第29話 暫しの船旅
一方その頃ヴラム達。
ヴラム達は家から出発してハイビスカスを目指していた。
「ドラセナ大陸ってどんな所?」
「カラッカラに乾燥しててクソ熱い場所だ。」
「えぇ…すっごい行きたくなくなるフレーズ…」
エーデルの質問にヴラムが答えた。しかし言ってる内容はシンプルながら行きたくなる意欲を消し去る。彼はきっと旅行会社などでは働けないタイプだ。というか接客業全般無理であろう。
するとマギリカが
「んもぉ!大丈夫よエーデルちゃん。ドラセナ大陸はね?露店が並んでいて賑わってるの」
「露店ですか?」
シロツメ大陸の店は確かに露店もあるものの基本的に建物内に店があるので、露店が並ぶ場所はあまり想像つかないようだ。
「ええ。そこでしか売ってないオリジナルアクセとか、美味しい食べ物とか、怪しい物とか結構見るだけでも面白いわよ。」
「へぇ…少し楽しみになってきました!」
エーデルはマギリカの紹介の仕方に行く意欲が少し湧いた。
「フン大陸なんぞ何処も一緒であろう。」
「いや…結構違うと思うにゃん…」
大陸ごとに気候や環境、伝統など様々な違いがある。温暖で住みやすい環境であるシロツメと割と過酷な環境のドラセナ。
この二つだけでも比べればかなり違う。しかしヴラムからすれば住めば何でも同じである。
「俺はヴラム様となら例えマグマの中でも住めます!」
「そうか。流石に死ぬな。」
やたら目をキラキラさせたシュリに冷静にツッコむヴラム。流石にマグマの中は無理である。溶ける。
そんな話をしながら賑やかに歩く一行。すると何故かマギリカがハァハァと息を荒げて顔を青くしてぐったりし始めた。
「どうしたんですか!マギリカさん!」
エーデルはそれに気付きマギリカに寄り添う。先程まで元気に話していたのだ。なのに急にである。
一行は一度途中で止まりマギリカを休ませる事にした。
「何だ?もうバテたのか?」
「ハァハァ…違うわよ…なんか…変な魔力が…」
「魔力?」
ヴラムはそのマギリカの返答に少し引っ掛かりを覚えた。まさかと思いヴラムは荷物から地図を取り出してみる。
「これは…」
ヴラムは驚愕の顔つきで地図を凝視している。その様子に何事かと他の面々も後ろから覗きこんだ。そしてヴラム同様の顔つきになる。
「点がこっちに向かってる?」
点はハイビスカスからホワイトクロー方面へと向かっている。
一行は焦り始めた。下手したらドラセナの花より先に例の動く奴と出会うのかと。マギリカの事も心配ではあるが、同時にどうやって花が移動しているのか。
それに対する興味も沸いている。
点が近づくにつれて更に顔を青くさせるマギリカ。前回の騎士団本部では完全密閉の部屋に保管されていたので部屋に入るまではマギリカは平気だった。魔力は空気中を舞う。
魔力の素を密閉する事でその空気を遮断でき、外側の方で換気なり風が吹くなりすれば魔力を散らせる事が可能なのだ。
が今回はそんな壁も無いのである。ヴラムとエーデルは草の裏に隠れて魔法を放つ準備をし始めた。
マギリカの方にバリアを張るという手もあるがそうすると逆に魔力探知が出来なくなる。その為、二人がマギリカにバリアを張ろうとするがマギリカは断っていた。
相手がどんな物なのか全く見当がつかないが、出現したらすぐに花にバリアを張って密閉する為にしかし近づいてきたのは花ではなく
「辻馬車が来ましたよ?」
ドドドと音を立てて隠れてる一行に気づかずに通り過ぎる辻馬車。
目の前を通っていく瞬間、マギリカは目を見開いて今にも吐きそうになっている。ハチはその背中を必死に摩っている。
しかし辻馬車が去るとマギリカの顔色がみるみる元に戻った。
「ハァハァ…やばい死ぬかと思った…」
少し唾液が出ていた為それを拭き取るマギリカ。髪の毛が汗で張り付いている。
まだ花が通っていないのにいきなり元気になったマギリカに他のメンバーは首を傾げる。
シュリは預かっていた地図をもう一度見直すと何故か花はヴラム達を通り過ぎていき、そのままホワイトクローに行きそこで止まった。
「何だこれ?どう言う事だ?」
シュリは首を傾げている。
「まぁ考えても仕方あるまい。あっちなら騎士団どももいる。元はと言えばアイツらが解決すべき案件なのだ。任せておいてよかろう。」
取り敢えず騎士団もいるので任せる事にして、一行はハイビスカスへ向かった。
というかあのキモい花がウゴウゴと蠢いてるのなんか見たらマギリカでなくても気持ち悪くなりそうなので結果オーライである。
そして暫くマギリカの体調なども確認しながら注意して戦闘を避けながら時間を掛けてハイビスカスに向かいそして到着した。
「ごめんなさいね…間に合うかしら。ドラセナ行きの便…」
マギリカは少し申し訳なさそうである。
「フン…トラブルが起きるのは想定の範囲内だ。んなもん余裕で間に合うわ!」
ヴラムは胸を張ってそう宣言する。実際に外にある時計を見ても十分な時間が確保されている。
「へぇ…旅慣れてるんだね…」
「さっすがです!ヴラム様!」
エーデルは純粋に関心しており、シュリは何故か感涙している。声もやはりデカい。
「シュリ君声デカいにゃん。取り敢えずフェリー乗り場に行ってチケット買うにゃん。」
ハチはシュリに注意する。シュリのデカい声に周囲の視線が少し集まっていた。
そんな視線にヴラムが何見てんだあ?と無言の圧力を周囲にかけると散っていた。
「いや見ず知らずの方々にやめてよもぉ…」
エーデルは額に手を当ててヴラムの背中を押していく。押すな!と聞こえるが押すなは押せの意味だと何処かで聞いた事があるので無視する。取り敢えず5人はそのままフェリー乗り場へ向かっていった。
一方その頃騎士団内は慌ただしく動いていた。
「おい!あったか!?」
「いや!こっちには来てないぞ!」
ホワイト隊隊員達はホワイトクロー内で何かを捜索していた。
それは例の動く花である。騎士団内で地図を確認したところホワイトクローに花がある事が分かった為、隊長のアルスの指示の元捜索している。しかし捜索は難航していた。
「クソ…一体何処に!」
アルスもまた捜索に参加していた。しかし一向に見つかる気配がない。
一方ヴラム達はそんな騎士団の様子など知る由もなく無事フェリーに乗る事ができた。
「フフフン♡」
「何だ?遂に頭がやられたのか?」
何やら鼻歌を歌うエーデルの横で失礼な事を言うヴラム。
「違うし!いやぁ私大陸出るの初めてなんだ!フェリーも初めて乗るし少しワクワクする!」
エーデルは目をキラキラさせている。
「はぁ?大陸なんぞただの土の塊が水に浮かんどるだけであろう?フェリーだって結局唯の船と変わらん」
「前から思ってたけどほんと夢ないよねぇ…アンタ」
エーデルはジトーっとした目でヴラムを見る。
因みにシュリは再度地図を見直す為に椅子に座っており、マギリカも潮風で髪が痛むと船内で待機してネイルを直している。ハチは何やらシュリの横で何かの薬を調合しているようだ。
エーデルとヴラムは船のデッキで海を眺めていた。
しかしこういう時船内で一人で居眠りしたりなんだりと大人しく一人で過ごしてそうなヴラムが海を眺めに外に来るのは意外だとエーデルは思っていた。
「何を見ておる。」
「ん〜?何でも無いよ〜あ!カモメ!」
「鳴き声を聞いてみろ。あれはウミネコだぞ?馬鹿め」
「ほわぁ!馬鹿っていう方が馬鹿!」
そう言いながらじゃれつく二人。
200年前も此処で同じような景色があった。
『おい!エレン!あそこにいるのがカモメだな!カモメなんだな!』
『は?ちげーよ。鳴き声も生息地もちげー。あれはウミネコだばーか』
『何だと!ウミネコってなんなのだ!カモメとの違いは何なのだ!?』
『自分で調べろや。うぜぇ』
そんな風に横に並んで言い合う二人の男女。
しかしそんなの現代を生きる彼らに知る由もない。ブォーという汽笛が鳴り暫くするとフェリーは出発する。
「わー!動いた!」
「ちっ…五月蝿い小娘だな。動くに決まっておろうが。あんまりはしゃぐと海の藻屑になるぞ。」
はしゃぐ勇者の少女と冷めた態度の魔族の少年。彼らの冒険は此処から始まるのである。
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