2ー3.冷たい笑顔と暖かい涙

クリスマス、それは俺にとってあまりいい日ではなかった。締め切りに終われる父を背に、いつも一人で過ごしていた幼少期、サンタなんて大層な人物は一度もやってこず、「何か買え」とぶっきらぼうな字で書かれた金の入った封筒が置かれただけ。そんな寂しさを紛らわすために始めたのが料理だった。


■■


「ん~、これもおいしいです!この料理は何て言うんですか?」


「カルパッチョだよ、日本だと魚が多いけど、今回は本場風に牛ヒレ肉を使ってるよ」


「へー牛肉を、、、いや、生ですけど、これ」


「大丈夫、"今朝、取れたて"だから、新鮮だよ」


「えっ!!」


驚いて持っていたフォークを落としそうになった同居人金咲さんを見て、思い出す。


「、、古見と、なんなら父さんと同じ反応してるじゃん、」


「そりゃそうですよ!」と起こりながらも手が止まらないところも似ている。ただ、あの二人よりも圧倒的にマナーがなっている上に圧倒的にきれいに食べている。テーブルマナーも含めてここまでできていると見ているこっちの気分もよくなる。


「あ、そうだった、、これあげるよ」


そう言って少し大きめな箱を出す。ラッピングもされていない質素だが箔押のされた箱だった。


「寒くなってきたからね、良ければ使ってね」


「えっと、、開けてもいいですか?」


「もちろん、開けてみて」


■■


柴田さんから渡された箱をあける。中には薄い紙で包まれた。それを恐る恐る開ける。


「、マフラー、、」


白と黒のチェックが美しく、手触りも良い。タグを見ると「アンゴラ100%」と書いてある。


「あれ、アンゴラってウサギなんだっけ?」


「アンゴラウサギの毛だよ、カシミヤよりも柔らかいし艶があってね。一回巻いてみなよ」


言われた通りに巻いてみる。彼はすぐにコメントをしてくれた。「似合ってる」「ピッタリだよ」そんな言葉を聞いていると、自然と涙がこぼれてきた。


「えっ、ぁ、、大丈夫?」


「大、じょ、う、、ぶ、、れす」


普段の自分では考えれない大粒の涙がこぼれてくる。こんなにも涙が溢れるのはいつ以来だろうか。そんなことを考えている間も涙は溢れ続けた。


「なんでだろう、涙が、、止まらなくて」


「そんなに泣かれてもこっちは何とできないんだぞ、、」


そう言いながらハンカチを差し出す彼は、苦笑いしながら見守ってくれる。その優しさを感じながら私はいまだに涙がで続けていた。


■■


まずいまずい、自分に合わないからと渡したマフラーでこんなに泣かれた、、、。


「ほんと、どうしよう」


暖かい涙を流す彼女を前に、ただただ苦笑いする事しかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る