二章第10話 エルフ少女の暴挙
一行が待ち合わせに予定したのは、アギトにある宿屋の酒場である。既にハチとマギリカが座っていた。マギリカが手を振って三人を呼んだ。
「こっちこっち!」
「お疲れ様にゃん。」
ハチも三人に労いの言葉をかける。
五人は其々情報交換を始めたがやはり情報は集まらなかった様だ。
「んー進展なしね。」
「困ったにゃんねぇ。このままだと砂漠を闇雲に探す事になるにゃんよ。」
すると酒場に二人の竜人の男女が入ってきた。
「本当最悪!何で急に中止なのよ!お義父さんのお墓参りの為に来たのに!」
「まあまあ落ち着けよ。でもさゾンビってどこから湧いたんだよ。…まさか親父達が…」
「あなた…」
どうやら二人も墓参りに来たらしい。しかし矢張り墓参りは中止となっている。
「都中も墓参りの急な中止で大騒ぎよ?花よりそっちの情報も入ってきちゃってる。」
マギリカがため息を吐く。するとエーデルはベルの泣き顔を思い出した。
エーデルは危険を犯してまで兄の大好きな花を摘んだのだ。なのに…
「ねぇ。戦士の墓って砂漠にあるんだよね。」
急にエーデルが喋り出した為全員エーデルに注目する。
「砂漠…闇雲に探しても絶望的だし行商人達も見てないって言ってた。…けどさそれって見えないところにあるからじゃないかなと思うの。」
エーデルの言葉にヴラムがふむと相槌を打つ。
「成程な…つまり貴様が言いたいのは花がその墓の中にあるのでは?と言う事か。」
「う…うん!」
エーデルが全力でコクコクとうなづく。
「とはいえ…貴様が知りたいのはゾンビの発生についてではないのか?」
「え?」
「おおかた、貴様の事だ。墓参りが中止になって落ち込んでる奴でも見つけたのだろう?」
ヴラムの声にエーデルは黙り込んだ。実際泣いてるベルを見て思ったのだ。この問題を解決してベルを兄に会わせてあげたいと。
「ふん。まぁよい。結果的にそれが依頼をさっさと終わらせる足掛かりになるのだ。貴様のボランティア精神はあくまで次いでだと言う事をゆめゆめ忘れるでないぞ?」
「わ…分かってるよ。そんな事…」
ヴラムの嫌味っぽい口調に少しムッとしながらもエーデルはゾンビについて調べれる事に安堵した。怖いのは嫌いだが…仕方あるまい。
「どうしますか?外はもう暗いですよ?」
シュリのいう通り窓の外は夜の帳が下りている。砂漠は夜になると昼と打って変わってかなり気温が下がる。最悪凍える。それにプラスして夜は魔物が活発化しやすいのだ。
昼にしても夜にしても気温は地獄だが、視界が明るく魔物も夜に比べて大人しい昼間の方がいいだろう。
五人は出発を明日の大慰霊祭にする事に決めた。
五人は其々の泊まる部屋に行く為に酒場を出て階段を登ろうとした。しかし突然ドアがバンと開かれた。
見ると息を切らしているドラゴニアである。
「こ…此処にエルフの女の子は来てませんか!水色の髪の12歳くらいの子供なんですけど!」
「落ち着いてください。お客様!」
ドラゴニアの唯ならぬ様子にフロントスタッフが対応して落ち着かせようとしている。
「なーにやっとるのだ。青トカゲ。」
「ヴラムさんに皆さん!ベルを見かけてませんか!」
ヴラムが声をかけるとやはりドラゴニアは興奮した様子でベルについて聞いてくる。
「いえ。見てませんよ?どうしたんですか?」
エーデルが焦りながら答えると更にドラゴニアの青い顔がもっと青くなっていく。
「ベルがいなくなったんです!ベルがトイレに行くって宿屋の部屋を出たと思うと帰ってこなくて…トイレを見てもいないんです!」
その言葉にヴラム達は目を見開いた。ベルはエルフなのだ。
非力な種族でしかも子供である。それもベルは中々整った顔立ちなので人攫いからすると良い商品である。
様々な最悪の想像。
「と…兎も角!私たちも探すわよ!」
マギリカの合図に全員が大きく頷き急いで探しに外へ出た。
「ベルちゃーん!どこー!」
「ベル!何処へ行ったのだ!返事しろ!」
全員外を探しているが中々見つからない。マープルはいつでもベルが戻ってきてもいいように宿屋で待機している。
「こっちにはいないにゃん!」
「ベル…無事だといいのだが…」
シュリとハチも顔を青くしている。特にシュリは人攫いへの恐怖を知っている。知らない大人に人としてではなく物として…商品として見られるあの目。そして動けない様に着けさせられる冷たくて重い鉄の拘束具。助けを呼ぼうとすれば殴られるし暴言を浴びせられるのだ。
幼い少女がもし自身と同じ目に遭っていたら…シュリはブルリと震えている。
するとハチが肉球をポンとシュリの背中に当てる。
「大丈夫!きっと見つかるにゃん!さあ頑張るにゃんよ!」
「あ….ああ」
ハチの励ましに少し笑みを浮かべたシュリは再びベル探しに奔走した。
「んもお!あの子どこ行ったの?」
「ベルちゃーん!」
女性陣も懸命に声をあげ続けている。
「わ…私のせいです。私がちゃんとみてなかったから!」
「そうだな。」
「うう…」
「ふん。見つけたら精々抱きしめるなり何なりしろ。…あの小娘め。俺との約束破りおってからに!」
落ち込むドラゴニアにキツいながらも励まそうとするヴラム。すると
「君達さっきから誰か探してるのかい?」
話しかけてきたのは鬼人族の青年である。青年は行商人の様だ。今は店仕舞い中らしい。
「はい!エルフの女の子を探してるんです!」
ドラゴニアが食い気味に言うと、青年が何やら合点が行ったという顔である。
「遠目で見たからあれだけど。砂漠に向かってく女の子がいたよ?両手にリュウグウソウかな?なんか植物を持ってたけど。」
鬼人族の五感は優れている。遠くでもよく見えるのだ。しかし物理的な距離が遠い事や他の店員に呼ばれて少女を呼び止められなかったらしい。
「ベル…」
「まさかアイツ。一人で墓参りに行ったのではあるまいな!」
ヴラムは顔を上げてそう声を上げると直ぐに翼を生やして砂漠に向かって飛んで行こうとする。
「待ってください!私も!」
「貴様がいては足手纏いだ!他の奴らにも伝えろ!恐らくあの小娘は戦士の墓場にいるやもしれん!」
そう言ってヴラムは翼を素早く動かして猛スピードで飛んでいく。
その頃のベル。ベルはブルブルと寒さに震えながら砂漠の上を歩いていた。途中で砂で足がもたついて転ぶがベルは諦めずに立ち上がる。
両手にはしっかりとリュウグウソウが握られていた。
「待っててね…お兄ちゃん!」
ベルは懸命に歩く。ベルは気づかなかった。後ろからベルの小さな背中を狙う者がいる事に。
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