第6話 二人の勇者騎士
「因みにここからどれぐらいかかる?」
「さあ?一週間ぐらいじゃないのか?」
「適当じゃない?」
「ババアの元に行くなどかなり久しぶりだしな。」
3人は途中にある村。ツクシを目指して歩いている。
「ヴラム様?あれは…」
「む?」
「あれって勇者騎士団の団員じゃない?」
シュリが何かに気づいた。指さす方向を見ると鎧を纏った人間が二人いる。
その鎧は勇者騎士団のエンブレムが彫られている。騎士団のエンブレムは菱形を花の花弁のようにくっつけた形をしている。
その菱形の数が団員の階級を表している。今見つけた団員は二種類。シンプルに一個の菱形のみが掘られた鎧を纏う騎士見習いと、二つの菱形がくっついてる形で彫られている鎧を纏った一般隊員である。
どちらもまだ花の形に程遠い。
するとその団員の一人が3人に気づいて走ってきた。3人は思わず身構えた。
「何か用か。」
「そんなに身構えないでくれよ!俺達は勇者騎士団なんだぞ?」
話しかけてきたのは一般隊員である。ひょろっと細長い体型であり、鼻の下に長いサングラスのような形の髭が生えている。鼻は極端に長く目は三白眼。胡散臭い見た目である。
そして何故か鎧に小さく穴を開けてそこに薔薇を一輪挿している。支給品なのに良いのだろうか?
するとバタバタともう一人の騎士見習いの団員が走ってきた。
「先輩!待ってくださいよぉ!」
「おう!おっせーぞ!"コロ"!」
駆け寄ってきた騎士見習い。こちらは背が低くてコロコロと転がりそうな丸い体型の男性だ。恐らくシュリと同い年くらいだろう。
鼻は団子っ鼻でジト目であり何処か憎めない顔をしている。
「僕の名前は"ゴロー"です!犬みたいな呼び方しないで下さい!」
「ハッハッハッ!そうだそうだ!ゴローだったな!」
「もうしっかりして下さいよ!」
などと軽口を叩き合う二人。肝心の呼び止められた理由をなかなか言わないためヴラムは眉間の皺を深くして凶悪な顔だ。
「おい。俺達は急いでおるのだ。要件を早く言わんか!」
すると一般騎士の方がハッとした顔になる。
「いやな?此処から先のツクシで今魔獣が出現すると噂になってるんだよ。俺らは此処らをパトロールしてるっつー訳だ。」
すると一般隊員は何故か胸元の薔薇を出してエーデルの目の前に立った。
「美しいお嬢さん。私の名前は"ヒューベルト・ロックンハート"と申します。良ければ貴方のお名前を教えて頂きたいのですが」
何やらキメ顔でエーデルに話しかけてくる。なんならバックに薔薇の背景が見えそうだ。
ヴラムとシュリ、ゴローはそれを冷めた目で見ている。エーデルは戸惑いながら
「え…エーデルですけど…」
「嗚呼!エーデルさん!なんと可憐なお名前だ!これはきっと運命です!この出会いを祝福してこの薔薇を貴方に…」
「はぁ…」
すると薔薇をエーデルに持たせて手を握る。エーデルはどう反応すべきか悩んでいる。
すると
「ふん…女を口説く余裕があるとはな?随分暇なのだな。勇者騎士団というのは」
そうヴラムが嫌味を言ってズイッとエーデルとヒューベルトの間に割って入った。
「何とでも言え!お前らみたいな顔面持ってる奴にはわかんねーだろーよ!20代後半まで彼女いない歴=年齢の男の気持ちなんて!
なあ!ゴロー!」
「いやあの…僕一応彼女いますよ?今は遠距離だけど…ふふふ」
「こんの裏切り者がぁぁあ!」
ゴローのカミングアウトにヒューベルトは嫉妬を剥き出しにしている。そんな二人の会話を何とも言えない呆れた目で見つめる3人。
「兎も角だ!ツクシ村に近寄る時は気をつけろよ!…エーデルさん?ピンチの時は駆けつけますので…いや待てよ?
おい!ゴロー!俺達でエーデルさんをお守りするぞ!」
「「「「え?」」」」
まさかのヒューベルトの案に他の四人は口をポカーンと開けている。
「いやあの…大丈夫ですよ?」
「ふふふ!遠慮なさらないで下さい!よし!行くぞ!ゴロー!」
「いや本当来なくていい!俺達は3人だけで行く!」
「お前の意見は聞いてない!俺はエーデルさんのナイトとして行くのだ!」
エーデルとヴラムが拒否するが聞く耳持たないヒューベルト。しかしめげない。何が何でもついてくる気である。
エーデルには丁寧に接するがヴラムに対してぞんざいである。
「申し訳ありません。うちの上司が…」
「いえいえそんなお気になさらず、大変ですね。お疲れ様です」
ゴローとシュリはお互い穏やかな性格だからかはたまた癖のある人についているもの同士ゆえか意気投合している。
お互いぺこぺことお辞儀し合ってる。
ヒューベルトとゴローが一時的に仲間に加わった!
二人の同行者を加えて5人はツクシに到着した。此処までの道のりでもヒューベルトはエーデルにしつこく話しかけてきていた。
エーデルは苦笑いで対応しておりそれを見かねたのかヴラムも間にはいりヒューベルトの相手をしていた。お陰でたまに喧嘩しているが、エーデルは少なくともヴラムの存在に有り難く思っていた。
シュリはシュリでゴローと会話しており仲の良い友人になったが、時折起こるヴラムとヒューベルトの喧嘩に仲裁に入る。ゴローも同様である。
そんな喧しいパーティでツクシに到着する。
見ると外には人がおらずガランとしている。
「人が全然いませんね?」
「はい。皆んな魔獣を恐れて家から出てこないのですよ。まぁその方が安心なのですが…」
シュリの発言にゴローはそう答えた。よく見ると窓の向こうに人がいる。
「貴様らは騎士団員であろう?早く魔獣をとっちめたらどうなのだ?」
「ばっか言うなよ。魔獣が出現したのは此処最近だぞ?俺らが此処らのパトロール任務任されたのも昨日が初めてなんだよ!」
嫌味っぽく話すヴラムにヒューベルトは説明した。それにどうしても任務で危険な土地が重なると人の多い所が優先されがちだ。
ツクシは小さな村の為、あまり優先されにくいという欠点もある。
「あれ?アソコに男の子がいるよ?」
エーデルが指を指した方向に小さな獣人の少年がいた。その子はネズミの獣人のようである。
「あ!本当ですね!おいそこのガキんちょ!今すぐ家に戻れ!」
ヒューベルトが少年に注意すると、その声に気づいた少年が此方を見た。そしてヒューベルトとゴローの鎧を見て目を見開きすぐに駆け寄ってきた。そしてヒューベルトに抱きついた。
「んな!」
「お願いします!オイラの父ちゃんを助けて下さい!」
「父ちゃん?」
「お願いします!勇者様!お願いします!」
「いや…俺達は…」
少年は涙を流してヒューベルトに懇願する。ヒューベルトは困った顔である。すると
「私♡優しい男の人がタイプなんだよね♡」
エーデルがキュルンとぶりっ子のようなポーズと高いトーンの声でヒューベルトを見つめる。
すると
「坊や?良かったらお兄さんに話してみたまえ。」
「え…うん…」
「それでいいのか勇者騎士団…」
「本当に大丈夫なんだろうか…」
「先輩…」
無駄にキメ顔のヒューベルトに呆れ顔の他の男3人。エーデルは作戦が成功してほくそ笑んでいる。少年も引いていて涙も引っ込んだようだ。
5人は少年の家で事情を聞くことにした。どちらにしてもヒューベルトのやる気持続には、エーデルが必要になる。それは少年も察してか、エーデル達にもついてきて欲しいとお願いしてきた。
「オイラの名前は"スー"って言うんだ…実はオイラの父ちゃんが魔獣に…」
するとヒューベルトは
「まさか魔獣に殺されて…」
「ううん…違うよ。魔獣の正体はオイラの父ちゃんなんだよ!」
その告白に5人は目を見開いた。
「どう言う事だ!詳しく話してくれ!」
「うん実はね?4日前かな。夜だったんだけどオイラ物音がしたから目が覚めたんだ。
んで見ると父ちゃんが起きててそのまま家の外に出てっちゃったの!
オイラ気になって父ちゃんを追いかけて行ったんだ。そしたら父ちゃんの体が急に大きくなって目が赤くなったの!
オイラ怖くて…逃げちゃった…そしたら夜になるたびに父ちゃんが外に出て行って暴れるようになったんだ。父ちゃんも疲れてるみたいでオイラどうしたら…」
スーはグスグスと大泣きしてる。痛々しいその様子にヒューベルトは
「坊主…お前の父ちゃんはどこにいるんだ?」
「父ちゃんは今近くの畑にいるよ?お昼はいつもの優しい父ちゃんなんだ!ねぇ勇者様!オイラの父ちゃんは悪い人じゃないんだよ。
でも…でもこのままじゃ父ちゃんがいつか誰かを怪我させたりとか…こ…殺したりするんじゃと思うとオイラ…オイラ!」
「成程な。分かった!俺に任せろ!」
「ふえ?」
「俺達は勇者だ!困ってる奴を見過ごせる訳ねーだろ!」
にっと笑いヒューベルトグシャグシャとスーの頭を撫でた。
「ありがとう!おじちゃん!」
「おじちゃんじゃねえ!お兄ちゃんだ!」
他の四人はそんなヒューベルトとスーを穏やかに見つめている。ヴラムやシュリ、エーデルは見直していた。ゴローはそんな上司を尊敬の眼差しで見ている。
約束したヒューベルト達は一旦家を出た。スーには今回勇者騎士団が村に来てる事を内緒にして普段通りに父に接するようにお願いした。
「で?どうする気なのだ?」
ヴラムが質問する。すると
「恐らくだが狂魔獣症に発症してる。」
狂魔獣症とは獣人族に起こるレアな病気である。これは発症すると、急に人格が野生の魔物同様理性が効かなくなり、破壊衝動が強まってしまう。また細胞異常を起こしてしまい筋肉の異常発達や目が赤くなるといった外見的特徴がある。
そして徐々に細胞異常が更に酷くなり脳を侵されて徐々に元の人格は失われていく。脳と、急激な筋肉発達によって負荷が掛かっていた体は壊れていずれは死に至るのだ。
まだ4日しか経ってないのは不幸中の幸い。大体命が落とされるのは最大でも二ヶ月程である。
病気の症状が出るのは今回のスーの父のように夜のみといった決まった時間のみの者もいれば常に暴れる者もいる。時間制の者は暴れてた記憶がなくなる。
だから自覚症状がない。あるとしても謎の疲労感のみである。しかし放っておけば、暴れる時間は益々伸びてしまうのだ。
スーは父親に怯えてしまいなかなか言い出せないようである。
「何年か前にパンデミックが起こって獣人族の何人かが死んじまった例もある。あれからレアだったこの病気もみる確率が増えていやがる。」
「けどどうするんですか?この村の医者に見せてしまうとスーの父が村八分にされるかもしれないですよ?」
シュリはそう不安を上げた。村の人に恐怖を与えた。本人にその気が無くても周りが放ってくれるとは思えない。
「だから内緒で治すんだよ!そうだなぁ…」
ヒューベルトはもう一度スーの家に戻った後暫くして戻ってきた。
「やっぱり自覚症状がないからか薬がないな。予備の薬もない。同じ獣人族で持ってる奴がいるやもしれないな…」
「この村の獣人に聞くのはリスクが高いわよね?他の村の人とかいないかしら?あ!私一応回復魔法使えますよ?それで治せないでしょうか!」
エーデルがそう提案する。
「流石エーデルさん!天使のようなかわゆさを持ちつつ本当に天使みたいな魔法が使えるのですね!…ですが…回復魔法でこの病気を完全に治せた例がありません。
治せるのは天使族レベルの回復魔力持ちでしょうな…」
天使族は確かにトップレベルの回復魔力を持つ。だが彼らはプライドが高い上に地上に姿を現さない。まず頼めないだろう。
「ではこうしましょう!私とエーデルさんでスーの親父さんを見張る!その間エーデルさんはスーの親父さんに回復魔法をかけて頂き症状を少しでも抑えてもらう!その間でもし暴れ出したら私がエーデルさんをお守りする。」
そしてとヒューベルトはヴラムとシュリ、ゴローに指を突きつけて
「お前達は村外出身の獣人を探して薬を分けてもらってくれたまえ!」
「はぁ!?待て貴様!俺達まで巻き込むつもりか!?」
「たりめーよ!おら!さっさといけい!…エーデルさん?さあ参りましょうか。まさかエーデルさんも勇者だなんて…まさに運命ですね?まさにディスティニーという運命ですね!」
「はぁ…」
「先輩!ディスティニーと運命は同じ意味ですよ!」
完全に騎士団の任務に巻き込まれたヴラム達。とりあえず二手に別れてスーの父親を助ける事に専念する事にした。
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