第26話 家=宝箱
一方エーデル達は
「バラ園に…誰かのお墓…」
シュリがある程度の裏庭の説明を行った。沢山の薔薇が咲いていてその中心には誰かの墓。
名前は確かロゼリアと彫られていたと。エーデルが特に気になったのはそのお墓である。
「ロゼリアって女の人の名前よね…」
もし仮にその女性の墓がある場所だから入れさせたくないというのなら、ロゼリアという女性はヴラムにとって余程大切な存在なのであろう。大切だからこそ宝箱に隠して、誰にも盗まれたくない。傷つけたくない。
だからヴラムは誰かが家に入るのを拒むのだろう。もしかしたら例の部屋もロゼリアの部屋の可能性もある。
ヴラムとロゼリアは一体どんな関係なのだろうか?一緒に暮らしてたということか?親子?兄妹?…いやもしかしたら…
エーデルはそこまで考えたが何故かその先の関係を想像したら胸がズキンと傷んだ。
エーデルは首を傾げながら自身の胸を抑えた。
「成程にゃん。…吾輩の予想はほぼ確信的にゃんね。ロゼちゃんが関わってるのなら納得にゃん。」
ハチの言葉にエーデルとシュリは驚いていた。
「ハチ!知っているのか?ロゼリアという名前を!」
「というかロゼって?」
質問責めを行おうとする二人をまー待てと肉球を突き出して抑えるハチ。コホンと咳払いして静かに話し始める。
「ロゼリアちゃん。確かに名前はそうにゃん。けど周囲の人はあの子をロゼって呼んでて、吾輩もそう呼んでたのにゃん。」
「あぁあだ名なんだね。」
「それで!その女性は一体何者だ!ヴラム様とはどんな関係だったんだ。」
「それは…」
ハチが続きを語ろうとするとガチャリと音を立てて部屋の扉が開いた。
3人が扉を見るとブスッとした顔のヴラムが立っている。暫し沈黙が流れるがヴラムはスタスタと早歩きで3人に近づき、向き直る。
「…かった…」
「え?」
何やら腕を組んで顔を俯かせながらボソッと喋るヴラム。聞き返すエーデル。するとヴラムが顔をバッと上げてヤケクソ気味に
「悪かったと言ったのだ!あんな態度取って悪かった!」
ほぼキレ気味ながら普段のヴラムが言いそうにない言葉。3人はポカーンとしている。また流れる沈黙。
「おい…何か言ったらどうだ。人が謝ってるというに…」
「いや…ごめん…正直謝るようなキャラじゃないと思ってたから。」
エーデルは正直な感想を述べた。そして同時にマギリカが何か言ったのだろうか?とマギリカのヴラムの扱いの上手さに舌を撒きそうである。
「まぁまぁ仕方ないにゃん。ヴラムだって大切なものがある。それに触れて欲しくない。それだけの事にゃん。」
「…貴様まさか勘づいてるのか?」
「そりゃあ君が此処まで大切にしてる存在とにゃると…200年前よりグレードアップしてる気がするけど」
「五月蝿いわ。化け狸め」
「…その口の悪さ本当に治すにゃん。誰が狸にゃん!吾輩は猫!というか狸はイヌ科にゃん!全然違うし!寧ろ対極ニャン!」
プンスカ怒り出すハチ。
シュリは調子が戻ったヴラムに安心したみたいだ。
「ヴラム様。俺は夕食を作って参ります。」
「ああ…」
シュリは荷物を置いてキッチンの方へと歩いて行った。
「ねえヴラム?」
「あ?」
エーデルはヴラムの頬をギュッと掴んだ。
「ひゃひほふふ(何をする!)」
「200年前とか私生まれてないし!知らないわよ!なのに何なのあの態度!まさか私がアンタの大切なもんぶっ壊す奴だとでも思ってた?
それともズカズカ人の部屋とか入りまくる奴だと思ってた?
いずれにせよ私はそこまで非常識じゃない!」
エーデルはヴラムの頬を掴んで怒りを露わにしている。ヴラムはうっと少し沈んだ顔をしている。だがエーデルが頬をぱっと離した。
「だからさ?言葉でちゃんと伝えてよ。アンタが嫌な事は私はしない。アンタがして欲しい事なら可能な限り叶えたげる。
言葉にしてくれないと伝わんない事もあるの。何も言わないであんな態度取られたら誰だって傷つくよ?」
エーデルの言葉に黙って耳を傾けるヴラム。
ヴラムに取っては耳に痛い話しだ。だって言葉にしなかった事が後々で酷い後悔へと繋がるのはヴラムは身を持って体験している。
なのに愚かにも同じようなことをしてしまった。ヴラムはそれを自覚してエーデルの言葉を何も言わずに聞いている。
「私だって傷ついたよ?」
「悪かった…」
ヴラムは再度謝る。するとエーデルはスッと静かに微笑み
「…私も怒りすぎた。ごめんね?だから教えて?ヴラムがして欲しくない事とか、こうして欲しいとかさ。ねぇ?何をして欲しくないの?」
「…裏庭と二階にある青薔薇の模様の扉の部屋。…入らないで欲しい…」
エーデルの言葉にヴラムがそうボソッと言うとエーデルはうんうんとしっかり聞き、
「了解!その二箇所には入らないから安心して!」
エーデルはにっと笑いながら敬礼のようなポーズを取る。ヴラムはそんな彼女にふっと優しく微笑んだ。
その途端何故かエーデルの痛んでた胸がキュンとなり顔が熱くなった。前もヴラムの控えめな本当の笑顔を見た時にそんな感覚に襲われたが今回のはその倍くらいにドキドキし始めた。
「何を見ておる?」
「な…何でもない!」
エーデルは慌ててそう返した。するとハチが
「…にゃんかデジャビュを感じるにゃんね」
そう呟きながら、待ってる間にシュリが入れてくれた紅茶をクイっと飲む。
その後マギリカも戻ってきた。
「良かったぁ…ヴラム元に戻ったんだ。」
ヴラムがエーデルと何やら戯れついていてそれを静かに見守るハチの様子にマギリカは安心していた。
「あ!マギリカさん!」
エーデルが目を輝やかせてマギリカの元へ駆け寄る。
「エーデルちゃん!大丈夫?ヴラムに虐められなかった?」
「人聞き悪い事いうな!」
マギリカの言い分にヴラムが目を釣り上げて怒り出す。ハチはそんなヴラムの背中を肉球でポンポンと撫でる。
「反省してるならよし!いい?不器用とか何とか言って酷い態度取るのはただの言い訳よ?
そんな言葉で自分の態度を正当化なんて出来ないしそれが許されるような年でもないでしょ?」
マギリカの言葉にヴラムも返そうとする。しかし口から出そうになったワードが禁止ワードの為すぐに口を抑えてそれを堰き止めた。
ちなみに"貴様に言われとうないわ!クソババア!"と言いそうになっていた。
だが言えばピーをピーされるので顔を青くして口を抑えた。そのヴラムを見てマギリカはニコッと微笑みかけ。
「あら?悪態を我慢したのかしら?よく出来ました!今度は我慢とかしないで自然に言わないように努力する事!分かった?」
「むむ…」
ヴラムがマギリカを睨むがマギリカはそれをスルーした。
「ご飯できましたよ!」
夕食を作り終わったシュリが部屋に入ってきた。羽織りを脱いで着物を襷掛けしており、黒いエプロンを着けている。
その両手で大きなお盆を持っている。乗っているのはお肉たっぷりのクリームシチューに、カットされたバゲット。瑞々しい野菜のサラダである。
「うわぁ!美味しそう!」
「お肉も沢山入ってるにゃん!」
エーデルとハチは目を輝かせている。マギリカは感慨深そうに
「シュリったら料理も出来るようになったのね?イケメンに育って料理も出来るなんて…後はこれで女性慣れとヴラコンを卒業できれば恋人の一人や二人出来そうなのに…」
と感心してた顔から、悩ましげな顔で頭に手を置いている。
シュリは料理を置きながら首を傾げるがヴラムに気にする事ではないと言われてニコニコしながら気にせずに料理を置く。
恐らく親が過保護なのも良くないのであろう。
料理が全て置かれた後にシュリの勧めで全員席に座る。早速いただきますと手を合わせて料理に手をつける。シチューを口に入れたエーデルはん〜♡と声を上げながら頬を抑える。
「美味しい〜♡何これ!というかこのお肉何?今まで食べたお肉の何倍も美味しい!」
シチューはまろやかなミルクのコクや溶け出した野菜の甘みもそうだが、特にお肉の存在感が際立っていた。
「ああ。あの仕留めたキングボアの肉を入れさせてもらった。」
「え!?」
それはエーデル達が最初に出会った魔物。シュリが討伐しヴラムが捌いたあのキングボアだ。
「キングボアってこんなに美味しいんだ♡初めて食べたよ。市場に並んでるの凄い高いもん。」
キングボアは確かに美味。お肉もとろけて肉汁もジューシーで肉の甘みがある。繊維も柔らかく噛みやすい。しかしその美味しさと討伐の難しさから高値で取引される。食べるのは上流階級ぐらいだ。
エーデルも一般庶民なので食べたことはない。
「へぇ…エーデルちゃん達も冒険してるのね?ねぇねぇ!私にも教えてよ!」
「吾輩も聞きたいのにゃ。君達3人の話し。」
マギリカとハチも興味津々である。エーデルはそんな二人に今までの事を語った。
「賑やかなのも偶にはいいですね。ヴラム様。」
「ふん。五月蝿いだけであろう?」
シュリは穏やかな顔でお喋りする3人を眺める。ヴラムは悪態を吐きつつも口元には笑みを浮かべながらシュリの手作りご飯に舌鼓を打った。
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