第11話 悪意の焔
4人はクロユリの森に到着した。やはりコチラも炎が上がっている。
「あっつ…どうするコレ?どうやって侵入する?」
「ん〜。此処も町と同じく上から侵入した方がいいんじゃないかにゃ?
そうにゃんね…。シュリ君?君の脚力でこの炎に当たらずにジャンプして森の中に入れるかにゃ?」
ハチの問いかけにシュリは一瞬森を囲む炎を見る。
「これぐらいなら余裕だな。」
「え?マジで?アンタの身長ぐらいあるよ?」
「いや…この二倍でもいけるぞ?」
エーデルはシュリの答えに驚く。しかしシュリは何を驚いてるんだ?とばかりに真顔である。本気のようだ。
「ならいいにゃん!ヴラムとシュリ君が吾輩かエーデルちゃんを運んで侵入すればいいのにゃん!ってにぎゃ!シュリ君いきなり抱っこするんじゃないにゃん!」
ハチの案を聞いたシュリは真っ先にハチを抱き抱えた。驚いたハチは毛を逆立てている。
「け…健全な男女として…つ…付き合ってない女性とみ…密着はよくない!」
「ウブすぎるしそれ言ったらヴラムとエーデルちゃんも付き合ってないにゃんよ?」
シュリは顔を真っ赤にして固まっている。そんなシュリに冷静に突っ込むハチ。
「ち…また重い荷物をもたなきゃなr「デリカシーを何処に落としたのかなぁ?ん?」いひゃひゃひゃ…」
またもやいらん事を言うヴラムの両頬を思いっきり抓るエーデル。
ヴラムはまた渋々エーデルを俵担ぎにする。
エーデルは最早彼にデリカシーを求めるのを諦めたのか抱き方に文句を言わなくなった。
ヴラムはエーデルを担ぎながら翼を出して飛び軽々と飛び越えた。そして中に入り着地してエーデルを下ろす。
「えっとさ…シュリ大丈夫だよね?少し不安なんだけど…」
「ハッ…鬼人族の脚力ならばこれぐらい朝飯前であろう。こんな高さも越えられないようじゃ戦闘部族の名が廃るというものよ。」
エーデルは目の前の黒い炎を見る。シュリの身長…180センチを少し超えるぐらいの高さのある炎である。そんなのを越えられるのか?
エーデルはゴクリと唾を飲み込んでシュリとハチを待つ。
一方シュリとハチ。
シュリはジャンプしやすい様にハチを肩に担ぐ。するとシュリは森と反対方向に走る。
「え?そっちは逆にゃんよ?」
「いや…助走をつけたくてな。何せ人を抱えて飛ぶ訳だし…失敗できん…」
シュリはトントンと軽くジャンプする。そしてそこから勢い良く森に向かって走っていく。
「わぁぁ!早いにゃぁぁぁ!」
「舌噛むぞ!あまり叫ぶな!」
「そんにゃああ!」
ハチは絶叫マシンに乗った客の様に怯えた顔をしている。そして助走をつけたシュリは地面を思いっきり蹴り、飛んだ。
ハチは空を飛ぶ感覚を味わう事ができた。まるで鳥になった気分だ。
しかし炎を超えて行った後は落下していく。まるで胃が持ち上がる感覚。ハチは顔を青くしている。シュリは涼しい顔で乗り越えて余裕で着地した。
「ふぅ…ハチついだぞ?」
「…うぅ…気持ち悪いにゃん…」
ハチは手を口に当てており、眉間に皺を寄せている。シュリはキョトンとしながらもハチの体を心配して背中を摩っている。
「良かったぁ…無事に乗り越えたんだね?」
「鬼人族なのだからそりゃあそうだろ。というかハチ…貴様まさか酔ったのか?」
エーデルとヴラムが合流した。エーデルはシュリ達が無事に炎を飛び越えられた事に安堵した。対してヴラムは呆れ顔でハチを見つめるが
「吐かれても迷惑だ。少し此処で休むぞ。あとこの水だがぬるくて飲めるもんじゃない。
お前が処分しろ。」
そう言ってヴラムは荷物入れから水筒を取り出す。因みに中の水はヴラムの魔法をかけてる為キンキンに冷えている。
それをハチに渡すとハチは一口冷たい水を飲んで落ち着いた。
「ぷはぁ…冷たくておいしいにゃん!吾輩は大丈夫にゃんよ!ありがとにゃん!…本当…言動で損するにゃんね君。」
「ほっとけ。クソ猫。」
「口わっる…」
「く…羨ましい!ヴラム様に施しを受けるなんて!そして流石我が主!なんて慈悲深いのでしょうか!このシュリ感動しました!」
ヴラムの口の悪さにハチと同意見のエーデル。根はいい子だし顔面も中々なのに言動が完全に邪魔している。もはや一種の病気と疑いたくなるレベル。
対してシュリは主の優しい行為に感涙の涙を流している。しかし感動だけでなく主に気遣われるハチに嫉妬していたりもする。
「ふん…馬鹿な事言っとらんでさっさと行くぞ。ババアめ…自分のテリトリーほっぽって何処へ行ったのだ…」
ヴラムは舌打ちしてさっさと歩くその後ろを他の3人が急いで着いていく。
一方
「がは!」
クロユリの森の中にある屋敷。その一室で男性が一人の女に踏みつけられたりして暴行を受けていた。
「あーはっはっ!もっとよ!もっと情けない声を上げなさい!勇者様に踏みつけられるなんて中々名誉な事なんだから感謝しなさいよね!」
暴力を行う女は高笑いを浮かべる。
女の見た目は赤いボブヘアーの髪であり後ろに黒いレース状のリボンをつけている。
服装は露出度がかなり高く、臍や太もも、胸の谷間などがガッツリ見える。
そして左手の甲に赤黒い色をした禍々しい月下美人の紋様が浮かんでいる。
顔立ちはキツめの顔立ちである。今は真っ赤なリップをにやぁと歪ませて、意地の悪い邪悪な顔をしている。
「うう…たす…けて…ひ!」
ボン!
懇願する男の頬スレスレを黒い火の玉が掠って壁にぶつかる。ぶつかった壁は焦げ跡ができた。
「ねぇ?アンタは本日のサンドバッグ係よ?と〜っても名誉なこの役割を放棄するなんて…そんなに殺されたい?」
女は笑みを消してゾッとする程の冷たい目を男に向ける。
男はブンブンと涙目で怯えながら横に首を振る。
「成程。ならアンタの子供と嫁でも焼いちゃおうかしら?」
「!!」
女の残酷な言葉に男は目を見開く、そして
「や…やめてくれ…妻と娘には手を出さないでくれ…頼む…」
男が土下座した。女は土下座する男の前までカツカツとハイヒールの音を立てて歩く。
そしてその足で土下座する男の頭を踏みつける。
「ぐ…」
「言い方違うでしょ?馬鹿なの?ほらやり直し!」
女は男を見下してグリグリと頭を踏む。男の頭に激痛が走るが男は…
「も…申し訳ありません。わ…私は"ラキナ様"の下僕です。…踏みつけて下さりありがとうございます…」
男は屈辱で涙が止まらなかった。逆にラキナの方は
「うふ…うふふふふ♡それでいいのよ!だって私は勇者!特別な存在なの!
アンタ達なんかとはレベルが違うのよ!わかったら私に逆らわない事ね!」
ラキナは恍惚の表情でグリグリと男の頭を尚も踏みまくる。
男は絶望していた。逆らえばラキナの魔法により殺されるかもしれないし…下手すれば家族にも危害が加わる。
けれどラキナの命令は全て屈辱的なものや、犯罪への加担だ。
勇者…それは人間達が名付けた魔法の使える人間の名称。
勇者と呼ばれた人々は弱き者を救うという偉業を成し遂げた。だからこその勇者。
けど目の前の女は英雄などではない。そんなの認めたくない。こんな女が勇者だなんて…
男は真っ黒の絶望に染まった目でこの理不尽な世界を呪った。そして同時に考えた。
"勇者"とはなんなのかと…
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