11.甘い朝は計画の内

朝6時半、朝食の仕込みをしていると同居人は相変わらずな格好でリビングへやってきた。


「昨日はよく寝れたかい、私は寝てないけど」


「はい、あのあとはぐっすり、、って寝てないんてすか!」


「一昨日に寝すぎてね、巻きを戻すためにオールだよ、大学は午後からだしね」


作業が遅れたのは本当だが、徹夜するほどのものではない。周りが納得する理由をたった今でっち上げただけだ。


「なるほど、小説家ってこんな大変なんだ」


素直に信じられて自分でも驚いたが、なんだか悪いことをしたみたいで気分が悪いな、、。


「てか、ずいぶん早く起きたね。昨日7時でも間に合うとか言ってなかったっけ?」


「今までは6時起きだから、癖で早く起きちゃったのかも」


「癖はなかなか抜けないよね、ちょっとわかるよ」


そうこうしているうちに、フライパンの上のパンは狐色に焼き上がり、部屋に甘ったるいフレンチトーストの匂いが充満する。


「できたから、テーブルに座っといて」


そう言ってテーブルに向かわせる。最後に両面にしっかりと焼き目がついたか確認して、更に盛り付ける。


「朝はフレンチトースト、これがジャムとバター、メープルシロップは好きにつけてね」


「あれ、柴田さんはなにを」


「俺は先に食べたから、ごゆっくり~」


一言残して、部屋にもどる。リビングを出た瞬間、小さく声にだした。


「キマッター」


多分彼女は、「手際よく料理をして人の気遣いができる大人」を見ているだろう。これは(多分)カッコよい、いや、カッコよくないはずがない!そんな風に自分を鼓舞しながら、身支度を整えるために洗面台へとウキウキで向かっていった。


■■


「、、かっこいいな」


ジョーク混じりに話す彼を後ろから見ていると、口から言葉がこぼれた。


「あっいや、あ、ぁ、、」


そこにはもうだれもいないのにひどく赤面してしまう。昨日の夜しかり、妙に色気があり、艶やかな彼を見ると、「天然の女たらし」と呼ばれる理由がわかった気がする。


「こんなの、かなわないよ」


紳士的で、どこか柔らかく、砕けといる。その根底にあるダウナーな雰囲気は、まさに「クズ男」みたいな雰囲気なのに、人を意識してしっかりと線引きした態度を取ってくる。恋愛ゲームのように攻略したい欲をかき立てられるその姿を尻目に今の私は顔を赤くする事しかできなかった。


「にしても、カッコよかったな、、」


今は只の同居人だが、いつか別の関係になりたい、なんて思いながら朝食を済ませる。少し焦げ目のついたフレンチトーストは甘く、ほんのり懐かしい香りがした。

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