第8話 ネズミ親子の奇跡

 Aチームside

 「クソ!夜になった!あいつらまだか!」

 空は夜の帳が下りてしまった。今現在Aチームとマウエラはマウエラ親子の家の一室にいる。スーも心配して一緒にいると言っていたが危険な為部屋のドアの外にいる。

 ドアには窓があるためそこから背伸びしてのぞいている。


 「ぐ…ぐがぁぁ…」

 徐々にマウエラの目が赤く充血し始めてハァハァと荒い息を吐き出した。エーデルはすかさず魔法を発動した。

 「"光の衣"…」

 「あ…あぐ…」

 エーデルが跪き手を祈るように組んで唱えた。するとエーデルの足元とマウエラの足元に白く光り輝く魔法陣が現れた。魔法陣から暖かくて優しい光が出現し、マウエラの体をまるで衣のように包む。するとマウエラの顔つきが少し安らいでいる。


 「マウエラさん!聞こえますか!大丈夫ですよ!貴方を苦しませたりなんてしませんから!」

 エーデルは必死に魔法を発動しながら呼びかける。

 「くそ!今日中になんて間に合うのか!?」

 ヒューベルトが焦り始める。エーデルの魔力が切れてしまったら暴れてしまう。下手したら時間がずれて昼間に発症する可能性もある。


 「大丈夫です!きっと戻ってきます!」

 「何故そう言い切れるのですか!」

 「私は…ヴラムとシュリを信じてます。それだけです。根拠なんかありません!

 でもきっと大丈夫です!信じて待ちましょう!」

 エーデルは強く意志のこもった目でヒューベルトに告げる。ヒューベルトはうっと何も言えなくなった。


 「大丈夫…信じてるよ!ヴラム!シュリ!」



 Bチームside

 「ハァハァ見つかりましたか!?」

 「いえこちらにはいませんでした!」

 シュリとゴローが夜になったため一度合流した。すると

 「フン貴様ら。なんだその情けない顔は…」

 悪態を吐く少年の声が天から降りてきた。


 二人は声のする方を向いた。そして途端に満面の笑みになった。

 奇跡が起きたのだ。




 Aチームside

 「ハァハァ…」

 「ぐるぅ…」

 「エーデルさん!大丈夫ですか!?」

 「大丈夫です。唯回復魔法を掛け続けるのはしたことがないから…」

 回復魔法は大体一瞬かければ終わりなのだ。

 しかし今回は持続させる必要がある。


 慣れない持続回復魔法にエーデルは汗を流して耐えていた。魔力自体は多めな為まだ保つがエーデルの体力はかなり減っている。

 ヒューベルトはいつでも魔法を発動できるように構えた。


 するとドアの外からスーの歓声が聞こえた。

 何事かと二人はドアの方を見る。するとドアを開けて白い狸のような猫の獣人とBチームの3人が入ってきた。


 「失礼しますのにゃん!特効薬確かに持ってきましたにゃん!」

 そう言って猫獣人は荷物入れから一粒の錠剤とお茶の入った水筒を取り出した。

 そして躊躇なくマウエラに近づく。マウエラはエーデルの回復魔法で落ち着いている。その隙に錠剤をマウエラの口に入れてお茶を流し込む。


 マウエラが嚥下するとマウエラの顔が徐々に元に戻っていく。エーデルも回復魔法を止めた。しかし暴れる様子がない。

 「気分はどうにゃん?」

 「凄い!全然平気です!ありがとうございます!」

 「お礼はそっちの男の子に言って欲しいにゃん。その子が吾輩を見つけたのにゃん。」

 猫獣人にお礼を言うマウエラ。しかし猫獣人はヴラムの方を見つめている。


 「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 「ふん…随分呆気ないものだな。」

 ヴラムは耳を少し赤く染めてそっぽを向く。

 

 「小娘。」

 「へ?」

 「貴様…攻撃魔法はまだまだだか、回復は幾分かマシなようだな?」

 「な!お前頑張ったエーデルさんにその言い方は!」

 ヴラムの言葉に反論するヒューベルトを手で制したエーデルは笑顔で


 「ふふ…大丈夫ですよ?ヴラムなりの褒め言葉だから!へへなんか照れ臭いや…」

 「ふん。褒めてなどおらん。…立てるか?」

 「うーん力抜けちゃったみたいで立てないや…お!手を貸してくれるのかね!褒めて使わそう!」

 「何様だ。全くお前は…」

 ヴラムがエーデルに手を貸すとエーデルはいつもの調子で軽口を叩く。そんなエーデルにヴラムがクスッと静かに笑った。


 その顔はいつもの邪悪な笑みではなく純粋な笑み。エーデルはそんな彼の笑顔に思わず見惚れて顔をボンっと赤くした。

 「なんだ?タコの真似か?」

 「ち…違います!」

 

 するとスーが涙を流して駆け寄ってきた。

 「父ちゃーーーん!」

 「スー!」

 スーは父の元に走りそのまま抱きついた。マウエラも愛しい息子を思いっきり抱きしめた。


 「ごめんな?怖い思いさせて…」

 「ううん!ありがとう!勇者様たち!」

 スーは嬉し涙を流して一同に礼を述べる。マウエラもずっとスーを抱きしめて泣きながら何度もお礼を言った。



 


 その後、念の為に夜に見回りをしたところ魔獣は出なくなった。スーは久しぶりに父と一緒の布団で寝たらしい。ヒューベルトの傷もエーデルの回復魔法で綺麗さっぱりと治った。


 そして次の日。


 「エーデルさんとその他!ご協力感謝致します!」

 「ありがとう御座いました!」

 ヒューベルトはキメ顔でエーデルを見つめながら敬礼している。ゴローはニコニコとお礼を言った。


 「なんだその他って!というか貴様が一番楽ではないか!小娘は延々と魔法発動したし俺達は外を走り回ったのだぞ!」

 「いや!俺はエーデルさんのナイトという職務を全うした!それでOKだ!ね♡エーデルさん?」

 「あ…はい…」

 ヴラムはヒューベルトからの扱いに憤慨している。エーデルも苦笑している。


 「シュリさんもありがとう御座いました。ハチさんもお薬を分けてくださりありがとう御座います。」

 「いやいや…俺なんて唯走り回っただけですし…」

 「まぁまぁ…助けられたならいいじゃないかにゃ?」

 シュリとゴロー。そして猫獣人のハチは穏やかに会話している。なかなか忙しい一日であった。


 「兎も角!俺達は報告書を提出しなければならんから帰る!エーデルさん?今度は二人きりで食事でも。」

 「すみません…私男性と二人きりは苦手なので遠慮します。」

 「ちっさっさと帰れ!シッシッ!」

 ヒューベルトの誘いにエーデルは苦笑しながらお断りしていて、それを聞いたヒューベルトはガクッと落ち込んでいる。

 そこに追い討ちを掛けるようにヴラムは手で払いのけるような動作をする。


 すると

 「おーい!勇者様たち!」

 「昨日はお世話になりました。」

 スーとマウエラである。6人を見送りに来たようだ。

 「その後調子はいかがですか?」

 「はいすっかり元気です。…その…実は私たちは引っ越すことにしました。」


 マウエラの言葉に6人は少し驚いた。

 「え!でも円満に解決した筈では?」

 「はい…ですけど私が村の方々にご迷惑を掛けてしまったのは事実ですので」

 マウエラは少し困った顔で答えた。罪悪感が拭えないようである。


 「そうですか…わかりました。」

 ヒューベルトはにこやかに答える。

 するとスーがズボンのポッケからバッジを六個取り出した。

 「これあげる!オイラの宝物!オイラが作ったやつだよ!」

 「息子は手先が器用でして…こうやって小物を作るのが趣味なんですよ。」

 

 「わー♡可愛いね!貰っていいの?」

 「うん!」

 エーデルはスーの差し出したバッチの一個をもらった。

 「僕はこれがいいですね。」

 「吾輩はこれがいいにゃん!」

 ゴローとハチも受け取った。


 「ふむ…何故だろ…金とは違った達成感。俺の心が浄化されそう。」

 「先輩…」

 ヒューベルトも貰って何故か涙をツーと流している。ゴロー曰く、あんな綺麗な涙見たことないらしい。


 「ヴラム様はどれになさいますか?」

 「余ったのでいい。」

 「なら俺はこれを…ヴラム様もはいどうぞ。」

 「ああ…」

  

 全員に行き渡るとスーは嬉しそうだ。

 「ではありがとう御座いました!みなさん!」

 「またね!勇者様たち!」

 親子は手を繋いで6人が村の外に出るまで見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る