第27話 時の流れ

 「ふーさっぱりしたぁ…」

 エーデル達は食事を済ませてお風呂に入って後は明日に備えて寝るだけである。エーデルはマギリカとお風呂に入った。

 「ねぇ♡ふー明日からまた出発だもの。しっかり休みましょうね♡」

 マギリカはお肌をペタペタと時間を掛けてケアしている。


 エーデルはそんなマギリカに返事しながらお風呂での光景を思い出した。

 マギリカの肉感的な体。ダイナマイトボディ。ボンキュボン。グラマラス。

 そんな言葉がエーデルの頭の中をぐるぐると動き回っている。

 およそ1000歳越えなど信じられない。


 エーデルはマギリカと比べて体の凹凸は少なくスラッとしている。胸もあるにはあるが平均より小さい。エーデルはマギリカの方を見つめながら自身の胸を触っている。するとマギリカがエーデルの方を振り向いた。


 エーデルは驚きながらもすぐに手を胸から離した。

 「さてと…ねぇエーデルちゃん!少しお話ししない?それか私の昔話でも聞く?」

 「昔話ですか?」

 エーデルが首を傾げるとマギリカはニコッと微笑みながらエーデルに向き直る。


 「そ!前に話した勇者様と私と残り二人の旅の思い出。」

 「あのヴラムと似てる勇者のお話ですか?少し興味あります。」

 エーデルはコクコクとうなづいてマギリカの方を見つめる。


 「じゃあ話すわね?私は元々魔女の集落。"ブルーサル"に暮らしてたの。あ!ブルーサルはバーベナ大陸にある集落よ?」

 「へぇ…魔女の集落ってバーベナにあったんだぁ…」

 魔女の住む集落の場所。それを知るものは限られている。エーデルも初めて知った事である。


 「そ!それでね?私小さな集落での生活に飽きてきたのよ〜。勿論魔女って色々あって隠れて住んでる訳じゃない?

 でもあそこお洒落な店もないしさぁ…いつか此処から出たいなんてずっと思ってたわ。」

 魔女…人間に似た見た目をしているが紋章を持たず唯一無属性の魔法が使える種族。しかも寿命が長い。


 そんな彼女達を取り巻く環境は今は改善はされたが、昔は酷かったという。

 ほぼ不老不死、身体能力も絶望的な彼女達は人攫いに会っていた。此処まではエルフとほぼ同じである。

 その上に彼女らは女性しかいない。そして明確な弱点である強すぎる又は多過ぎる魔力への耐性の低さ。


 これを利用して捕まった魔女もいる。その上で魔法を使えないように魔力封じの拘束具をつけられて仕舞えば絶望的。

 逃げられるような身体能力も持たないただの非力な女になる。しかも歳を取らない女。

 金持ち達の慰み者になる事や、売春婦として売られてしまうなんて事が良くあった。

 下手したらエルフよりも捕まりやすい可能性すらあるのだ。


 故に魔女達は自身の棲家に人を招くのを嫌い、自分たちが出ていくのも嫌う。マギリカみたいな考え方の者はかなり変わっている。

 そして同胞達のされた屈辱などから魔女達は余所者を嫌うし恐れている。その価値観は今も尾を引いている。


 マギリカはそんな集落の空気が合わなかった。集落でも変わり者として扱われて一人でいる事が多かった。

 「けどね?そんな時に二人の旅人が訪れたの。勇者の男の子と魔族の女の子。

 男の子の名前は"エレン"、女の子の名前は"ロゼリア"皆んなはロゼって呼んでたけど。」

 「え!?」

 エーデルは目を見開いて固まった。ロゼリア…それはハチに聞いた女性である。するとそんなエーデルにマギリカはキョトンとしている。


 「どうしたの?」

 「な…何でもないですよ?続きお願いします!」

 エーデルは気になって続きをせがむ。マギリカは不思議そうだが続きを話した。

 「それでねこの二人の旅人。何で旅してたと思う?"世界を見るために旅してる"ですって!

 ほらぁ魔女のいる場所にくるってもっとやばい理由だと思うじゃない?私ちょっとびっくりしたもの…」

 マギリカは肩を窄めてやれやれというポーズを取る。


 「まぁ何だかんだ色々あって私もついていくことにした訳!だって面白そうだし私も世界を見てみたいと思ったのよ?

 その辺はロゼと話が合ったわぁ♡その旅を発足したのもロゼのお願いからですって。」

 「…ロゼリアさんってどんな人ですか?」


 エーデルはまたも出てきたロゼリアの名が気になってる様子。

 「あらぁ?てっきりエレンの事聞くと思ってたわ。んとね?ロゼは魔族でも少し変わってる子だったわ。」

 「変わってる?」

 「うん。ロゼの得意魔法は氷の魔法なの。けどねぇ…あの子氷への耐性?どうも無かったみたいで…」

 

 使える魔法属性。それは人によって違うし一種類が原則。魔法を操れば自分が使える属性と同じ属性を持つ自然物を操る事ができる。

 例えば水属性の魔法が使える人は自然界に普通に湧いてる水さえも操る事が可能なのだ。


 その関係もあってか使える属性の物に対して基本的に耐性を持ってるものなのだ。

 火属性の者が火が熱くて操れないなんて事は普通はありえない。

 そう普通はありえないのだ。だがロゼは違う。


 「あの子魔法は強いのよ?けど使うと本人が凍傷を負ったりとか凍えて体調崩すとか絶対あるのよ?勿論魔法関係なく冷たい物や寒い場所も苦手。」

 例としてヴラムもロゼと同属性の魔法使い。だが彼は自身の発した冷気は勿論。あの不気味な花の保管庫の中も平気であった。


 「だからエレンや私、んで後で加入した外道丸…あ!外道丸は鬼人の男の人ね?

 できるだけロゼに魔法を使わせないようにしてたわ…」

 そう言うとマギリカは少し沈んだ顔になった。何となくその顔を見たエーデルはマギリカに


 「マギリカさん?明日も早いし今日は寝ちゃいましょう。話してくれてありがとうございます。」

 微笑みながら話の中断を申し出た。

 「それもそっか…ごめんね?私の方から話した事なのに。でもね?私がこの四人で旅した経験は宝物なのよ。キラキラしていて…1000年以上生きてて、その中の短い時間なのに濃密で輝いて、だからエーデルちゃんにも教えたかったの。」

 マギリカは優しげな何処か懐かしむような微笑みを浮かべて告げる。


 エーデルはそんな彼女を見ながら

 「マギリカさん?また聞かせて下さい。私もっと聞きたいんです!マギリカさんの素敵な思い出を…」

 「…うん!ありがとうねエーデルちゃん!約束よ♡」

 そう言って師弟は小指を絡めて約束を交わした。


 

 

 因みに男性陣。

 「うるさ…」

 シュリは騒音に悩まされていた。部屋があまりない為、ハチがシュリの部屋でお世話になっている。シュリは客であるハチをベッドで寝かせて自分はソファで寝ていた。が、


 そのハチが寝ながらゴロゴロと喉を鳴らしているのである。実はこの騒音は初めてではない。宿屋に泊まった時もヴラムも悩まされていたものである。だがこれはネコ科の獣人にはよくある事だし寝てる間の出来事なので止めようにも止められない。


 一応最初以降は耳栓を常備していた。がシュリは朝ごはんも作る気満々な為目覚まし時計を掛けていた。

 万が一音が聞こえないと周りの人特に敬愛するヴラムの食事時間が遅れてしまう。


 なので耳栓をせずに寝ようとしたのが失敗してしまった。シュリは意を決して部屋から離れた。



 


 その頃のヴラムは夜中外に出て空を眺めていた。空はヴラムの作り出した氷の壁を隔てられているが星がキラキラ輝いているのがよく見える。

 昔からよく眺めていた。200年ずっと見続ける星空は変わりない。けれどやはり一番美しい瞬間は隣にいた大切な存在と見たあの夜空。

 ヴラムは暫し静かに眺めた後に自身の屋敷に戻る。


 そして部屋に戻る途中。

 「ん?」

 何やらリビングのソファで寝てる者がいた。シュリである。シュリはソファで大きな体を縮こませてスースー寝てる。

 ヴラムはおおよその状況を察した様子で一度自分の部屋に行き、閉まっていた毛布を出してきてシュリの元へ向かう。


 そしてシュリの体に毛布を掛ける。ヴラムの力では自身より体格の良いシュリを運ぶのは難しい。何よりシュリの事だ。ヴラムに無理させたとなると切腹するかもしれない。

 大体途中で起きるだろう。仕方ないが今夜はここで寝てもらおう。

 そう考えてヴラムはシュリの寝顔を少しの間眺めてその髪の毛を優しく撫でる。


 するとシュリも穏やかな表情になった。思えば小さい幼いシュリが疲れてこんな風に寝ていると、ヴラムはそんなシュリを静かに抱っこしたりおんぶして部屋に連れて行った事もある。

 しかし今はそんな事が出来ないほどシュリは成長した。

 ヴラムは若干の寂しさを抱えながらも目の前にいる息子のような存在を愛しそうに見つめていた。




 因みに翌朝、何故かハチはヴラムに始終狸呼ばわりされたり、冷たくした手で触られたりと微妙に嫌な嫌がらせを受けたりしていた。

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