第2話 旅立ちの予感


 「は!」

 シュリは目を覚ました。そして起き上がりキョロキョロと周りを見渡す。するとそこにはヴラムとエーデル。そして凍ってる竜人と気絶してる獣人がいた。

 「何事ですか!」


 シュリはあまりの惨状に少しパニックになっていた。

 「ちっ起きたか…」

 「あ!目覚めたんだね?」

 面倒くさそうな顔をするヴラムとシュリが目を覚ました事に安心するエーデル。

 「えっとあの…これは一体?」

 「知らん!無視しろ!」

 「ヴラム様が仰るならば無視します!」

 シュリの問いに答えようとするエーデル。だがそれを遮ってヴラムがシュリに命令。シュリは嬉々としてそれを聞き入れた。


 「(それでいいのか…シュリさん…)あ!そうだ!ねぇねぇヴラム?」

 「あ?」

 エーデルはヴラムにどうしても聞きたいことがあった。


 「私の魔法。どう思った?」

 「は?何故俺に聞くのだ。」

 「お願い!客観的な感想を聞きたいのよ!」

 「なんで俺がんな事答えねばならんのだ。倒したワンコロにでも聞けばよかろう?ててててひゃめんひゃほひゅひゅふぇ!(やめんか小娘!)」


 またしてもエーデルはヴラムの頬を掴む。するとシュリは

 「何だと!何て羨ましい!ヴラム様の美しくもまろやかな頬に躊躇なく触れるだと!俺でさえ触れた事など寝てる間にツンツンする瞬間しかないというのに!」

 「ひゃへ!ひょへははふひひはひょ!(待て!それは初耳だぞ!)」

 シュリのカミングアウトにゾッと青くなるヴラム。鳥肌も立っている。


 「ほらほら?感想言ってくださいよぉ?ヴラムさぁん?」

 ニヤニヤとヴラムの頬をもちもちと触るエーデル。最早楽しんでいる。するとヴラムはまたもキレながらエーデルの手を離す。


 「防御は良いが!攻撃が遅い!」

 「もっと!もう一声!もっと詳しく!」

 「くそが!魔力量は◯!防御魔法の発動の総合力は◯!攻撃魔法の移動速度×!タイミングが掴みきれてない!相手を倒すのに時間がかかる!」

 「そう!そういうの!成程…やっぱり攻撃魔法なんだ。私の欠点!」

 「ちっ!満足したか!小娘!」

 「ヴラム様!俺にも頬を触らせて下さい!」

 「お前は少し静かにせんか!というか何の話をしておるのだ!」


 無理やりヴラムの評価を聞いたエーデルはふむふむと納得する。そして何故かシュリが横から口を挟み手をワキワキさせている。それに鳥肌を立たせてドン引きしながらツッコむヴラム。


 「ゴホン!兎に角もう良いであろう?俺は帰る!」

 「わぁ!待って待って!あのさ?さっきのバトルで思ったけどヴラムってもしかしてめっちゃ強い?」

 「ハァ?俺の話はいいだr「当たり前だ!ヴラム様は最強だ!」割って入るでないわ!」


 「だってさ?炎を凍らすレベルの冷気。しかも凍らすスピードもすごいし…」

 魔族は確かに魔力が強い。しかしその中でも恐らくトップレベルだ。エーデルは考えた。

 自分の攻撃魔法が遅いという欠点を治すために今目の前にいるお手本を参考にしたいと。


 「別にどうでもよかろう。んな話は。そもそもそんな事聞いて何か得するのか?」

 「うーんするかはよく分かんないけどさ?参考になると思って。」

 「参考?」


 エーデルはいそいそ自身の左手の甲をヴラムに見せる。そこには白いエーデルワイスが浮かんでいる。

 「私が勇者なのはバトルでわかるよね。実は私勇者騎士団の選抜試験落ちちゃってさ…」

 「は?あの攻撃魔法の実力でか?」

 「うう…でも練習はしまくったの!筆記も自己採点したら高得点!防御魔法と回復は得意だからいけると思ったのに…」


 しかしその認識が甘かった。実践試験では同じ受験者と戦わされる時があった。しかしそれがエーデルとの相性が悪かった。

 結果としては勝てた。粘り勝ちである。しかしイマイチアピールは出来なかった。


 実際に何か起きた時、どれだけ迅速に対応できるかも評価されるポイントである。その評価の仕方とエーデルの攻撃魔法はかなり相性が悪いのだ。

 するとエーデルはヴラムに向かって思いっきり頭を下げた。


 「お願いします!私を弟子にして下さい!」

 「やだ。」

 「お願いです!私どうしても勇者騎士団に入団したいの!」

 「やだ。」

 「おねg「やだ」」

 エーデルは何度もヴラムをお手本にする為に弟子にしてくれと頼むがヴラムはそれを嫌だと拒否する。何度も何度もそれは続く。


 それを見ていたシュリは

 「(く…ここでもしエーデルが弟子になったら俺の立場を危ういな…。ヴラム様もきっと俺よりも若い女の方がいいだろうし…)」

 ヴラムの従者として付き従うというシュリにとっての最高の名誉を奪われかねない。

 そしてもしそこから二人が恋愛関係にでもなれば邪魔者になり、自分はヴラムの元を去らなければならない可能性もありえる。


 「(いや、たとえヴラム様が如何なる女と結婚してもこのシュリ!一生お側で仕える所存!)」

 シュリの重すぎる心の独白にヴラムは何かを感じ取ったのか冷や汗を流して鳥肌を立たせている。

 するとシュリはある案が浮かんだ。エーデルの要求も解決できるしヴラムの従者としての立場も奪われない方法を。


 「でしたらエーデルを他の人に預けてはいかがですか?」

 そんなシュリの提案にヴラムとエーデルは疑問符を浮かべる。

 「そうですねぇ…例えばヴラム様の旧友であるマギリカ様とか如何ですか?」

 「一つ訂正だ。あのババアと俺は友人ではない。まぁだが実力は確かだ。ババアに任せるのもまた一興か…」

 ヴラムは顎に手を当ててそう語る。エーデルは突如出てきたマギリカという名前に反応した。


 「マギリカ?誰それ?」

 「マギリカは1500年以上生きる魔女族だ。」

 「魔女!?すごいねぇ。私魔女になんて会った事ないよ?」

 魔女族は個体数が少ない。魔女のみが暮らす集落に暮らしていて、見た目は人間と似ているが勇者と違って花の模様がなく、寿命が極端に長い。ほぼ不老不死。しかし何故か女性ばかりであり、子孫が増えにくく徐々に個体数が減少している。


 また常人なら視認できない魔力を見ることができ、微弱な魔力にも敏感な種族である。

 身体能力は人間より劣るものの魔力の強さはトップクラスであり魔法のスペシャリストである。


 「マギリカさんってどこにいるの?やっぱり魔女の集落?」

 「いやババアは確か違う場所にいる。この大陸にある森…"クロユリの森"で一人寂しく独身生活を満喫しているぞ?」

 「うわぁ言い方棘あるぅ…まぁそれだけ仲良いってことかな?」

 「仲良くない!」


 「まぁいい。ババアのいる場所は伝えた。後は自分で探せ」

 そう言ってサッサと歩こうとするヴラム。しかし後ろからマントを掴まれた。

 「待って待って!」

 「だぁぁあ!何だ今度は!」

 「お願いします!報酬は払うので一緒に来て下さい!」

 「ふざけるな!俺は行かん!」

 「そこを何とか!もしもマギリカさんに断れた時に私の師匠になって頂きたい!」

 「いーやーだー!離さんか!」


 「エーデル!辞めろ!」

 シュリがエーデルの手を離させる。

 「わ!」

 「全く!あまり我が主を困らせるな!ってうわぁ!すまん手を掴んで…お…女の手を掴んでしまった…」

 シュリはエーデルの腕を掴んだ後何故か謝りすぐに真っ赤になってしどろもどろになっている。


 「え?どしたの?」

 「アイツは女慣れしてないだけだ。」

 「へぇ…通りで…」

 確かに最初の会話からエーデルに対してやたら照れまくっていたが


 「で…ですがヴラム様?確かヴラム様にもマギリカ様からお手紙きてましたよね?」

 「な!貴様また俺の手紙を確認したのか!」

 「はい!我が主の為です!もし知らぬ女からのラブレターだったら!その口の悪さからもしかしたら不幸の手紙が送られる可能性も!」

 「シュリさんって本当にヴラムを尊敬してるんだよね?」

 意外にも主に厳しい評価をさらっと言ってのけるシュリ。エーデルの問いに


 「勿論だ!あとさん付けしなくていい!」

 と思いっきり肯定している。そしてその勢いで名前呼びを勧めてきた。興奮した彼は中々酷い。普段は女性に対してダウナー系コミュ障。

 しかし主に関する話題などで盛り上がるとアッパー系に早変わりである。


 「まぁでも話聞く限りヴラムもマギリカさんに会わなきゃいけないんじゃない?旅は道連れ!一緒に行こう!」

 「ちっ…シュリお前がいけ」

 「え!な…何言ってるんですか?ヴラム様に届いた手紙ですよ?ヴラム様自身が行かないとまた手紙を連続で送られて手紙の山ができますよ?

 あとヴラム様をお一人にして旅に出るなどできません!な…何より…じょ…女性とふ…二人旅なんてそんな…恥ずかしいじゃないですか!」


 「ち…」

 「はい決まり!宜しくねヴラム!」

 「ハァ…」

 ヴラムは諦めた様である。

 「勿論俺もついて行きますよ!」

 「そっか!鬼人族のシュリが来てくれるなら凄い安心だよ!私の事も女だと思わなくていいよ?こんな性格だし」

 「ひあ!い…いやそんな訳には!」

 シュリにもにこやかに話しかけるエーデル。しかしシュリは顔をトマトの様に真っ赤にしている。


 「どうなることやら…」

 ヴラムは深くため息をついた。

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