第12話 対峙する悪意


 その頃ヴラム達。

 「けどこの森本当暗いね…」

 エーデルは少し不安そうな声を出す。クロユリの森は木々の密度が高いからか陽の光が入らない為日中も暗い。

 その上に湿気もありジメジメしている。好んで住もうとする人などまずいないであろう。


 「ククク…確かにこの森には幽霊が出るという噂もあるからな。」

 「う…嘘でしょ?出ないよね?」

 ヴラムはクククと意地悪な笑みな浮かべる。エーデルは涙目でそんなヴラムを睨みつけている。

 「まぁまぁ…幽霊なんて迷信にゃん。それに悪い事ばかりではないにゃんよ?特徴的な土地柄だから珍しい薬草やきのこも生えてるいい場所にゃん。

 て…そんな事よりもラキナを探すにゃん。」


 話が脱線し始めたがハチが軌道修正を図る。すると

 ザザ!

 「ひ!」ビクッ!

 「ヴラム様。此処から北の方角に何やら奇妙な建物が出来てますよ?以前は無かった粗末な小屋です。」

 高い木の上で偵察してたシュリが降りてきた。その音にエーデルはビクッと肩を揺らして驚く。 

 鬼人族は五感にも優れている。純粋に五感のみなら獣人族の方が上だが、鬼人族には優れた運動神経もある。

 この運動神経と鋭い感覚を武器にして偵察も余裕で行えるのも鬼人族の特徴だ。


 「小屋?んなもん無かった筈だな…。しかも北の方角というとババアの家の方角ではないか?」

 「ええ…実際かなり近いところにありました。恐らく小屋はラキナが建てたものではないでしょうか?」

 ヴラムは顎に手を当てて考え出す。シュリも自分の考察を述べていく。エーデルとハチも話に加わっていく。


 「けど小屋なんて何のために?」

 「さぁな。考えられるのは捕虜になった男どもを収容しているか…はたまたもっと重要な物を保管する場所か…。第一こんな辺鄙なところに住みたいなんて思う奴などマギリカぐらいだ。

 何のメリットもなしに長時間魔法発動するリスクを犯すなど相当な馬鹿がする事だ。」

 「思ったけど…敵はラキナだけとは限らないニャン。もしかしたらラキナの仲間もいる可能性だってありえるにゃん。」

 

 四人は作戦を立てる事にした。いかにして男達を無事に逃すか…それが一番重要である。






 

 此処はクロユリの森北にある小屋。小屋は小さく木で出来た粗末な物。その周辺には二人の鬼人族が立っていた。

 「しっかし暇だなぁ!こんな日にゃ酒を飲みてー気分だぜ!なぁ"サキチ"!」

 「…ああ…"ウヅキ"」

 二人の鬼人族の男"サキチ"と"ウヅキ"。両者は似た体格であり、シュリより大柄である。

 因みに双子でありウヅキが兄でサキチが弟である。


 ウヅキは目がギョロッと開いており口も裂けてるかのように大きい。服装は真っ赤な着物である。テンションが高くさっきからしつこくサキチに話しかけている。

 サキチは対照的に目は鋭く細めている。口はウヅキ同様大きいが口は真一文字で顰めっ面。

 服装は紺色の着物。ウヅキにしつこく話しかけられているが一言ぐらいで返してる。


 「しかしよぉ!たまにゃあこん中には綺麗な姉ちゃんとかいれてくんねぇかな!つまんねえよ娯楽もねーし!

 つーかラキナ!あいつが相手してくれりゃいいのにさ!」

 「…仕方あるまい…金を貰ってる以上…ラキナは我らの主だ。目的を果たすまでの辛抱。」


 二人はラキナに金で雇われた傭兵である。傭兵といえば聞こえはいいが、この二人は金さえもらえれば何でも引き受けており、犯罪にも加担した前科もある。

 二人に任されたのは小屋の見張り。小屋内にはシラユリの町から連れてこられた男達が押し込められている。


 「しかし…妙だ…」

 「はぁ!何が妙だ!兄弟!」

 「…見張りなどなくとも炎がある…逃げられないのになぜ我々が此処を見張らなくてはならない。…」

 「知るかよんな事!それより金!酒!女!何でもいいから持ってこい!ん?」


 ウヅキが何かを見つけた。そこには自身と同じ種族だが幾分か若い鬼人の青年とふくふくと丸い猫獣人がいる。

 「何だ何だ!お前ら!なんなんだ!」

 ウヅキは突然の訪問者に興奮している。暇つぶしができた事に喜んでいるようである。


 「その小屋の中にいるのはシラユリの男達か?」

 「…ふん…そうだと言ったらどうする?」

 

 すると鬼人の青年が臨戦体制を取り、もう一人の獣人族は力を溜めて体を筋肉隆々の大男の体型になった。

 「返してもらうぞぉお!さもなきゃてめーら食い殺すぞゴラァァ!」

 巨大な虎獣人に変化した獣人族が雄叫びを上げた。


 それを合図にウヅキは舌なめずりして、サキチは首をポキポキと鳴らしながら二人の訪問者に襲いかかった。




 一方

 「ふぅ…あーきた。気絶すんの早くない?」

 「うぐ…」

 ラキナの行き過ぎる暴力によりボロボロに気絶した男。それを見て呆れた目を向けるラキナ。だが


 「"光のルクス・ヒール"」

 パーっと気絶した男の周りに白い魔法陣が現れて優しい光の衣が彼の体を包み込み傷を治した。すると男は起き上がり目をパチクリさせている。その様子にラキナな目を見開いた。


 「な…なによ!これ!」

 「アンタがラキナ?」

 ギーッと音を立ててラキナのアジトに入る一人の金髪の少女。その手の甲には白いエーデルワイスの紋様が浮かんでいる。

 「な!誰よアンタ!」

 「私はエーデル、エーデル・ホワイト。アンタと同じ勇者よ!」

 

 エーデルの登場にそそくさと逃げる男。それに気づいたラキナは舌打ちして魔法を発動する。赤黒い魔法陣から黒い炎が弾丸の様に打ち出されて男を襲う。しかしエーデルは見逃さない。

 エーデルは素早く動き防御魔法を掛けてラキナの魔法を防いだ。男は無事逃れることができた。


 「私の邪魔するんじゃないわよ!てか何?私になんか用?」

 「シラユリの町の男の人達と町を解放してほしい。それをお願いしにきただけだけど?」

 二人の女勇者が対峙し睨み合う。両者一歩も引かない。


 「いやって言ったら?」

 「アンタのせいで悲しんでる人がいるの!怯えてる人もいるの!アンタそれを何とも思わないの!アンタ勇者でしょ!」

 不適な笑みを浮かべるラキナに怒鳴るエーデル。だがそのエーデルの怒声に対しても馬鹿にしたような態度だ。


 「ばっかじゃないの?もしかしてアンタも勇者善人説推し?うっわ…時代遅れ…。

 勇者は魔法が使える特別な存在。本来使えない筈の魔法が使えるのよ?寧ろ他の人間と同じカテゴリーに加えて欲しくないわね。

 あともう一つ。アンタの言ってるのは価値観の押し付けじゃない?私が私の力をどう使おうが勝手でしょ?」

 「な!」


 「まぁいいわ!焼け死になさい!金髪女!

 "黒炎流星群メテオ・フレア"」

 ラキナは天井に向けて両腕を上げる。すると頭上に巨大な赤黒い魔法陣が出現しそこから黒い炎の弾が流れ星のようにエーデル目掛けて飛んでいき…。




 その頃ヴラム

 「ふむ…鬼人族二人と勇者が一人。3人だけみたいだな…む?」

 ヴラムは一際大きい木の上で他にラキナの仲間がいないか探っていた。

 すると何やら強大な魔力の塊が近づく気配がした。よく見知った気配。

 ヴラムはニヤリと笑う。


 「ふん…遅すぎるな…」

 ヴラムはそう言うと目を閉じて集中力を高めた。これから行うのは膨大な魔力と線密な操作が必要になる。

 「"凍結フリージア"」

 その時ヴラムの足元と全てのラキナの炎の下に水色の魔法陣が出現した。するとラキナの炎がピキピキと音を立てて凍りついた。


 「解除」

 ヴラムは炎が全て凍ったのを確認して魔法を解除する。すると炎の氷が細かく砕けて風に乗って消えていく。

 これで町も森も全て開放されたのだのである。


 しかしこれで終わりでない。

 現在二箇所でバトルが勃発している。今優先するべきは男達の身柄。ヴラムはシュリとハチのいる小屋まで飛んで行った。

 そしてこれからやってくるであろう、この森のボスが来るのを待つ事にした。

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