第5話 テンション乱高下鬼人


 チュンチュン…

 次の日の朝。エーデルはふわぁとあくびをしてベッドから起き上がり支度する。

 そして男二人の部屋にノックする。するとシュリがはいと返事した為入る。


 「おはよ。シュリ!わぁヴラムまだ寝てるの?」

 「え…エーデル!?さ…流石に女が男の部屋に入るのは良くないぞ!?」

 未だシュリはエーデルにしどろもどろだ。するとエーデルはため息を吐いてシュリの目をじっと見る。シュリはその視線にダラダラと冷や汗を流している。


 「私って怖い?」

 「え?」

 「いやまぁ…アンタが女慣れしてないのはアンタのご主人様に聞いてるけど…暫く一緒に行動するんだよ?少しぐらい仲良くしようよ。

 何も彼氏になれとか言ってる訳じゃないんだしさ?」


 エーデルはシュリにそう声をかける。流石に毎回緊張されるとこちらも少し悩んでしまう。

 意外にも潤滑油になってしまってるヴラム。時にはシュリから伝言をヴラムから伝えられる事もある。しかし毎回そうする訳にもいかない。

 例え、マギリカに弟子入りするまでの期間だったとしてもだ。


 「す…すまん…」

 「謝らないでいいよ?まず深呼吸して?」

 シュリは一旦エーデルの言う通りに深呼吸をして落ち着く。

 「少し落ち着いた…」

 「良かったぁ…んーまぁゆっくりでもいいけどね?私にも慣れてくれると嬉しいな?

 少なくとも私はシュリの事友達だと思ってるよ?」


 そうエーデルが優しく微笑むとシュリも釣られて少しフニャッと微笑む。

 「うん!いい顔だね!所で何で女の人が苦手なの?」

 「苦手…と言うか単純に女性と関わる機会が少なかったんだ。俺は物心つく前からヴラム様に拾われて育てられたからな。」

 「へー…え?シュリの方が年上じゃないの?私てっきりヴラムは貴族のお坊ちゃんでシュリは執事みたいなもんかと…」

 エーデルの予想では逆に幼いヴラムをシュリが使用人として育てていたと思っていた。

 見た目年齢はどう見てもシュリの方が上だ。


 「あの方はあの見た目だか実年齢は217歳だぞ。俺は21歳だ。俺が大体5歳?ぐらいにあの方に育てられたのだ。」

 「200!?いやでも魔族だしありえるか…」

 因みに魔族もほぼ不老不死でエルフや魔女と同じく長命である。


 「俺がまだ幼い頃。俺は人攫いにあっていたんだ。だがそんな俺をヴラム様が助けてくれたんだ。…俺は誘拐される前の記憶がない。

 だから家の場所もわからずに彷徨う俺に情けをかけて下さった。俺はあの方に恩を返したいのだ。」

 シュリはそう懐かしそうに語る。エーデルはそれを真剣な顔で聞いている。


 「はは。女性相手にここまで話せたのは初めてだな。」

 「良かった!私にも少し慣れた?」

 「ああ…まだ少し緊張するが遥かにマシになったありがとうエーデル。」

 「どういたしまして!ごめんね?踏み込んだ事まで話させちゃって(ヴラムのあの性格でよくこんな素直な子に育てられたなあ)」


 ヴラムはかなりの捻くれ者だが、シュリの方はそんな主と正反対に素直な性格だ。ヴラムに育てられたらそれはもう捻くれまくった生意気な子供に育ちそうなもんである。

 そう失礼な事を考えているとヴラムがあくびをして起き上がった。その目つきは座っておりかなり凶悪な顔になっている。


 「顔こわ…」

 「ヴラム様おはようございます!」

 「あ?」

 起きた主に晴れやかな笑顔を向けるシュリとは対照的に少しビビるエーデル。

 ヴラムは凶悪な顔で暫しボーッとしたが少ししたら立ち上がり顔を洗いに行った。


 「けど人攫いかぁ…ルーリエさん大丈夫かな?人探しならどんな人を探してるのか聞いとけばよかった…」

 「どうだろうな…けど少なくともエルフの森があるという"シラー大陸"からここは離れている。此処まで一人で来れたということはそれなりの手だれかもしれんぞ?」

 「そうだね…きっと大丈夫だよね?」

 エーデルは昨日出会ったエルフの女性。ルーリエを心配していた。それをシュリは安心させるように促す。それなりにエーデルに対して慣れてきた様だ。


 するとヴラムが凶悪な顔を元の美しい顔に戻して戻ってきた。

 「おい。支度できたなら行くぞ。」

 「いや一番起きるのも支度遅いのもアンタなんですけど?」




 3人は宿屋の食堂を利用して朝食を取る事にした。3人は料理を注文して待ってる間、思い思いに過ごしていた。

 エーデルとシュリはより慣れる為にお喋りに興じている。ヴラムは新聞を読んでいた。


 「ねぇねぇ?なんか面白いニュースある?」

 すると途中でエーデルがヴラムに話しかけてきた。するとヴラムは自分が読んでいた部分をを指さしてみせた。

 そこには"謎の連続勇者誘拐事件"とデカデカと書かれている。


 「勇者誘拐?」

 「ふん…勇者とあろうものが誘拐とはな?質が落ちたか…。それはまぁ良いが問題がこれが最近になってクロユリの森周辺で頻発し出している事だな。」

 ヴラムの言葉にエーデルは目を見開いた。クロユリの森は今3人がマギリカに会う為に向かってる場所である。


 「だ…大丈夫だよね?マギリカさん…」

 「ふん。あのババアは殺しても死なん女だ。まぁ誘拐犯とやらが本当にクロユリの森を根城にしているならば問いたださねばならんかもしれん。

 それと小娘。貴様も勇者なのだ。誘拐犯のターゲットになるやもしれんから、ゆめゆめ警戒を怠るでないぞ。自分の身は自分で守るんだな?」

 エーデルに対してヴラムはそう声をかける。言い方はきついもののエーデルは勇者だし、攫われてるのは勇者だというのだから警戒させようとしている。


 そんなヴラムの考えにエーデルは小さく微笑んでいる。

 「何を笑っている。」

 「ううん。ふふふ…心配してくれてありがとう。大丈夫だよ?警戒はちゃんとするしね?それに何だかんだでマギリカさんの事信用してるんだね。」

 そのエーデルの言葉にヴラムはうっと言葉を詰めている。顔は少し赤い。

 エーデルはヴラムを性格クソの口悪い顔だけ男ではなくただ素直になれないツンデレとして見る様になった。

 

 「ヴラム様!このシュリ感激いたしました!流石我が主!なんて…なんて慈悲深いのでしょうか!」

 「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので声のボリュームを下げてください。」

 「あ…すみません。」

 「「……」」

 シュリはそんなヴラムに対して何やら感動したのか涙を流して興奮している。しかし声がでかいので宿屋のスタッフに軽く注意された。

 ヴラムとエーデルは呆れた目でシュリを無言で見つめる。



 朝食を摂った3人は早速ウツギ村を出発する事にした。次の目的地は"ツクシ村"に設定した。

 ツクシ村はウツギよりも小さい村である。因みにこのまま行くとツクシ村の次がシラユリの町。そしてそのすぐ近くにクロユリの森が存在するのである。


 3人は地図を見てそれを確認していた。すると何やら愚痴を言い合ってるおばさんたちがいる。

 「ねぇ聞いた?ツクシの方で最近大暴れしてる魔獣がいるんですってよ?」

 「やだぁ最近物騒じゃない?あと私の主人が言ってたんですけどね?シラユリの町とクロユリの森が変な魔法で阻まれて入れなくなってるんですってよ?」

 「やだぁ怖いわぁ…」


 そんなご婦人方の会話。

 「今の聞いた?」

 「ハァ…女どもは何故こうも噂話が好きなのだ?しかし…これは少々めんどくさそうな予感がするな。」

 「お任せ下さい!このシュリ!ヴラム様のお手を煩わせないよう精進致しますよ!」

 「精々励め」

 「は!」

 「まぁ肝に銘じた方が良さそうよね。」


 覚悟して次の村を目指して歩き出した。

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