2.キリマンジャロとブルーモーメント

リビングに行くとすでにカーテンは開いており、夜明け前の空は美しい青に染まっていた。


「ブルーモーメントだっけな?カーテンの隙間から見えてね。」


一息ついてから父は話を続ける。


「案外なにも考えずに見る空ってのは物悲しいね、。」


「その物悲しいさが、美しく見えるのかね」


「なるほどな、、未亡人が美しく見えるのと同じ理屈か、、。」


「ごめん、多分違う」


朝から何を言っているのかと思ったが、「そうか、惜しかったなー」と言って笑う義理の父父さんはなんだか嬉しそうだった。


「、、また"あの頃"の夢か?」


革張りのソファーに座った義理の父父さんが話かけてくる。


「まぁ、そうだね。病院の夢だったよ」


少し気まずい雰囲気で話しを返したが、義理の父父さんは気にする素振りもせずに話し始めた。


「懐かしいな、おまえが8歳の頃"施設"から連れ出してすぐの時は、よく泣きながら俺のところに来てたな。」


「いつの話だよ、、急に昔話とかろうじんk


「おまえがうちに来てから早11年だ。」


義理の父父さんは懐かしい風景を思い出すかのようにうっすら笑いながら話を続けた。


「あの頃、おまえはかなり荒れてたよ。いまも不眠症だが、子供の頃はもっとひどかったからな。その割にはちゃんと背が伸びて安心したよ。」


「ほんと、身長だけはいっちょまえに180あるからね、」


「それに、こんないい子に育ってくれてよかったよ」


そういってから父さんはゆっくりとカップを持ち、中の激甘のコーヒーを口に入れた。


「てか、父さんはこんなまったりしていて大丈夫なの?締め切り大丈夫そう?」


「ああ、あとは後書きだけだよ。今回のは無駄っていうくらいアイデアがでてきたからね。我らが日本の天才ミステリー作家、柴田カイト(柴田 かいと)の最新作をお見逃しなく。」


父さんは世界的にも有名な小説家だ。数年前にミステリー系統の作品で大当たりして以来、ひっきりなしにサイン会やら講演の依頼が来るほどに。


「そう言うおまえはどうた?天才大学生作家、柴田環(しばた めぐる)先生。」


「今日、出版社に出しに行く。それが終われば次は大学の課題だよ、」


笑いながら、「大変だな」といいながらも人がしゃべっている間にも生ハムを食べ続ける父さんは心なしか嬉しそうに見えた。一緒になってサラミを口にいれ、飲み込む。その後にコーヒーを口に入れる。出版社の人からもらったキリマンジャロのインスタントコーヒーはいつものコーヒーよりも味わい深く、ミルクや砂糖を入れた父はひどくもったいないことをしたと心の中で嘲笑った。

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