2ー12.カウントダウンは遅すぎる

「何話してるんだ」


とんでもないことを言われてどれだけ固まっていたか、話しかけられて気がついた。


「いや、紅白でもみる?って話してた」


「なんだ、そんなことかよ。チャンネル争いは勝手にしてくれ」


「ここは一重に大乱闘で決着をつけようかね」


「やらねーよ、つかそのゲームでその訳の仕方るやつ初めて見たわ」


「そんなこと無いぞ、なんならやってみるかい?抵抗するかい?拳で」


「あんたは21歳じゃねぇだろ」


「お試しに一発やり合う喧嘩は青春時代しか経験できないのか?ある時は、かつての宝の地図を片手に森や山々を散策したり、またある時は、映画を見て子供のように感情任せに泣きじゃくるのは子供の特権かい?」


「バカ言ってないで蕎麦を食べろ、蕎麦を。汁吸ってのびるぞ」


「おっと、こりゃ失礼。そんじゃあ、いただきます」


そう言って蕎麦を食べ始める父さんはかなり面白い。ガキみたいに食べることだけに心血を注ぐ様はみてるこっちも笑えるし、作り手からすればうまそうに食ってくれる。これ以上無い賛美だ。


「はーい、他三人のお蕎麦持ってきたよ~」


お盆にのせた蕎麦を運ぶは、昔からこの家にいると思うくらいに馴染んでいた。


「あと、チャンネルは紅白ね。私の好きなバンドが出るんだよ、名前はね」


『続いてのアーティストは、疾風のごとく現れた五人組バンド。「流星」の代表曲、「星屑」です』


テレビから声が流れる。そしてバンドのメンバーが写される。


「、、古見?」


「このバンド知ってるの?いまだにライブハウスメインの活動だけどココ半年で人気爆上がりしたんだよ。この「星屑」って曲なんかは再生回数2億回越えだよ!」


「「Oh.............」」


横を見ると澪ちゃんも同じ顔をしていた。いや、だって、、あの古見だぞ?俺にボディーブロー食らわせたあの、、古見が、、、。


「、、今度会ったらサインだけもらお」


「わたしはもっとギター教わろ」


というか、ぶっちゃけかなり恥ずかしい。理由は単純明快だった。


「ありがとうございました。こちらの曲は小説家の柴田環さんとのコラボ曲だそうで、」


「そうですね、プライベートでも仲良くさせてもらっています」


何度も聞いた聞き馴染みのある声がテレビから聞こえる、、。


「世の中どうなるかわからないな、、」


「うん、、ほんとね」


実を言えば、今年の正月はあいつらと飲みに行くつもりだったが、、。


「そりゃ断るわけだ、てか断らなきゃって感じだな、、。」


それからかなりの時間がたっただろう。呆気にとられる俺を置いて、時計の針は12時を指した。

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