第4話 捻くれ魔族
3人が再度村を目指して歩くと先程ヴラムが助けた旅人がいた。
「あ!そこの魔族の方!先程はありがとうございました!」
「ふん…」
「んもぉヴラム!すみません。こいつ素直じゃなくて…」
「いえいえお気になさらず!」
旅人はヴラムを待っていた様子でありお礼を言いたかった様だ。しかしお礼を言われたヴラムはフンとそっぽを向く。
そんなヴラムをエーデルは嗜めた。
旅人は被っていたフードを取った。旅人は女性だった。耳は尖っている。しかしヴラムと違い彼女の瞳は優しい緑の瞳である。
どうやらエルフの女性らしい。髪は茶色であり後ろで三つ編みで纏めている。
見た目年齢はシュリと同じくらいで20代に見える。優しげな顔立ちの女性だ。
「私の名前はルーリエと申します。今は訳あって人を探しています。」
「人探しですか?しかもお一人で…あ!私の名前はエーデルと言います!んで…ほら!アンタらも挨拶!」
「ちっ…ヴラムだ…」
「お…お…俺はシュリ…」
不服そうなヴラムと照れまくって吃るシュリ。そんな二人にも女性はクスクスと微笑んでいる。
「んもぉ…でもルーリエさんってエルフ族ですよね?一人で旅するのは危険なのでは?」
「…確かに危険ですけど私はこの旅を続けねばならないのです。」
ルーリエは強い決心を込めた瞳でそう語る。
エルフは高い魔力を持つもののその身体能力は魔女と並んで低いのだ。
その上使える魔法は回復系とバフ系といったサポート系が主体だ。
エルフの凄いところはその知能の高さである。"エルフの民に知らぬものなし"とまで言われており、森の賢者の異名まである。
そんなエルフ達は戦闘力の低さとその優秀すぎる頭脳から誘拐されやすいのだ。
また、エルフは魔女や魔族等と同様に長命種である。こちらもほぼ不老不死。
その為、美しいエルフは狙われやすいし、子供エルフは洗脳などを施されて犯罪などに利用されるなんてこともある。
そんなエルフが一人で歩いているのだ。エーデルはかなり心配そうにルーリエを見つめる。
「あの!私達ウツギ村に行くんですけど一緒に行きますか?」
「ありがとうございます。けど大丈夫ですよ?それに向かう方向と逆方向ですし…それに心配なさらなくても一応攻撃魔法も使えます。
では私はこれで…」
エーデルがルーリエに一緒に来ないかと声をかけるがルーリエはそれを拒否してそそくさと去って行ってしまった。何処かこれ以上踏み込んで欲しくないような雰囲気を残して。
「大丈夫かな?ルーリエさん。」
「ハァ…他人より自分の心配したらどうなのだ?一応言っておくがさっきみたいに他人に下手に関わって助けたいなら勝手に助ければいい。だが俺達は先にババアの元へ向かう。
お前の独断の意見に付き合う謂れなど俺達にはないからな。」
「んな!」
ヴラムの冷たい言い方にエーデルはカチンと来た。しかし実際乗り気でないヴラムに無理やり同行させたのは自分なので言い返せない。
ぐぬぬと歯軋りするエーデルにヴラムはハッと馬鹿にする様に笑う。エーデルは心の中でヴラムの顔面に落書きする妄想して何とか気持ちを落ち着ける。取り敢えず心の中でヴラムの鼻の下にちょび髭を生やさせた。
そんなピリピリしてる二人にシュリは不安そうな顔で
「あのぉ?そろそろ行きませんか?」
「ちっ…」
「そうだね…」
3人は取り敢えずウツギ村を目指して歩く事にした。
暫く歩くと村が見えてきた。ウツギ村である。ヴラムとエーデルも少し落ち着いた様子だ。二人の板挟みになってたシュリも少しホッとした様子である。
取り敢えず3人はさっき狩ってきたキングボアの肉を店に売って換金する。中々の額で売れた為当面は困らなそうなぐらいである。
「でどうする?今日はここに泊まる?」
「ああ…日が沈んできている。野宿はごめんだな。」
「そうですね。では宿屋に行きましょう。取り敢えず二部屋空いてるか確認致しましょう。」
3人は宿屋を探して散策する。そして幾つかの宿屋を訪ねて漸く二つ部屋が空いてる宿屋を見つけた。
勿論部屋割りは男二人とエーデルで別れる。
3人は定食屋で夕食を食し後に宿屋に戻った。
早速部屋に入ったエーデルは背負ってきたリュックを床に置いてベッドにダイブした。
「あぁ…疲れたぁ…」
慣れない旅と昨日出会ったばかりの同行者。エーデルはぐったりしていた。
何より同行者二人と未だ馴染めてないのだ。
シュリは比較的穏やかだし話しかけやすいが緊張されてしまい中々話が進まない。ヴラムの話になるとこっちが辟易するぐらい語り出す。
そしてヴラムの方はシュリと違いエーデルには緊張した様子もないし、見た目年齢は同い年くらいの為、エーデル自身もそこまで緊張はしない。
しかし性格の癖がひどい。悪態ばかりつくし意地悪なことばかり言う。
「やっていけるのかな?私…」
エーデルは今後の旅が不安になっており一刻も早くマギリカに会いたいと願った。出来ればマギリカはとっつきやすい性格であって欲しいと願う。
エーデルは夜風に当たろうと部屋の窓を開ける。空は既に星が瞬き夜の帳が下りていた。
エーデルは窓から顔を出した。すると外にヴラムがいるのを発見する。
「何やってんだろ?いや待てよ?これはもう少し仲良くなるチャンスでは?」
エーデルは少しでもこの先旅を続けやすくする為に自分から行動を起こす事にした。
「ふぅ…」
ヴラムは村にある簡易的なベンチに腰掛けてぼーっと空を眺める。すると
「ヴーラームーくーん?」
「あ?」
突如後ろから声をかけられた。ヴラムが振り返るとそこにはエーデルがニヤニヤと悪戯っぽく笑ってる。それをヴラムは眉間に皺を寄せて見ている。
「隣いい?」
「やだっておい!勝手に座るでないわ!」
「いいじゃん!減るもんじゃないしさ?少しお喋りしようよ?ね?」
エーデルはにぱっと笑顔をヴラムに向ける。その笑顔はまるで太陽である。ヴラムは一瞬それを眩しそうに見ていた。
「…貴様は何故俺にそう言う態度が取れるのだ」
「そう言う態度?」
「大概は俺を見て虫の様にたかり媚びる奴や、俺の言動で離れる奴が殆どだ。何故貴様はそのどちらの態度も取らず俺に接する?」
「え?変かなぁ?てかそれシュリもじゃない?」
「アイツは特殊だからなぁ…」
ヴラムは遠い目をしている。
エーデルはうーんと唸った。
「そりゃあ。最初はアンタのこと性格クソ野郎の顔だけ野郎だと思ってたよ。」
「何だ?喧嘩売っとるのか?」
「まぁまぁ気になさんな!けどね?パン屋のおばさんが言ってたよ?アンタが子供の為に風船取ってくれたり困ってるお年寄り助けてたってさ!」
ヴラムは居心地悪そうな顔をしてる。
「あとね?ルーリエさんがボアに襲われそうになってるのに直ぐに気づいて助けてたでしょ?後はあの獣人と竜人のコンビに喧嘩売られた時!
あの時あの二人が私の事やな目で見てた時とか私を隠してくれたじゃない?
遅くなったけど、ありがと!ヴラムは本当は優しいんだね!」
エーデルはそう語る。するとヴラムはぷいとそっぽを向く。
「五月蝿い…俺は優しくなどない。眼科にでも行ったらどうだ。」
「うわぁ可愛くないな…ん?」
悪態を吐くヴラム。しかしその尖った耳は仄かに赤くなっている。照れている様だ。エーデルはニヤァと笑みを浮かべる。
「あはは!照れてるじゃん!可愛いとこあるね〜?ん〜?いて!」
するとヴラムがエーデルの頬を摘む。
「五月蝿い…早く寝ろ!」
「うう…女の子の顔に手を上げるのは最低だよ!馬鹿馬鹿!ヴラムのばーか!」
エーデルはヴラムにベーっと舌を出して退散した。そして宿屋の中に入って行った。
一方ヴラムは、
「変わってる奴ってやっぱりいるもんなんだな…」
ヴラムにとって変わってると思われる人はエーデルだけではない。過去にもエーデルと似た様な調子でヴラムに絡む人物がいた。
その人物の笑顔と先程のエーデルの太陽の様な笑顔が重なって見えた。
ヴラムはその考えを頭を振って消していき、自分がいない事に気づけば大騒ぎする鬼人の青年がいる部屋に戻って行った。
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