二章第9話 高まる抗議

 一行は其々バラバラに行動した。がヴラムはシュリと行動している。

 「おい。俺は一人で大丈夫だ。」

 「ですがヴラム様一人だとおそらく誰かと喧嘩しそうなので。」

 ヴラムの悪癖は他人と衝突しやすい。交流のある者ならば彼の本質は理解できるのである程度平気だが、知らない人からすると失礼な若造である。

 それでヴラムは何回も色々な人と衝突する。


 シュリはその度に防波堤となり、喧嘩の仲裁やヴラムが余計な事を言わない様に会話を積極的に行う等の対処を取る様にした。(しかし女性はこの限りでは無い。)

 ヴラムも自身の悪癖を自覚しているので押し黙った。  


 一方のエーデル。現在、サイ系の獣人族に話を聞いていた。

 「成程…ここら辺ではそんな花は見かけてないと…」

 「ええ。ごめんなさいね?私も此処に来たばかりだから分からないのよ。植物の事もよく知らないし」

 「いえいえ!お話聞かせて頂きありがとうございます」

 エーデルそう言ってお礼を言うと女性は申し訳なさそうに立ち去った。


 「うーん。また不発かぁ…竜人族の人たちに聞いても分からないみたいだし…」

 エーデルは此処まで色んな人声を掛けたが誰も不気味な花を見ていないと言う。

 「うーん…どう言う事?」

 エーデルが首を傾げながら悩んでいると、


 「お墓参りが中止ってどう言う事ですか!」

 聞き覚えのある大声が聞こえた。エーデルは何事かと急いで声のした方向に走る。




 走った先には人々が群がっている。エーデルはその群衆に近づく。どうやら皆んな"聖竜騎士団本部"前に集まっている。

 群衆は何やら殺気だっておりそれを騎士団員が宥めている。

 「だから。ご説明した通り!今現在戦士の墓内でゾンビが徘徊しているんです!」

 「それは貴方方が調査したから分かった事でしょ!何故調査段階でゾンビ達を野放しにしたんですか!こんなの職務怠慢ではありませんか!」

 説明する騎士団員に詰め寄る人々。その中にはドラゴニアも混ざっている。どうやら先程の大声はドラゴニアの声の様だ。


 エーデルはこの騒ぎに首を傾げるが列の後ろにいるベルとマープルに話しかけた。

 「ベル。マープルさん!」

 「あ!エーデルさん!」

 ベルはまた会えた事に純粋に喜んでいる。エーデルはそれに癒されながらベルの頭を撫でた後マープルに向き直った。

 「あの…これは一体何の騒ぎなんですか?」

 

 するとマープルが難しい顔で片方の頬に手を当てながら

 「どうやら今年の大慰霊祭ではお墓参りには行けないらしいんですよ。こんな事今までなかったのに…」

 「え!どうしてですか!?」

 マープルの言葉にエーデルは目を見開いた。大慰霊祭はもう明日なのである。あまりに急すぎる。


 「何でも戦士の墓の中でゾンビが発生したとか。」

 「ひえ!ぞ…ゾンビ!?」

 ホラーが大っ嫌いなエーデルは青い顔で怯えている。マープルはコクリとうなづく。

 「ええ…ゾンビが出るなんて事もこれまでの長い歴史で聞いた事がないのです。一体どうしたんでしょうか…」

 「私…お兄ちゃんにお花あげたかったです。」

 ベルはシュンとしている。その様子にエーデルも心配そうである。


 「でも皆んな家族に会う為に此処まで来たんです。だから誰も納得できていません。夫も特に今回の事に不満を募らせてまして…」

 見ると中にはベルのように泣いてる子供達もいた。

 「父ちゃんに会えないのぉ?」

 「やーだー!ジィジに会うの!」

 うわーんと大泣きする子供達。子供の泣き声と大人達の怒鳴り声。エーデルの耳にそれが一斉に入り込み脳内がぐちゃぐちゃになりそうだ。


 「…」

 「エーデルさん?大丈夫ですか?」

 混乱してきたエーデルがぼーっとしているとベルが涙目で心配の声をかけた。

 エーデルはその声に我に返って笑顔を返した。

 「うん!大丈夫だよ!…けどごめん…私今用事あるからちょっと戻るね?」

 「はい…お大事にしてくださいね?」

 「うんありがとう。」

 自分の方が辛いのに他人を心配する優しい少女にエーデルは何と言葉を掛けていいか分からずその場を一旦去る事にした。そして一度他のメンバーと約束した場所に行く事にした。


 道中…エーデルは頭がモヤモヤしていた。エーデルの父も騎士団員であったが死亡したのだ。そして父がいなくなったショックからか母の容体も急に悪くなり亡くなった。

 そして自分には兄しかいなかった。ベルの兄が亡くなった事は後から知ったが…正直想像してしまった。


 兄がもし命を落としてしまったら。と…


 兄が騎士団に入るのはエーデルは全力で反対した。怖かったのだ。兄がいなくなるかもしれない。そう考えてしまったら息が苦しくなった。

 兄の様に強くなりたいのは本心だ。けどそれよりも兄の側にいたい事、兄を守れるぐらい、せめて互角に肩を並べられる様になりたいから勇者騎士団を目指した。そして何より兄の野望の為に…

 

 「って!何考えんの私!辛いのは私じゃない!!大慰霊祭を楽しみにきた人たちでしょうが!私のアホ!」

 エーデルはネガティブな思考回路を必死に振り払う。すると後ろから声をかけられた。

 「何をしているのだ小娘。」

 「エーデル?頭を振ってどうしたんだ?大丈夫か?」

 後ろにいたのはヴラムとシュリである。


 二人の顔を見ると少し落ち着いた。

 「ううん。何でもないよ?二人も情報収集おわったの?」

 「まぁな。だが碌な情報が手に入っておらんがな。」

 「目撃した人がいないとなると少し難航しそうですね。聞いた話だと砂漠を横断する行商人もいるのに皆んな見ていない様ですし…」

 シュリの言葉にエーデルは頭を抱えた。あまりに情報が少ない。


 「此処にいても埒が明かん。さっさとマギリカやハチと合流するぞ。」

 「うん。そうだね。」

 三人は他の二人と合流する為に歩き出した。

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