2ー6.消えた先には痛みしかなかった。

「いなくなってる?」


部屋を開けたとき、寒い風が吹くのみで、部屋には誰もいなかった。


「柴田さん!、柴田さん!?」


急にいなくなったことでさっきの冷や汗とは違う嫌な汗が身体中から出ている。部屋を飛び出し、リビング、風呂場、玄関、庭、全てを探すが「ドコニモイナイ」。


もう一度彼の部屋に戻ると、スマホが鳴っていた。恐る恐る画面を覗くと、「柴田カイト」とある。確か、彼の父親の本名だったか。せめて父とかにすればいいのに、、。


「あの、もしもし」


「おい、環、大丈夫か、おーい、こっちはアウトだよー、ついに捕まっちまった~」


「あの、柴田カイトさん、ですよね?」


「おー、その声、金咲ちゃんじゃない、環に変わって欲しいんだけど、大丈夫?」


「あの、えっと、その、、いなくなっちゃってて」


「、、マジ?」


「はい、えっと、マジです」


「わかった、すぐそっちに向かうから、少し待っててね。俺がつくまでひとまず家にいて」


「わかりました。あと、さっきからうっすら雑音が聞こえますけど、今どこにいるんですか?」


「今?、えっとね南極」


「、、ふぇ?」


一拍おいて、なお理解が追い付かない。


「えっと、できればもう一度」


「えっとね、南極、あ、詳しい場所は南極の昭和基地ね」


「は?」


「あ、じゃあこっちで話し合わせとくから、明日の内に変えれるようにするよ」


「えっと、、」


「あ、お土産は南極の氷にしとくよ、他にも砂漠のサボテンだったりエベレストの岩塩だったり色々あるから」


「あの、そうじゃ、」


「じゃあ、明日くらいにまた」


「えっ、ちょっ」


ガチャ、ツーツーツーツー


「、、ウソーン」


普段言わないようなことを言ってしまったが、、。なに?、南極?エベレスト?どこまで行ってるの?柴田さんを探したいけど、いまはこっちの方が気になっている自分がいることに後ろめたさを感じながら冷えてしまった部屋の窓をそっと閉じた。


■■


「やっぱりダメじゃねーかよ、柴田さん、いや、『藤原』」


目の前にはただ嗚咽を語りながら獣のようになった親友悪友がいた。


「化けの皮被りすぎて自分が分からないようだから言ってやる。今のあんたは只の"奴隷"だ」


そう語った瞬間、こっちに向かって走り出した。大振りな拳を受け流し、足を払うが、失敗。先にジャンプされ躱された。


「意識あんのか?、それとも経験と本能?」


足払いのために低くした姿勢を手を使って立て直し、足による一撃を顔面にぶちこむ。右頬にヒットし、痛みで顔が歪んでいる。


「そんな顔、世間に出回らないといいな、『藤原』!!」


そう言い放ち、身体の姿勢を安定させる。全身の神経を集中させ、藤原こいつの放つ単調な右ストレートのパンチをかわす。その瞬間にできた僅かなスキ、右の横腹に一撃カウンターを畳み込む。


「渾身のボディーブローだ、『藤原』を返しやがれ『害虫』が」


一瞬、断末魔をあげたが只でさえまともに無い意識にこの一撃は耐えられることはなかった。意識を完全に失い、倒れる親友バカをみて、一言だけ呟いた。


「"こんなの"にやられるなよ、お前はそんなやわなヤツじゃねえだろ」


もう一度、親友こいつを見る、体をピクピクさせ、明らかに痙攣している。


「、、ヤッバ」

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