第16話 シラユリの夜明け

 「ヴラムざまぁぁぁ!よくぞご無事で!」

 「ぎゃあああ!」

 ゴギ!パキ!ベキ!

 「ヴラムぅぅ!ちょっと!折角私が回復魔法かけたのに!またダメージ与えてんじゃないわよ!ばか!」

 「痛!すみませんでした!ヴラム様!」


 町に戻るとヴラムを見つけたシュリが泣き顔のまま全速力で駆け寄ってきた。そしてそのままヴラムに思いっきり抱きついてきた。

 だが嬉しさのあまりにシュリは目一杯力を込めて仕舞い、またもやヴラムを殺しかけている。


 それに対してエーデルは怒りながら割と強い力でシュリの頭をスパンとはたく。

 ヴラムは泡を吹いて白目を剥いている。エーデルはすぐさま回復魔法をかけるとヴラムの顔も元に戻った。この際ついでにシュリの腫れてた腕も回復させた。


 「あらあらシュリってば♡相変わらずヴラム大好きねぇ♡しかも…あんなに小さかったのにこ〜んなにかっこよくなっちゃって♡」

 「ま…マギリカ様!?」

 シュリが懐から小太刀を取って腹を切ろうとするが、そこにマギリカが話しかけてきた。

 シュリは久しぶりに会った女性に顔を真っ赤にして固まっている。


 「やぁん♡ウブで可愛い♡」

 むぎゅう♡

 「う…うわわわわ!」

 マギリカは自らの豊満な胸にシュリの顔を挟んで抱きしめる。途端にシュリの顔は更に真っ赤になり、目がぐるぐるしてそのまま気絶した。よく見ると少し鼻血も出てる。


 「あら…気失っちゃったわ。」

 キューっと気絶するシュリを膝枕するマギリカ。起きたらまた気絶しそうである。


 「あ…相変わらずにゃんね…」

 「本当にな…はぁ…」

 ハチとヴラムはマギリカのマイペースさに呆れ顔である。ハチは200年ぶりである。ヴラムはマギリカに手紙をこまめに貰う為かそれなりに面識はあるし交友関係も続いてる。

 因みにまだハチは自分がロクロであるとは言ってない。まぁ…近々また戦う羽目になりバレるのも時間の問題だが、


 ロクロも200年前にマギリカと会っている。だからどんな人物かは知っているし、すでに1500歳超えてる事や、200年経っても変わらない見た目年齢に驚いていた。

 もしこれが他人ならそんなもんだろうと思えたが、知り合いとなると驚きの方が勝ってしまうのである。


 すると

 「皆さん!ありがとうございました!これで…これで町は救われました!ありがとうございました!」

 そう言ってきたのは最初にヴラムとエーデルが出会った女性である。

 「いえいえ…そんなお礼なんて…」

 エーデルは恐縮している。しかしお礼を言ってきた女性は更にエーデルに


 「私の夫がラキナに暴行されてるのを助けて下さったんでしょ?夫に聞きました。」

 「え?」

 よく見ると女性の後ろに見覚えのある男性がいた。男性はラキナに暴行されていた男性。エーデルが回復魔法をかけたり、バリアを張ったりして助けた男性である。

 その男性はニコニコと何回も頭を下げている。


 女性はエーデルの手を握り、涙を流して

 「ありがとう御座います。またこの町に平和が訪れました。私は…ラキナのせいで勇者という存在自体を悪だとそう思っていました。

 でも違った…。だって貴女がいたから。貴女のような方が本当の勇者だと私はそう思います!」


 女性の言葉にエーデルは目を見開く。女性は手を離して失礼します。と優しく微笑みながら自身の夫の元へと歩いていった。

 

 「本当の…勇者…」

 エーデルはポロッと涙が溢れた。優秀で一発で勇者騎士団に入った兄。それに比べ自分は何回か試験に落ちている。

 故郷ではそんな二人は比べられた。兄はエーデルを馬鹿にしなかったからまだ良かった。


 けどエーデルは…自分が馬鹿にされるのがまるで、自分を親代わりに育ててくれた兄も馬鹿にされてるみたいで辛くて逃げ出したのだ。

 違う町に引っ越して、新しい生活をしながら兄と共に働きたいと思ってた。


 本当の勇者とか自分がなりたい物とかそんなの考えていなかった。

 けど今の言葉がスッと胸に入っていき、漸く自分がどんな勇者になりたいのか…そんなビジョンが見えた気がした。そして漸く自分が勇者として認められた。

 エーデルはそう認識した。


 「今日は泣く日なのか?小娘?」

 そんなエーデルに話しかけてくるヴラム。顔は仏頂面である。

 「な…泣いてないもん!」

 「ほぅ?の割には随分目が腫れておるな?鼻水まで垂らして…くくく」

 エーデルはデリカシーが皆無なヴラムの頬をつねる。


 「いひゃい…」

 「本当に!デリカシーを持ちなさい!」

 グニグニとヴラムの頬を揉み込むエーデル。

  

 他のメンバー、ハチやシュリ、マギリカは街の人々に囲まれている。町の人達は笑顔だ。自分の子供と再会できたこと、愛する人とまた暮らせる喜び。そんな思いが町を照らしている。


 「…ねぇヴラム?」

 「あ?」

 エーデルはそんな人々を眩しそうに見つめながらヴラムの頬を離す。

 「もしも…私が沢山の人を笑顔にできる勇者になりたいって言ったらさ?おかしいかな?」

 エーデルは今自分が最も考えうるなりたい勇者を口に出す。


 人を笑顔にしたい。それは勇者騎士団になりたいという現実的で具体的な物と違いザックラバンとした願い。

 けれどエーデルが今考えるのはそんな勇者なのだ。それを聞いたヴラムは呆れ顔で


 「なりたいならなればよかろう。一々人に聞くもんでもあるまい。」

 ぶっきらぼうにそう答える。けどそれはエーデルの思いを肯定してくれる言葉。

 「やっぱりヴラムは優しいね?」

 「優しくない…」


 エーデルは不器用で口が悪くて意地悪なそれでいてとても優しくてお人好しな魔族の少年を笑顔で見つめる。


 「んな事よりマギリカに聞くのではないのか?自分の魔法について、」

 「勿論聞くよ。けどさ今はこの余韻に浸ってたい…」


 今はただ自分達が救ったこの町で人々の笑顔を見ていたい。そんな気分なのである。

 マギリカにはこの町を出発する時に話しかけてみよう。エーデルはそう予定を立てて、ヴラムの腕を引き、町の人々と交流していった。

 

 

 町はお祭り騒ぎである。その夜も町を救った功労者としてマギリカを含めた5人が町の人達に囲まれ、感謝されていた。

 

 その祭りは夜明けまで続いたのだった。

 

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