3.10℃の朝

父さんと静かな朝の一時を終わらせると、お互いに違う行動をした。おそらく父さんは自分の原稿を仕上げに行ったのだろう。自分も急いでシャワーを浴び、全身の汗を流した後に、午前中に出る予定の講義の持ち物を確認する。ルーズリーフに財布、ペンケースにワイヤレスイヤホン。いつでもアイデアを書けるように、先日買った革張りの手帳に万年筆を携えて、すべてリュックに入れる。


「一応、名刺も持ってくか。」


名刺の入ったケースをポケットにいれる。時間を確認すると、時刻は6時42分。今日は8時30分からの講義に行くから。7時に出ればいいが、何となくで少し早い時間に家を出ることにした。


「いってきまーす、」


おそらく父さんは"ゾーン"に入ったのだろう。普段だったら答えてくれるが今日は返事がなかった。


家を出て、駅に行き、電車に乗る。大学までは合計30分ほどだ。


「そろそろ自立しなきゃな、、」


まだ四歳の頃、布団の上で奇妙な"躍り"をしていたのを"当時の親"が見つけた。その後様々な医療機関へ通ったものの、「夢遊病の一種」としかわからなかった。最終的に"施設"、要は精神病棟に3年もお世話になった。周りで常に誰かが発狂し、常に職員が動き回っている環境はもう二度と体験したくない。そんな憂鬱で狂った日々を過ごすなかで、途端に症状がおさまってしまった。それ以来は、(父さん曰く)数回しか踊っていないらしい(なお、踊っている日がすべてお盆の時期らしい)。しかし、両親は"忌み子"を産んでしまったと思ったのか、私が7歳の頃に人知れず山中で自殺していたらしい。いざ"施設を"出ようとすると保護者がいなくなっていたため、今の義理の父父さん、柴田 海人(しばた かいと)が里親になったらしい。なぜ自分を引き取ったのか聞いたことがあるが、「同じ"匂い"がした」らしい。だからこそ20歳になる来月からは、自分の力で生きていけるように父さんのように小説を書き始めたのだが、、


「ねぇねぇ、柴田 環先生の最新短編集が2月に出るんだって!、2ヶ月後が待ち遠しいね」


「ほんとにね。お父さんがミステリー系統だけど、息子の方は"ライトノベルの申し子"なんて言われてるんだって」


悪い気はしないがそんなプレッシャーはかかりたくなかった、、。とまあ、時代にあっていたのかそこそこ有名になっていた。


「なろう系の主人公じゃあるまいし、そんなポンポン作れる訳じゃないってのに」


と思ったが、締め切りに終われる日々は案外充実しているし、ちやほやされるのは案外悪くない。


電車から出ると、身体中に寒さがまとわりつく。


「10℃くらいかな、、。」


トレンチコートのまえを閉める。カッコつけて買ったパイロットウォッチ腕時計で時間を確認する。喫茶店に寄るくらい余裕がある時間だ。暖かいコーヒーでも飲もうか、、。そう考えながら、駅のホームを進んでいった。

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