団員の方でもブレスを吐いて応戦した。

 しかし元々は苦楽を共にし同じ釜の飯を食べた仲間だ。全力で攻撃ができないし傷つけたくない。彼らは逃げる事しかできなかった。


 そしてやっと彼らは墓場から脱出して陽の光の下に出る事が出来た。

 団員達は息を絶え絶えにして後ろを振り返る。死者達はそれ以上は出てこなかった。唯暗がりから光の無い目で此方をじっと見つめてくる。 

 団員達はゾッと寒気を覚えた。しかし暫く睨み合いをすると死者達は諦めたのかゾロゾロと墓の中に入っていった。


 「な…何だよ!あいつら!」

 「ま…まさか呪いか?」

 「バカ言うな!んな呪いがあるならとっくの昔にゾンビが出現してもおかしくねーだろ!」

 団員達は議論した。すると団員の一人が待ったをかけた。

 「こんなところで言い合っても仕方ない!兎も角今回の大慰霊祭の墓参りは中止だ!」

 ざわざわと団員達はざわつく。


 「け…けどあのゾンビ達をどうにかしないと!このままじゃ伝統ある大慰霊祭は2度と開催できない可能性があります!」

 「確かにそうかもしれないが。俺達の勤めはあくまでもドラセナの民達を守護する事だ。

 確かに伝統は重んじるべきかもしれんが、そこに人の命が天秤にかけられたらどっちが重いか分かるだろ!」


 年長の団員がそう言うとシーンと静まり返った。

 「しかしこの事は一度、陛下にご説明すべきだ。国王に判断を委ねるしかあるまい。

 個人的には中止したい。だが騎士団の一存で決められんのもまた事実。一度戻ろう。」

 その言葉を残して年長の団員はアギトに向けて歩き出した。

 

 他の団員も黙ってその後をついていく。彼等とて仲間達と会いたかった。護衛をしながら彼等の墓参りをするのが楽しみだった。

 なのにこんな再会はあんまりである。


 団員達はトボトボとアギトに向けて歩き出す。結果として国王に報告したところ今年の大慰霊祭の墓参りは中止となった。


 しかし墓参りの為に遥々と訪れた家族達がそれを素直に納得するかはまた別の話であり、騎士団は彼等の説得に労力を注ぐ事になった。

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