第28話 様々な思惑

 翌朝。

 一行はシュリ特製の朝食を食べて港のあるハイビスカスへと向かうことにした。

 因みに朝食はチーズオムレツと白パン。野菜のコンソメスープにサラダである。


 「シュリ君。昨日はごめんにゃさい。吾輩の喉の音うるさかったからリビングで寝てたにゃんね。」

 「気にするな。それに体質だから仕方ないだろ?」

 ハチは耳をぺたんと倒して申し訳なさそうにシュリに謝る。がシュリはそれに苦笑しながら許した。


 「うぅ…シュリ君は優しいにゃんね…。それに比べて…」

 ハチはじとっとヴラムを眺める。ヴラムはその視線に気づいて顔を顰めながら

 「何だ?化け狸。」

 そう不機嫌そうに返す。するとエーデルとマギリカが何事かとヴラムとハチに問いかける。


 「二人ともどうしたの?ハチなんかした?」

 「まさかと思うけど昨日のお家に人入れたくない件?解決したんじゃなかったの?」

 二人の質問にヴラムはそっぽを向く。するとハチが


 「吾輩寝てる時にどうしても喉を鳴らしてしまうニャン。その音でシュリ君が自分の部屋で寝れなくてリビングへ移動して狭いソファで寝たんだにゃん。

 多分それが原因。」

 ハチが説明するとエーデルとマギリカがヴラムを生暖かい目で見ている。図星を突かれたヴラムは顔を赤くして汗をダラダラ流している。


 「「親バカ…」」

 師弟コンビは呆れた声で同時に発する。ハチも図星だったのだと分かると申し訳なさ半分、呆れ半分でヴラムを眺める。シュリはキョトンとしている。

 「ヴラム様?最初は何処へ向かいますか?」

 シュリがそう質問したのでヴラムは早くこの話題から脱出する為にすぐにその質問に乗る。


 「今から港に着くとなると時間的には"ドラセナ大陸"行きの便がいいかもしれん。」

 ヴラムはアルスから貸し出された地図を見る。見るとドラセナ大陸の真ん中辺りにピカピカと白い点が光っている。


 「ドラセナの真ん中となると…"マミラニア砂漠"ね。うわぁ…いきなりキッツイ奴じゃん。」

 マギリカはうへぇと嫌そうな顔をしている。

 ドラセナ大陸は乾燥していて温度も高い乾燥地帯である。

 又、そんなドラセナ大陸は竜人族が多く生息しており、"聖竜騎士団"という謂わばシロツメ大陸で言う勇者騎士団のような存在が活躍している。聖竜騎士団は竜人族のみが所属しており、彼らにとっては憧れの存在だ。


 「あっちへ行けば水も貴重になるであろうから、水も用意しておる。」

 屋敷にある水筒などの入れ物をかき集め、水を入れた物をヴラムが魔法で凍らせた。

 これで暫くは持つだろう。


 「よし!準備万端だね!皆んな行こう!」

 エーデルがそう宣言する。一行は早速ヴラムの屋敷の敷地から出て、ヴラムが魔法を掛け終わるのを待ち、終わると早速旅を再開した。




 一方、勇者騎士団内

 アルスの執務室にてコンコンとノックの音が聞こえた。アルスはどうぞと返事した。

 「失礼する。」

 入ってきたのは銀髪に目つきの鋭い、中々渋い顔立ちの中年の男性である。背丈はアルスと同じくらいか少し上である。

 着ている鎧に彫られたシンボルは六つの菱形で構成された花の形をしている。

 勇者騎士団団長の"ジークハルト・エヴァンス"である。

 

 その隣にはチョビ髭を生やしている胡散臭い顔をした中年男性。体型は肥満体型であり、背丈はゴローやハチより高いものの、ヴラムやマギリカよりも低いぐらいである。

 彼のシンボルは五つの菱形で花の形をしている。彼は勇者騎士団副団長の"マルク・グレモリア"である。


 アルス的にはジークハルトはまだ、実力で成り上がった為尊敬はできるがマルクの場合は、金に物を言わせてここまで成り上がった為あまり好きでない。

 「これはこれは…団長に副団長。どうかなさいましたか?」

 しかしそんな事を顔に出さずにアルスは爽やかな笑顔で二人を招き入れた。


 そして早速入るとおっほんとわざとらしく咳払いをするマルク。

 「アルス・ホワイト。貴様騎士団協力要請権を発動したそうだな?」

 「えぇ。それがどうかなさいましたか?これは騎士団で行使できる正当な権利ですよね?」

 そう言い返すとマルクは不機嫌そうな顔をして怒鳴り始めた。


 「その言い方は何だ!私は副団長なのだ!口答えせずに黙って相槌を打てばいいだろうが!」

 という何とも言えない言い分にアルスはため息を吐きながら

 「これは失礼いたしました。副団長殿。所でご用とはなんでしょうか?」

 なおも文句を言おうとするマルクにジークハルトは手で制した。


 「話というのは何故ここでそれを発動した。報告にあがった被害はシラユリの町とクロユリの森のみだろ。それなのに何故こんな命令を一般人に下したのだ。」

 ジークハルトは一枚の紙を取り出した。それは報告書である。隊長や副隊長、副団長クラスは一般人に協力要請をする場合は団長に、誰を指名しどんなことを要請したかを報告せねばならない。


 「それも…普通なら団長に見せて許可を貰った後に向かわせるのが普通だろうが!なのにそんな事も庶民どもに説明しなかったのか!」

 マルクは一般人をとにかく庶民だの平民だのといって見下す傾向がある。もしも今にも死にそうな平民と擦り傷程度の金持ちがいて同時に助けを呼んだら、真っ先に金持ちの方に行くような男。

 それがアルスから見たマルクの評価である。


 しかしマルクの言い分も最もである。手順を無視したこのやり方。

 しかしアルスは

 「承知しております。しかしこれは一刻を荒そう可能性のある事案だと僕は考えております。今回僕達が採取した謎の花は各大陸に散らばっています。

 それに加えて今回のような一般人への被害や散らばっていた行方不明の勇者達の屍。事件性は確実にあります。

 もしこの事件に花が関わっているのならばこれは世界規模の事件となるでしょう。謎の薬の存在もある。今は検査の最中ですが、もし麻薬の類ならば麻薬密売グループの取り締まりもかなり強化されるでしょう。下手したら一斉摘発もできます。

 故に僕は今回早めの行動が肝心だと考え信頼できる方々に協力を要請したのです。

 勝手な事をしたのは申し訳ありませんでした。思うような結果が出なければ僕は責任を取るつもりです。」


 そう言ってアルスは深々と頭を下げる。マルクは歯を噛み締めて顔を真っ赤にして怒っている。血管も切れそうだ。一方のジークハルトは冷静に

 「分かった。それに君の働きぶりは優秀であることは私も知っている。しかし私の目を通さずに一般人を勝手に任務に向かわせたのだ。

 もし万が一その者達に被害が被り死亡した場合。君には責任を負ってもらうことになる。」

 「承知しております。」

 

 ジークハルトはアルスと会話を終えると部屋を出ていく。その後ろをまるで金魚の糞のようについていくマルク。

 「エヴァンス団長!何故あの若造の言い分を受け入れるのですか!聞いた所ではあの若造は貴方様のポジションを狙っているとか!」

 するとジークハルトはピタッと歩みを止めて振り返りじっとマルクを見る。


 「貴様はどうなのだ?」

 その言葉にビクッと肩を揺らすマルク。

 「め…滅相もありません!エヴァンス団長!貴方こそが団長に相応しい。」

 途端に胡麻刷りを始めたマルクにジークハルトは冷めた目で

 「私はこれから退く身だ。これからの時代を担う若者に道を譲るのも当然の義務。寧ろそこまでの野心を持ち、道を奪おうとするぐらいの気概がある方が面白いだろ?」

 マルクはその言葉にポカーンとしていた。ジークハルトはそんなマルクを放置してさっさと行ってしまった。


 マルクはそんなジークハルトの背中を見て、青筋を浮かべて蛸のように顔を真っ赤にしていた。

 「ジークハルトめ!調子に乗ってられるのは今のうちだ!この私こそが騎士団の頂点にして勇者の頂点にいるべき男! 

 いつかアイツの地位も諸共奪い取ってやる!」

 マルクはイライラしながらガニ股で自身の執務室へと歩いていった。

 

  

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