第1話 出会い

 少年はやっと見つけた憩いの空間でゆっくり流れる時間を堪能した。サーっと流れる風が少年の長い髪を靡かせる。

 「良いものだな…やはり五月蝿い所は好かぬ…む?」

 何やら遠くの方でギャイギャイと話している男女の声。その声は少しずつ少年に接近している。

 

 少年は舌打ちした。しかしよく聞くと男の声はよく見知った人物の声であり、話す内容や話し方から正体がわかってしまった。

 途端に嫌な顔というよりも面倒臭そうな顔になった。


 「だから…もう良いってば…てか別れて探そうよ。見た目の特徴と種族をシンプルに教えてくれれば探すからさぁ?」

 「いんや!あの方の赤き瞳はまるでルビーの様に輝いていて白い肌は新雪の如く美しさを誇る!まだまだあるぞ!

 あの方をもっと理解してくれ!俺は語りたいんだ!」

 「あー!うざい!」


 なにやら言い争う鬼人族の青年と人間の少女。

 「そこで何をしているのだ。シュリ。」

 少年は両腕を胸の前で組み仁王立ちする。その顔は呆れ顔である。そしてそんな少年に目を向けたシュリとエーデル。


 途端にシュリはパーっと笑顔になり、エーデルは少しゲッという顔をしている。

 「ヴラム様ぁぁぁぁぁ♡」

 シュリはまるで大好きな飼い主に尻尾を振る犬の如くヴラムと呼ばれた少年に駆け寄った。


 「どこにおられたのですかぁ!探しましたよ!」

 「あぁ!五月蝿い!距離感考えんか!馬鹿者めが!」

 シュリは興奮のあまりヴラムに詰め寄り大声である。ヴラムは耳に手を当てて顰めっ面である。


 「えーと。シュリさん?この人がヴラムさん?」

 「その通り!見よ!この素晴らしきご尊顔!」

 ヴラムは恍惚の表情で語るシュリの首の後ろに手刀を打ち込む。するとシュリはガクンと倒れた。


 「ちっどうせまた俺に関する気持ち悪い自慢話でもしておったのだろう?」

 「うわぁ…」

 「何だ小娘?なんか文句あるのか?」

 「いやないけど…えぇ嘘でしょ?アンタが本当にヴラムさん?」

 「そうだが?一応言っておくがこいつの話を鵜呑みにせん事だな。こいつは俺に妙なフィルターをつけているからな。

 …ふん。悪かったな?ご期待に添えなかった様で」


 そう言うとヴラムは倒れたシュリを担ごうとする。するとエーデルも放って置けないのか片方の腕を持ち共に担ごうとする。

 「おい何のつもりだ。」

 「アンタの為じゃないわよ?一応シュリさんは私の知り合いだし。ほらほら!ちゃっちゃと運ぶよ!」

 「ち…変な女だな…」


 ヴラムとエーデルは二人でシュリの腕を肩に回して運ぶ。何せ180センチ越えの長身。その上に鬼人の性質上筋肉質な為、体重が重いのである。幾ら男性のヴラムとはいえ体格は細身なのだ。一人で持つのは至難の業である。


 重いので近場のベンチにどさりと置く。白目を剥いてる。美青年が台無しだ。

 「いやさぁ…いいの?気絶させて…」

 「ふん…しなければ丸一日は語るのだ。俺も自分に関する的外れな感想など聞きたくもない。」


 吐き捨てるように言うヴラム。エーデルは二人の関係性に何ともいえない顔をしている。

 「まぁ…良いんだけど…あ!そうだ!私の名前はエーデル・ホワイト!よろしくね?」

 「興味ないな?まぁ気が向いたら覚えておこう。」

 明るく話すエーデルにハンと嫌味な笑みを浮かべるヴラム。エーデルは少しイラッとした。


 「んもお!何よその言い方!ほーら!アンタも自己紹介!」

 「いやだ。」

 「こっちが自己紹介したんだから返すのが筋でしょ!?」

 「面倒くさい。名前など記号みたいなものであろう?名乗るなど無駄でしかあるまい…っててて!ひひゃま(貴様)!ひっはるへなひ(ひっぱるでない)!」

 エーデルはヴラムの両頬をぐにーっと引っ張る。美少年が台無しである。


 「いーやー!言い方がムカつく!こうなったら意地でも自己紹介させてやるー!するまでほっぺたこのままだからね!」

 「ほ…ほほほふふふぇ(こ…この小娘)」

 「ふふふ!このままじゃあアンタのほっぺたびろーんってなるわよ?良いのかしら?」

 するとヴラムはぐぬぬぬと悔しそうな顔をする。そしてキレながらエーデルの手を力ずくで離す。


 「俺は"ヴラム・ツェペシュ"!これでよかろう!?」

 「うんうん!良い良い!最初から素直になりなさいよね!」

 「ちっ…ムカつく女だなぁ!」

 

 などと言い会う二人。すると

 「おい!うるせーぞ!イチャつくなら他でやれよ!」

 二人に向けて放たれた怒声。振り向くとそこには竜人族の男と狼系の獣人の男が立っている。

 「「誰がこいつとイチャつくか!!」」

 ヴラムとエーデルはお互いを指さして心外だと言わんばかりに文句をいう。


 「うるせー!こっちは賭けに負けてイライラしてんだよ!ってん?そっちの女なかなか良い女じゃん?」

 獣人族の男は舌舐めずりしてエーデルを見つめる。エーデルの背筋に冷や汗が流れた。するとヴラムがエーデルを背に隠すように前に出る。


 「おいおい。随分と趣味が悪いな?こんなじゃじゃ馬娘がいいとは…。まぁ仕方あるまい。何せ意味わからんイチャモン。いや?金をすったイライラをぶつけてくるような小物だもんなぁ?どうせどんな女に声を掛けても相手にされないのだろう?

 可哀想になぁ…」

 ヴラムはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。すると竜人と獣人は頭に血が上った。


 「んだとごらぁ!てめぇ喧嘩売ってんのか!」

 「ぶっ殺してやる!」

 すると竜人族の男が息を吸い口から炎を吐いた。


 竜人族は魔法を使えない代わりに臓器に火炎袋を持つ。これは吸った息を体内にて炎に変換させて吐いた息を炎に変える。他にも冷気に変換する冷感袋、電気に変換する電気袋などがある。

 魔法を使える種族に対する対抗処置として進化した末に出来た臓器である。


 炎がヴラムに向けて襲いかかる。が

 「"光のルクス・シルト"!」

 それは瞬時に前に出たエーデルが放った魔法により防がれた。

 「な!この女勇者か!?」


 「小娘。俺が相手する。下がれ」

 「うっさいなぁ…あっちは二人でしょ?アンタがどれだけ強いか知んないけど一緒に戦うわよ。」

 ヴラムはエーデルに命令口調で話すがエーデルはどこ吹く風である。そんなエーデルにため息を吐くヴラム。


 「はぁ…足を引っ張るなよ?小娘。」

 「小娘じゃなくてエーデル!それはこっちのセリフよ!」

 ヴラムとエーデルが並び立つ。


 「ち!おいお前はそっちの女狙え!」

 「了解!」

 すると竜人族はヴラムを獣人族はエーデルを狙い始めた。

 「焼け死ね!」

 「"凍結フリージア"」

 

 竜人族は再び炎のブレスを吐いた。それに対してヴラムは手を前に突き出した。すると手元に水色の魔法陣が現れる。そこから冷たい風が吹き、炎を凍らせていく。

 「な!炎が凍っていく!」

 すると物凄いスピードでブレスが冷たく凍っていきブレスの向かう方向と逆方向にパキパキと凍りついに竜人の口元にまで到達した。


 「くるな…くるなぁぁ!」

 パキパキと竜人の口から徐々に全身が凍っていく。口は塞がれてしまい炎が吐けなくなった。


 一方エーデル

 「ハァハァ…」

 「おいおい!でかい口吐く割バテてるなぁ?」

 エーデルは防御で一杯一杯である。そもそも攻撃魔法が苦手なのだ。防御と回復といったサポートは得意である。

 「うっさい!こっから巻き返す!」

 「へぇ?いつまでもつかねぇ?」


 すると獣人は素早い動きでエーデルに突撃する。獣人は人と似た体型で動物の顔と毛、そして身体能力を持つのである。その為人によって戦闘力はかなり違うのだ。


 「ちっ!」

 エーデルは両手を左右に広げた。すると地面に真っ白の魔法陣が現れてドーム状にエーデルを囲む光の盾が現れた。

 「しぶといなぁ!」

 そして獣人の方も余裕そうな口ぶりではあったがバテ始めている。


 「ふん…小娘どうやら手こずってるようだな…」

 「ハァハァ!ふふ!余裕よこんなの!すぐ倒してやる!」

 ヴラムに声を掛けられたエーデルはチラッとヴラムを見てにっと不敵な笑みを返す。


 「そろそろかしら…」

 バテてる様子の獣人。動きも鈍くなっていく、そしてとうとうヘロヘロになった時、エーデルはシールドを解除して獣人に掌を向ける。

 「"光爆弾ルーメン・インパクト"!」

 するとエーデルの掌に魔法陣が現れる。そこから白い光の粒が現れて獣人に襲いかかる。

 

 その光の粒のスピードは速くも遅くもないスピード。余裕のある状態なら簡単に躱せる速度だ。しかしヘロヘロの獣人は避けきれず、光の粒が体に当たった。その瞬間。


 ボガン!

 光の粒は眩い閃光を放ち爆発する。そして次々と襲いかかる光の粒がぶつかりまた爆発。それを繰り返していく。

 「ぎゃあああああ!」

 獣人はダメージを受けて叫ぶ。そして全ての光の粒が爆発すると獣人はどさりと倒れた。

 エーデルはヴラムの方を振り向きニカッと笑うと指でVサインを作る。


 ヴラムはフンと仏頂面だが口元はほのかに弧を描いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る