第13話 ウヅキとサキチ
その頃のエーデルとラキナ
「う…うそでしょ?私の魔法が消えた!?」
ラキナは魔法を放った直後に異変に気づいた。自身の発動させた魔法がいきなり消えた気配を感じ取ったのだ。
それに気を取られたラキナはエーデルに放った攻撃魔法を消した。
「やった!さっすがヴラム!」
何より優先すべきは男達の身柄である。そして町の安全もまた視野に入れておかねばならない。
もし小屋から男達を脱出させ様にも炎が上がっていては思う様に脱出できない。
そしていきなり炎を消せばラキナにバレる可能性があり、邪魔されるか町や男達に危害を加えかねない。
だからこそラキナを誰かが足止めしてる間にラキナの魔法の炎を消す必要がある。
そして更にラキナの仲間がいた場合も想定して一度ヴラムが飛んで偵察した。すると鬼人族の男が二人もいる。
その結果、今回の役割になった。
鬼人族は体力、身体能力が高く怪力。ヴラムとエーデルが行ったとしてもし二人の魔力が相手の体力より先に尽きたら終わりである。
一撃でも加えられたら最悪死ぬかもしれない。
だからこそ、対抗できるシュリと獣人族の中でも筋力、体力共に優れてるハチが鬼人族の相手をする事になった。
他にもラキナの魔法の炎。これはかなり高度な魔法の発動方法である。距離の離れたエリアに広範囲で魔法を持続発動するのは魔力も多く消費し、精密な操作が必要である。
それをラキナはやってのけてしまえている。
エーデルでは攻撃魔法の威力自体は炎を打ち消せるぐらいはあるが、精密さに欠ける。
なので魔力、精密さ共に優等生なヴラムがラキナの魔法を打ち消す事になったのだ。
それにエーデルならバリアと回復が優れているので足止めにはもってこいである。
そしてまず作戦の第一段階。それぞれのターゲットとの接触と魔法の打ち消しが成功した。
次に行うのは町の男達の救出である。
その頃シュリ&ハチ
「ひゃーはっはっ!暇つぶしがキタァァ!おっしゃあ!行くぞ!サキチ!」
「…了解」
ウヅキとサキチはすぐにシュリとハチに接近する。ウヅキは興奮している様子でサキチはただ冷静に相手を見据えている。
対照的な二人だが、その目には純粋な闘争心が宿っている。
「よっしゃあ!俺はあの鬼人のあんちゃん!お前はあの虎野郎を仕留めちまえ!」
「ち…いい方をサラッと取るな。」
ウヅキはすぐにシュリに狙いを定めて走り、拳を振る。シュリは瞬時に両腕をクロスしてガードする。ウヅキの放った拳の風圧で周りの木々は吹っ飛んでいく。
「く…」
「ひゃー!てめぇ俺の拳に耐えられんのかよ!楽しくなってきやがったぞぉぉ!」
するとウヅキは連続で拳を振り上げて殴り続けるがなおもシュリは足を踏ん張りガードして隙を伺う。相手はシュリよりも大柄であり、シュリも眉間に皺を寄せて歯を食いしばり耐えている。
一方ハチ
「…ふん…獣人族だと?そんな種族が戦闘部族である鬼人族に勝てるとでも?」
ハチとサキチは現在、お互いの両手を組み押し合いをしている。お互いのパワーが均衡している状況だ。
サキチは馬鹿にするかの様にハチを静かに挑発する。
「特別に二つ教えてやんぞ若造!年寄りは敬え!そして…真の戦士ならば相手へのリスペクトを忘れるんじゃねーぞ!クソガキが!」
ハチは普段の口調とは全く違う激しい口調で怒鳴りつける。
「…ふんなんだ?今のうちに負け惜しみか?精々あがk…」
ドゴオ!
サキチがなおもハチを馬鹿にする。しかしその時ハチは一瞬の内にサキチと組んだ手を外して、その手でサキチの頬を殴りつけた。
サキチの顔はめり込み、そのまま木々を薙ぎ倒し、土を抉って吹っ飛んで行った。
「サキチ!」
「よそ見するな!」
「ゴバアアア!」
サキチが吹っ飛んでいく様子に動揺したウヅキのシュリを殴る手が止まる。
しかしその隙をついたシュリがすかさずウヅキの頬を殴りつけた。するとウヅキも吹っ飛んでいき、先に倒れてるサキチに衝突した。
「ふう…」
「大丈夫か。シュリよ。」
「いや…大丈夫だが…何だその口調?」
ハチはシュリを心配して声を掛ける。がバトルモード状態のままのハチの口調にシュリは不思議そうな顔をしている。
「ほぉ?派手にやったようだな。」
上空から少年の声がした。その声にシュリは目をキラキラさせている。先程の狂犬じみた顔から一点して忠犬に変わった。
「ヴラムさまぁぁぁ♡」
シューっと音を立ててハチも元通りの猫ちゃんに戻った。
「ヴラムも炎消したみたいにゃんね?」
「ふん…大した事ない。造作も無いことだ。む?」
するとヴラムはシュリの腕を見る。
シュリの腕は先程のウツギの攻撃をガードした事で青紫に腫れており、痛々しい。
するとヴラムは眉を顰めてシュリの腕に掌をかかげる。すると掌に水色の小さな魔法陣が現れてそこから優しい冷気がシュリの腕を包み込む。
「ヴラム様?」
「ふん…鬼人族とあろう者がこんな傷をつくりおって……痛くはないのか?」
「いいえ!それにヴラム様に冷やして頂いたので大丈夫ですよ!」
「ふ…そうか…」
シュリはヴラムの処置にニコニコと満面の笑みを見せる。そんなシュリにヴラムは安心したのか控えめな優しい顔を向ける。
そんなヴラムの顔は従者に向けるものではなく親が子を見る様な顔である。少なくともその場にいたハチにはそう見えていて、二人を穏やかにみている。
3人は捕えられていた男達を開放した。
「ありがとうございます!助かりました!」
「いやいや大丈夫にゃん。早く町に帰るにゃん!」
男達はやっと解放された事に喜んでいる。するとヴラムが
「だが油断はできんぞ。取り敢えずシュリとハチは此奴らを守りながら町にいろ。俺は小娘の所にいく。」
「で…ですが!ヴラム様が行くのなら俺も!」
「怪我人がいても足を引っ張るだけであろう。さっさと町に男共を連れていけ!」
ヴラムの指示に不服なシュリ。しかしヴラムはシュリの腫れてる腕を暫し見つめてすぐにそれを却下した。
「まぁまぁ…ヴラムがこう言ってるにゃん。、それにもしあの鬼人族の二人が起きたりしたら大変にゃん!
吾輩達は町にいるにゃん。」
ハチはポンと肉球でシュリの背中を軽く叩く。シュリは納得いかない表情だが了承した。
そして
「くは!あの鬼人野郎め!もっとだ!もっと戦わねーと気が進まねぇ!おい!サキチどけ!」
「貴様が退け。ん?」
気絶した二人の鬼人族。ウヅキとサキチが目を開けると目の前に真っ黒の服を着た髪の長い美しい魔族の少年が立っていた。すると少年は
「貴様ら…2度と俺の家族に近寄るな。今度近づいて傷つける様なら…殺すぞ。
"凍結"」
少年は冷たい目で二人を睨みつけながら魔法を発動する。すると強い冷気が吹き荒れて周りの木々が凍りつく。そしてそれはウヅキとサキチも例外ではない。
「うわぁぁあ!んだこれ!くっそ寒い!」
「か…体が…凍って…」
二人の全身が完全に凍りつく。少年はそんな二人に背を向けた。そして少年…ヴラムは背中から翼を出して飛び去った。
シュリは何故かヴラムを主として崇める。鬼人族は一度認めたらその人に対して厚い忠誠心を持つ様になる。
だがヴラムにとっては違う。シュリは従者ではない。既に自分の見た目年齢を超えている青年。それでもヴラムを純粋に慕ってくれる姿が今でも可愛く見える。
ヴラムにとってシュリはたった一人の家族であり息子の様なものなのだ。そんな存在を傷つけられるのは何よりも嫌なのだ。例えシュリが鬼人族で丈夫で強い体を持っていると分かっていても…
例え…どう足掻いてもシュリが自分より先に年老いて死ぬと分かっていても…
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