第9話 四人目の仲間

 「うふふ可愛いねこれ♡」

 エーデルは先程貰ったバッチを上に持ち上げて見つめる。

 水色の生地に白い雲のような模様と太陽の模様が描かれている。

 「確かに…いいものだな…」

 「ふん…」

 ヴラムとシュリの分は荷物入れのバックにつけている。


 ヴラムのは紺色の生地に白い星柄。シュリのは赤と黒の縞々である。


 「そうにゃんね!まさかこんな素敵な物が貰えるにゃんてラッキーにゃん!」

 ハチのは白地に黒い肉球マークである。するとヴラムは一旦止まりハチの顔をじっと見る。


 「いや何故ナチュラルにいるのだ。貴様。」

 「旅は道連れ世は情けというにゃん!」

 「理由になっとらんだろうが!」

 するとハチはじーっとヴラムを見つめてくる。その視線にヴラムは顔を顰める。


 「な…何だ。」

 「いやぁ…君吾輩と会った事あるにゃん?いや多分…君は吾輩の事分かるにゃん?」

 「いや知らん!」

 「はっきりいうにゃんね…。けど口調やら髪の長さやら違うし…何より種族が違うにゃんねぇ。他人の空似かにゃ?」

 何やらブツブツいうハチにヴラムは不思議そうな顔だ。


 「だから!何なのださっきから!」

 「何でもにゃいにゃ。ただ君が余りに吾輩の知り合いと似てるからびっくりしただけにゃん。所で君達はどこに行くにゃん?どうせ吾輩も当てのない旅。

 どうせなら同行者がいた方が楽しいにゃん。」


 「私達はこれからシラユリの町に行くの。でも最終目的はクロユリの森のマギリカさんに会う事なんだ!」

 するとハチは糸目を開眼した。金色の目がお目見えしている。

 「マギリカ!?まだ生きてたのかにゃん!?魔女って長生きにゃんねぇ…」

 「へ?マギリカさんの事知ってるの?」

 「あ…いやその…ほら!吾輩薬剤師にゃん!マギリカさんは魔法薬作りが得意で憧れの存在にゃん。吾輩も会ってみたいのにゃ!」


 ハチは何やらあたふたしている。そんなハチをエーデルとシュリは不思議そうに見つめている。一方のヴラム。

 「あの目の色と毛の色…なんか既視感が…」

 しかしヴラムの記憶ではハチのような体型の猫型獣人は知り合いにいない為、考えを放棄する事にした。


 ハチもマギリカに会いたいと言うため同行する事にした。

 「マギリカさんって魔法薬得意なの?」

 「ああ…マギリカ様は魔法薬だけでなく化粧品も自作しているぞ?確かクロユリの森も湿気があって肌が乾燥しないし日光が入らないから紫外線避けに最適と仰っていた。」

 エーデルの質問にシュリが答えた。


 実際魔女族の殆どが魔法薬作りが得意である。中には一子相伝の秘伝の薬を作る人もいるとか…。たまに化粧品を作ってシェアするのも魔女の集落で流行していたりする。

 それはマギリカも例外ではない。


 「若作りババアが…全く。あやつ1500超えてる癖して見た目は20代中盤くらいの見た目なのだから飛んだ詐欺だな。」

 「え!?」

 「え?」

 「いや…実年齢と見た目年齢のギャップに驚いただけににゃん。気にしないでにゃん。」

 「ち…人騒がせな化け狸だな…」

 「狸じゃないにゃん!というか恩人にその言い方はないにゃん!そう言うとこも知り合いにそっくりにゃんねぇ…」

 「貴様の知り合いなど知らん。」

 ツンツンしているヴラムに憤慨するハチ。


 見かねたエーデルが間に入る。

 「まあまあ。ごめんね?コイツ素直じゃなくて口が悪いのよ。あとヴラム?あんた少しは治さないと嫌われるわよ?」

 「ち…」

 「ヴラム様!ご安心ください!このシュリ!例えヴラム様の口がクソでも性格がクソでも絶対に嫌いにならない自信しかありません!

 寧ろ少しゾクゾクします!」

 「変な扉を開くな!」


 シュリはキラキラと曇りなき眼で語るが言ってる言葉がアレなのでヴラムはゾッと背筋が凍った。自身の腕を摩っている。

 「….く…不本意だが治すしかないな…」

 しかし皮肉にもヴラムの欠点克服に火をつけ始めていた。


 「あの鬼人の子…いつもああなのかにゃん?」

 「うん…ご主人様ラブだから…」

 「大変にゃんね…」

 エーデルとハチはコソコソと話してヴラムを哀れそうな目で見る。シュリは相変わらず尊敬の眼差しだ。ヴラムは眉間に皺を寄せている。

 その内癖がつきそうである。エーデルは折角の綺麗な顔が勿体無いと感じた。


 四人はそんな調子で話しながらシラユリの町を目指していた。

 「けどさ?噂だけどシラユリの町もなんかやばいって言ってなかった?」

 「魔法で入れないとかという奴であろう。んなもん行かねば分からんではないか。」

 

 「ここ最近物騒ですよね。勇者の誘拐事件に狂魔獣病に魔法による町の侵入妨害。」

 「世の中はそう動く物にゃん。いつだって平和な時代ばかりではないのにゃん。」

 シュリが憂いていると何やら悟ったかのような口調で話すハチ。


 そんな話をしていると

 「ガルルルル!」

 目の前にウルフが3匹程現れた。ウルフはその名の通り狼型の魔物である。

 「ち!ウルフか…!む?」

 ヴラムとエーデル、シュリが襲いくるウルフに構えた。がそれより先にハチがずきんを取り

力を貯めた。すると徐々に体が大きくなり筋肉隆々の体型に変わっていく。顔も猫ではなく、凶暴な白虎だ。そして


 「うおおおお!食っちまうぞごらぁぁぁ!」

 そう雄叫びを上げた。そしてウルフ達を薙ぎ倒していく。

 「「は?」」

 エーデルとシュリはそんか変貌ぶりに唖然としていた。


 一方のヴラムは汗を一筋垂らした。そして

 「何故…貴様なのか…?"ロクロ"…」

 その声に反応したハチはシューと音を立てて元の猫の姿に戻った。そしてじっとヴラムを見つめている。


 



 「え!二人って知り合いなの!?」

 「あぁ…ただの腐れ縁だがな…200年ぶりだが…普通はありえん。獣人の寿命は人間と同じくらいの筈だぞ」

 獣人そしてついでに鬼人は人間と寿命は大体同じである。

 「…詳しい事は悪いけど教えられないのにゃん。後吾輩は訳あってもうロクロとしては生きれないのにゃ。だからハチという違う獣人として接してほしいにゃん。

 ヴラム…吾輩も君に対してはそう接するのにゃん。詳しい事も敢えて聞かないのにゃ。」


 ハチはヴラムを静かに見つめながら告げた。

 「フン…俺も貴様みたいな奴見た事ないわ。ハチという名か。仕方あるまいこの面白みのない名前敢えて呼んでやろうではないか。」

 ヴラムがハチの願いに応える事を告げる。


 「…ありがとうにゃん。君は200年前と同じで素直じゃにゃい…けど本当は優しい子にゃんね。」

 「誰が優しいんだ!たく…貴様と俺は今昨日会ったばかりの他人。分かったな。」

 そう言ってそっぽを向くヴラム。その背中を優しく見つめるハチ。


 一方エーデルとシュリ。

 「どう言う事だろ?もしかしてヴラムも昔はハチみたいに違う名前って事?いやでも獣人が200年も生きるなんて普通はあり得ないし…ねぇシュリってどうした!?」

 シュリは血の涙を流して悔しそうに唇を噛んでいる。エーデルはそんな彼にギョッとしている。


 「クソ!ヴラム様を一番理解しているのは俺だと思っていたのに!そんな情報俺の今まで書き溜めたヴラム様観察日記に書いていないぞ!

 くぅ…マギリカ様にも悔しくて仕方なかったのに!まだいたのか!俺のライバル!」

 「えぇ…何この人こっわ…」

 シュリの慟哭の叫び。その激重感情にドン引きしてるエーデル。

 そんな奴に好かれてるヴラムを哀れそうな目で見つめている。


 「エーデルちゃんにシュリ君。君たちにもお願いにゃん。吾輩の事はハチと呼んでほしいのにゃん。」

 「分かりました!というかロクロさんの事はよく知らないし…」

 「俺も別に…というか!ヴラム様の交友関係が把握できてない俺なんて従者失格だ!」

 「いや…別に知らんでいいし貴様は俺に熱を上げずに友人を作れ。」


 「みんな面白い人たちにゃんね!改めてよろしくお願いしますにゃん。あと二人とも敬語はいらないにゃんよ?」

 「うん!宜しくね。ハチ」

 「俺もよろしく頼む!後頼む!200年前のヴラム様について詳しく!うっ…」

 ドサ


 手刀を打たれて倒れたシュリ。ヴラムは

 「いくぞ…」

 冷たい声でそう話す。エーデルとハチはコクリと頷きついて行った。

 この従者。主のプライベートにズカズカ上がり込み、それを全て把握しないと気が済まないようである。敢えてハチが放っておいてくれた所を突くような事をしたのである。

 3人はシュリを置いて先に行くことにした。


 シュリは放置された。


 

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