二章第12話 交渉騒動

 「と言う訳でお願い!私を戦士の墓まで行かせて下さい!」

 「駄目だ!」

 そして現在。ベルと一行はベルの両親の所まで戻り事情説明を行った。しかし冒頭のやりとりの繰り返しである。

 「ベル?気持ちは分かるわよ?けど危ない所になんて行かせられないわ!ヴラムさん達にもご迷惑かけて!ヴラムさんが間に合わなかったら今頃サンドワームの胃液で溶けてるわよ!」


 ベルはううっと呻く。しかし親からすると大切な一人娘を危険な場所になんて行かせたくないのだ。するとエーデルが、

 「なら…私がベルちゃんの周りにバリアを貼り続けます!それならベルちゃんに怪我をさせないで済みますから!」

 「エーデルさん…」

 「…それに私にも兄がいます。私ももし兄が亡くなって…それで会えるチャンスが万が一あるのなら!ベルちゃんと同じ様な事をしてたと思うんです!」


 エーデルはベルの両親に訴えかける。

 「勿論危険なのは分かってます!でも…でも私はベルちゃんをお兄さんに合わせてあげたいんです!お願いします!

 私が…命に換えてもベルちゃんを守ります!だからお願いします!」

 エーデルは深く深く頭を下げた。ベルはそんなエーデルの姿に涙目だ。


 するとドラゴニアがフゥとため息を吐いた。

 「…ベル…これから言う事をよく聞きなさい。」

 「うん…」

 「お前だけでレイギスに会おうとするんじゃない!父さんだって会いたいんだ!なあ?母さん。」

 「ええ。私も会いたいわぁ♡ベル?久し振りにレイギスに会いに行きましょうか」


 ドラゴニアとマープルの言葉にベルは目を見開いた。

 「エーデルさん。ありがとう御座います。けれど娘を守るのは親の務めです。バリアを貼り続けるのは貴方に負担がかかってしまう。

 娘は私と妻で守ります。それにこのまま中止なんていやですから!」

 ドラゴニアがそう力強くいった。


 「ふふ。でも私達も個人的にあのお墓に用事があるもの。一緒にいくわ」

 マギリカがウインクしながら告げる。

 するとドラゴニア達は安心した顔だがすぐに何かに気づき唸り出した。


 「けど中止は陛下が決められた事だし…恐らく昼間になると見張りもつけられるかと…」

 この大陸はこのアギトに住む国王が治めている。アギトは都と呼ばれるが実際は城下町と言った方が正しい。

 アギトの真ん中にはお城がある。城の周りには貴重な水路があり、乾燥した地域では特に目立つ城だ。

 城の見た目は白い壁に金色の先の尖った丸い雫形をした独特な屋根である。


 確かに勝手に侵入すれば不法侵入罪で捕まる可能性がある。しかしヴラム達には考えがある。

 「まさか…こんな形でクソみたいな法律に助けられるとはな。」

 「「「?」」」

 ヴラムの不敵な笑みに親子はキョトンとしている。




 

 翌日。

 ヴラム達は聖竜騎士団の本部へ赴いた。

 「貴方方は昨日の…」

 騎士団の一人が一行と共にいるベル達親子を見ていた。特に暴走し本部に怒鳴り込んだドラゴニアに対してはキツい眼差しである。

 するとヴラムがハァとため息をつき

 「おいおい。一般市民を守るべき騎士団がそんな敵を見る様な目で守護対象を見てどうする。全く…弛んどるのではないか?」

 ヴラムがそう嫌味っぽく言うと団員達は眉間に皺を寄せた。


 「わー!待って待って!ヴラムは一回お口チャック!」

 「いひゃい…」

 いきなり開口一番にいらん事を言うヴラムの頬をエーデルがギュッとつまむ。その痛みにヴラムは黙り込んだ。

 「すみませんにゃん。この子は人に悪態を自然についてしまう厄介な悪癖持ちにゃん。

 吾輩達はただお願いがあって此処まできたのにゃん。」

 「お願い?」

 その隙にハチが穏やかに団員達に話しかけた。するとピリついた空気が少し軟化した。

 

 「実は吾輩達、テトラ・グレイヴに用事があってどうしても入りたいのにゃん。」

 「え!?で…ですが今は中にゾンビがいて危険なんです!今は侵入禁止です!」

 団員が冷や汗を流して止める。するとベルが

 「お願いです!私どうしてもお兄ちゃんに会いたいんです!」

 「…エルフの女の子…」

 団員がベルを見て何かに気付いた様だ。


 「もしかしてだけど君はレイギスの妹さん?」

 「はい!そうです!」

 「レイギスに聞いてたよ。エルフの妹の話。よく自慢されたっけ…

 でも…それなら尚更駄目だよ。」

 団員は首を振りながら悲痛な面持ちである。

 「…これはまだ誰にも教えてないけど…じつは戦士の墓で祀られている殉職者達がゾンビの正体なんです。」

 その言葉に全員は眉を顰めた。ベルの予想が当たっていた。


 しかしベルはそれを視野に入れた上で昨夜の暴走を起こしたのだ。無論更にやる気が出てきた。

 「なら尚更!私はお兄ちゃんに会いたいです!お願いします!お兄ちゃんに会わせて下さい!」

 「そうは言ってもねぇ…」

 ベルのお願いに団員は困った顔をしている。が


 「これが目にはいらぬかぁぁあ!」

 マギリカがバッと紙を取り出した。それを見ると団員達は少し苛立たしげに見た。

 「…すみません…少し確認してきます。」

 そう言って団員の一人が立ち上がり本部の奥へと向かった。その反応に親子は首を傾げている。


 「何をなさったのですか?その紙は一体…」

 「ふふふこれは魔法の紙…ではなく!勇者騎士団からの協力要請書です!」

 フンと胸を張るマギリカ。何故か得意げだ。

 「えと何故威張っておられるのでしょうか?」

 「ふん…んなもん知らんで良い。お前はあんな風になるでないぞ。」

 シュリの戸惑った様子にヴラムはすかさず釘を刺す。それを呆れた目で見るエーデルとハチ。


 他大陸同士の騎士団などの警備隊は仲が悪い。変な縄張り意識が慢性化しているのである。その為お互いで協力するのは中々無いし、あったとしてもそこに信頼関係は薄い。

 それもこれと種族同士での差別意識などが原因だ。魔力のない者を蔑む種族や、そんな目で見てくる種族を恨む種族。


 一般市民の中では薄れてきた価値観だ。警備隊も新規で入った者もそんなに嫌な感情は持っていない。だが警備隊になると嫌でも貴族等の富裕層や犯罪者と関わる機会がある。

 貴族の大体は平民を下に見る者が多いが、中には自身の種族アゲ、他種属サゲを平気で行う者もいる。


 犯罪者なら力の無い種族を商品や慰み者として下に見て、ぞんざいに尊厳を奪う様な行為をしている。

 そんな汚い無意識の差別。彼らは嫌と言う程見てきた。警備隊達は同族を優先して助ける傾向にある。


 実際に一つの事件で様々な種族が巻き込まれた場合は警備隊は自分と同じ種族を無意識に助けて他を後に回す傾向が強い。

 勇者騎士団ならば人間族と竜人族の場合人間族を優先する。そのせいで助けの遅れた竜人族が死んでしまうケースも珍しくない。

 

 大陸というより騎士団毎に所属隊員の種族を決めてしまったのが悪かったのだろう。そんな彼らは同族を見殺しにする他騎士団と距離を取りたいのだ。…自分達も同じ事をしてる自覚はなしで。


 「ですが…成程協力要請書ですか…なら、聖竜騎士団が動くのも納得です。それに機嫌が悪くなったのも」

 騎士団協力要請は他の警備隊でも実施している。騎士団同士が出会った場合いざこざは避けれない。

 しかし例外として騎士団協力要請書は違う。

 相手は一般人である。そしてその一般人がその警備隊のいる大陸にいる場合はその一般人も警備隊達の守護対象となる。


 そうすると警備隊達は下手に手を出せない上に協力せねばならなくなる。何故か…それは大体の協力要請が出される案件は危険な物が多い。それも他大陸も巻き込むほどの。

 自大陸を守らねばならない為原則協力せねばならない上に、彼らや協力を要請した警備達に護衛をお願いされてしまった場合は守護対象である彼らが命を落とすような事があればその大陸の警備隊の有責になる場合もある。


 もし亡くなったあと証拠隠滅しても遅い。その協力者の安否確認の為に要請した警備隊員がやってくる。

 協力者は逐一要請してきた警備隊に情報提供を行うがそれがないと不審に思う騎士団が協力者が訪れた場所へ訪問にくるのだ。それで亡くなったとバレた場合はその警備隊の信頼度は下がり、莫大な賠償金を支払わなければならない。それも税金。国民の怒りは爆発間違いなし。


 「本当クソみたいな法律だな。」

 ヴラムは嘲笑を浮かべて呟いた。

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